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ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ) ローザ・オ・ンブラ(ろーざ・おんぶら) サン・ジェルマン(さん・じぇるまん)  遠野 歌菜(とおの・かな) 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)



「悪い相談をする時は、不思議とおかしな気分になって、思わず笑ってしまうもんだよね。
こんにちは。
僕はヘル・ラージャ。
君が家具職人アーヴィンの養子のオリバーくんか。
突然だけど、僕はきみを観察しにきたんだよ。
品定めとでも言っておこうかな」

ヘル・ラージャは貴族らしい高価そうなチョッキ風の上着とズボンをはいた青年で、ブロンドの髪、左右色の違う目をしていた。

「ごめんね。
オリバーくんが僕の試験に合格すると、きみらの申し出はすべてムダになると思うよ。
それでも、僕をうらんだりしないでね。
僕だって女性をうらんだりしたことはないからさ。
もともと女の子は好きではないけどね」

ローザとサン・ジェルマンは、すこしだけヘルを眺めると、互いに顔を見合わせ、頷きあって、俺から離れていった。
どうして二人が行ってしまったのか、俺にはわからない。
アンベールたちを殺すのも、キャロルを生き返らせるのも、俺はどちらも断っていないのに。

「2人ともカンも物分りもいいんだね。
女の子にしとくのは、もったいないよね。
いちいち説明しなくても、話がわかる人って僕は好きだな。
だって、ムダ話をしてるよりも、こうして側にいてイチャイチャしてたほうが楽しいし」

俺よりもずっと背の高いヘルは、膝を曲げて、顔の高さを俺にあわせると、いきなり、俺の頬にキスをした。

「ぐわ。なんだよ。おまえは」

「あっははははっは。ぐわ、だって。なにそれー。リアクションがかわいすぎるー。
あいさつだよ。
ただのあいさつ。
きみは子供すぎるから、まだ僕の好みじゃないんだ。
安心していいよ。
って、なにが、って話だよね。
はっははははは。
僕はね、きみが本気で恋人を好きか知りたいんだ。
女の子と恋をするなんて、僕にはありえない話だけど、きみは真剣に命をかけて、それをしてるんだろ。
ね。
嘘や遊びやおもしろ半分じゃないんだろ」

「当たり前だっ」

さっきのキスといい、ヘルのふざけた態度に俺は怒鳴った。

「ふざけんな。俺は悪魔と契約したっていいんだ。
おまえのいたずらに付き合ってるヒマはない」

「僕は愛のために熱くなってる人をからかって喜ぶほど、意地悪じゃないから、大丈夫」
「おまえのテストなんか俺には関係ない。
俺は、ローザやサン・ジェルマンの力を借りるから、おまえはどこへでも勝手にいっちまぇ」

ヘルの体を押しのけて進もうとした俺の手をヘルは握り、青と紫の瞳で、俺の指をまじまじと眺めた。

「指輪。まだしてるんだね」

俺が作った、キャロルとお揃いの銀の指輪だ。
遠野歌菜に渡されて、いまは2つとも俺の左手の薬指にはめてある。
ヘルは俺に指から、指輪を1つ抜きとった。

「おい」

「私はなにも後悔しない。
殺されることも、決められた運命だったのです。
だから、私はすべてを許します。
ありがとう」

俺がとめる間もなく、ヘルは器用に石を外し、小さく折りたたんで台座の下に隠してあるキャロルからのメッセージを声にだし、読み上げた。

「なるほど。
これを読んじゃったんじゃ、もうとまらないよね。
後悔と想いは強まるばかりだ」

すこし前に読んだばかりのメッセージを今度はヘルの口できかされ、俺は、自分のあまりの力のなさに、また、頭が、心が、からっぽになった気がした。

「僕がここにメッセージが隠されているのを知っているのは、不思議だと思わないかい。
僕は、あの子に教えてもらったんだ。
あの子は、出来ればきみにこれを読んで欲しくなかったみたいだよ」

あの子に教えてもらったんだ?

あの子。

「あの子」

「きみが大好きなあの子さ。
僕はきみの気持ちが、いろいろ知ってしまったいまも変わっていないかテストしにきたんだ。
結果は、残念ながら合格。
僕は呼雪に、こないでって連絡しないまま、5分がすぎてしまった」