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クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん) クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん) ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)  ロジエ・ヴィオーラ・バカラ(ろじえ・う゛ぃおーらばから)



クリストファーとクリスティー。二人のモーガンによると、俺はヤードに捕まらないほうがいいらしかった。

もちろん、俺だってはじめからそんなつもりは、毛ほどもなかったし、あいつら二人と長々話したあげくにわかったのは、どうやら本当に殺されちまったらしいおいぼれアーヴィン同様に、俺にも危険が迫っている可能性がある、ってことだ。

なんで俺が殺されなくちゃいけないのか、さっぱりわからないけど、クリストファーが言ってたように、汚い金儲けが大好きだったアーヴィンが、どっかで人のうらみを買うようなマネをしてたって話は、じゅうぶん、ありえる。
というか、俺にくわしく話してくれたりはしなかったが、ヤバイ仕事に首を突っ込んでたのは確実だ。
俺たちは注文を受けた家具をこしらえるのが仕事なのに、頼まれてもいないものを何日も徹夜してつくったり、出来あがるといつの間にか作業場から消えてたり。
だいたいそういうのは、俺には設計図をみせてくれなかった。
俺は言われたままに手伝うだけなんで、別にみなくてもいいけど。
そんな表にだせないアーヴィンの裏の仕事関係の人間が、クソおいぼれの家に一緒に住んでた俺もついでにうらんでるとしても、俺は驚かない。
まったくの逆恨みだけどな。

「ようするに、だ。
ヤバイ仕事でつながりあったらしいデュヴィーン男爵とオヤジ、そんで次に俺がヤバそうなのは、わかったぜ」

「実は、俺は、きみが二人を殺した犯人じゃないかとすこしは疑ったりもしてたんだよね」

「なんだ、それ」

「ごめん。ごめん。
きみと直接、会ってそれはないってわかったよ」

「どーゆー意味だよ。クリストファー坊ちゃん。あんた感じ悪いぜ。
クリスティーちゃんはそのまんま女になってもいいくらい、美人で気立てがよくて、かわいいのによ」

「あははは。そうかい。すまないね。
ところで、感じの悪い俺から、きみのこれからについて提案があるんだ。
ヤードに身を任せるのは、危険だと思う。
大きな組織だし、内部に危ない連中とつながりのあるやつがいないとも限らないからね。
一連の事件の全貌があきらかになるまでは、どこか安全なとこに身を隠すのが一番だよ。
なんなら、俺が紹介しようか。
前に火事になったマジェの中央教会の廃墟に、きみみたいな少年に親切な知り合いが」

つまり、クリストファーは俺に、事がすむまでひっこんでろ、と言いたいわけだ。

「貧乏人の偏屈職人のもらわれ子の俺が、ヤバイやつらに命を狙われてて、安全にすごせるとこなんてマジェにはねぇだろ。
俺はアーヴィンじじいを殺したやつをみつけたいね。
探して、あの死にぞこないをわざわざ殺してくれて、ありがとうって、礼を言ってやるのさ。
ホモ神父で有名な教会? ありえねぇ。
どこにいてもどうせ危険なら、好きなようにやらせてもらう」

「だったら、ボクが紹介するよ。
アーヴィンさんの友達、ペンフレンドがいま、マジェにきてるんだ。
ここしばらく音信不通だった彼を心配してあいにきたんだって。
その子なら、他の人の知らないアーヴィンさんの秘密を知っているかもしれないよ。
自分なりに調査するにしても、なにか手がかりを必要でしょ」

クリスティーは俺の返事を待たずに、端末でそのお友達とやらに連絡をとった。
よく気がきくやつだぜ。

というわけで俺は、クリスティーの段取りでマジェの巨大複合アパートメント、石庭(ストーンガーデン)でケイラ・ジェシータとロジエ・ヴィオーラ・バカラに会うことになった。

石庭に住んでる千何百人だかは、仲間意識が強いっていうか、マジェのほかの住人と自分たちを区別して考えてて、石庭全体で一つの家族みたいにやってる。
実際、親戚かなんかも多いらしい。
石庭の連中がヤードと仲が悪いのも、いまの俺には好都合だ。
よっぽどの事件でも起きなけりゃ、ヤードが石庭にきたりはしない。
聞いた話だと、すこし前に、人殺しのノーマンのゲスに荒らされてから、石庭内の結束がますます強まって、いまでは、観光客の出入りの他は、石庭以外のマジェの人間とはほとんど普段付き合いをしていないそうだ。

「こんにちは。家具職人のオリバーさん、だよね。
自分は、ケイラ・ジェシータ。
この子は自分のパートナーのロジエ・ヴィオーラ・バカラ。
ネットのマジェの掲示板にアーヴィンさんの行方を探してることを書いておいたら、今朝、薔薇学舎のクリスティー・モーガンさんからメールがきてね。
すごくびっくりしたんだ。
アーヴィンさんは、気の毒だったね。
自分は彼とお会いしたことはなかったけど、ご冥福をお祈りするよ。
それで、いまから1時間くらい前にクリスティーさんからまたメールがきて、オリバーさんが自分らに話を聞きたいって」

約束したカフェのテラスの席に座っていた俺に、ケイラとロジェとやらが近づいてきた。
ちょうど、テラスにいた客が俺だけだったので、こいつらは迷いもせずにいきなり話しかけてきたってわけだ。
契約者とパートナーの若い女の二人連れは、マジェならまだしも、石庭ではすごく目立つ。
石庭の住人とこいつらとは、雰囲気がやっぱり全然、違う。
石庭が本や新聞の挿絵の世界だとしたら、こいつらは舞台の上の役者たちみたいだ。
イキイキしすぎてるっていうか、きっと毎日が生きてて楽しいんだろうな。

くそっ。

カフェの客たちが、窓ごしにみんなこっちをみてる。

「あの、来てくれたのはありがたいんだが、歩きながら話そうぜ」

俺が席を立つとケイラとロジェも黙ってついてきた。

「あんたら、ここでは人目をひくからさ。
一カ所に止まってるよりも、動いていた方が、まだ、注目されないだろ」

「なるほどね。かもしれない」

どうやらケイラは気のいいやつらしく、あっさり納得してくれた。
女でもこういうあっさりしたやつとは付き合いやすくていい。

「我は、我はアーヴィンと一度、会って話しがしたかったのです」

紫っぽいドレスのロジェは、白い肌で、華奢で、小さくて、みるからに女々してる。
しゃべりかたからして、どっかいいとこのお嬢様なのかもな。

「ずっと手紙のやりとりをしていたのですが、ここ数か月、我が手紙を送っても返事がこなくなって。
お互いにペンネームで呼び合う中で、性別も本名も秘密という約束でした。
ですが、アーヴィンはたまに手紙の中で自分はマジェで一番年長の家具職人だと書いていたことがあって、調べたらすぐにわかりました。
自分の技を子供に伝えなければ引退はできないとも書いておられましたよ」

「そいつは残念だったね。
俺が思うには会わなくて正解だった気がするな。
あんたが売春婦好きのアーヴィンと会ったら、がっかりするだけじゃすまなくて、とんでもなくひどいめにあってたかもしれないぜ」

「亡くなった人を悪く言うのはかなしいことです。
オリバーはアーヴィンが亡くなったのがかなしすぎるのではないでしょうか」

「どうだろうな」

たしかに、せいせいしたとか、すっきりしただけじゃ、片づけられない気持ちはあるかもしれない。
いいも悪いも、思い出がたくさんありすぎて、かなしいんだがどうだかわからなくなってるんだ。

「これからは、これはオリバーが持っていてください」

ロジェは手提げの紙袋を俺の胸におしつけてきた。
袋の中をのぞくと、アーヴィンがロジェに送ったらしい手紙の束がはいっている。

「俺がもらってもさ」

「アーヴィンさんの手紙に今回の死の謎を解く鍵があると思うんだ。
自分やロジェが読んでなんでもないところでも、オリバーさんが読めば、秘められた意味がわかるかもしれないよね」

ケイラの言葉にロジェは、首をたてに振った。