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ゼンゼンマンが通る

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ゼンゼンマンが通る

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二章

 太陽がそのまま護送車を照りつけるせいで、車内の温度はかなりのものだった。
 この護送車の中には囚人と女性のコントラクターしかおらず、むせるような暑さの中で汗ばんでいく女性を見て囚人達の目が血走っていく。
 異性と出会うことが絶無の囚人の前に異性を同乗させるなどライオンの檻に肉を放り込むようなものだ。
 そんな血走った目を見つめながら神月 摩耶(こうづき・まや)は余裕の笑みを浮かべる。
 足を組み直すとかなりの短さのスカートが揺れて、男達の視線が一斉に集まる。摩耶はその視線を楽しんでいるようだった。
 そんな時、車体が大きく揺れた。
「きゃ!?」
 摩耶は大きく体勢を崩すと、囚人の腕に抱きついた。囚人の目がさらに血走る。
「うおおおおお! もう我慢できねえ!」
 男は叫ぶと、摩耶の胸を鷲づかみにした。
「やだ……! もう、乱暴しないでよぅ……」
 摩耶は恥ずかしそうな声を出しながらやんわりと抵抗するが、その抵抗が囚人の欲望の火に油を注ぐ。
 摩耶の弱い抵抗など全く意に介さず囚人は摩耶の身体を両手でまさぐり始める。
 その様子を見て、他の囚人達も我慢の臨界点を突破させた。
「お、俺もやってやる!」
「俺もだ!」
「我慢なんて出来るか!」
 囚人達は手錠をつけたままコントラクターに襲いかかった。
 董卓 仲穎(とうたく・ちゅうえい)は襲い来る囚人達を見て口元に微笑を湛える。
「乗ってきましたわね……あん♪」
 囚人達の手が董卓の身体に触れると、董卓は嬉しそうに身を捩り、その扇情的な姿が男達の欲情を煽る。
 無数の手が伸び、董卓の服がはだける。それでも董卓は嬉しそうな微笑みを絶やさずに男の欲望を受け入れる。
「何だよ……お前たちもその気だったのかよ」
「野暮なことは言いっこなし。……楽しみましょう?」
「……!」
 挑発的な笑みを浮かべる董卓に我慢が出来なくなり、囚人は舌を出しながら董卓の唇を奪った。
 摩耶は少し抵抗を続けながら、じゃれるように男達の手を払っている。
「あああ! じれってえな! おい、こいつの手足抑えとけ」
 一人の声に他の囚人は何も考えずに摩耶の両手を掴んだ。
「や……! 離してよぉ……!」
 摩耶は身を捩るが男達はニヤニヤと笑みを貼り付けるだけで、何も答えない。
「こいつうるせえな……。黙らせるか」
 囚人はそう言うと、摩耶に自分の指を咥えさせた。
「んん〜! むうぅぅ……!」
 摩耶の声はくぐもり、男達の笑みはより濃いものになる。
 それを尻目にクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)は他の囚人達の周りに立つ。
 自分を抱き寄せるようにすると、豊満な双丘を寄せて見せ、まるで教育番組のお姉さんのような口ぶりで囚人達に声をかけた。
「こら〜! 君たち、女の子に乱暴はダメだぞ? 大人しくしてたら、イイことがあるんだから♪」
 囚人達はその言葉と仕草に、下卑た笑みを見せる。
「イイことなら、今からでもできるぜ?」
 そう言って、クリムのお尻を軽く撫でる。
「やだ!」
 クリムは自分のお尻に手を隠して触った方に向き直るが、そうすると背後から忍び寄った囚人が上から輪をかけるようにクリムの身体に腕を回して抱きしめた。
「へっへっへ……捕まえたぜ〜……」
 囚人は舌を伸ばしてクリムの耳を舐める。
「ひう……!」
 クリムは前屈みになって囚人から逃れようとするが、囚人の手には手錠がかけられており、腕から逃れるには下をくぐるか、上を跨ぐかしか方法がない。
「ほら、お前らも楽しもうぜ?」
 囚人に誘われて他の囚人達も近づいていき、きめ細かい肌を楽しむように胸や太ももを触り、衣服をどんどん脱がされていく。
 下着姿になり、男達は嬉しそうに声を上げる。
「あぁぁっ、脱がしたら駄目っ♪ そんなところ、んむふぅぅっ♪」
 クリムが叫ぶと、口を塞がれる。頬を染めて、目を潤ませながら訴えるように囚人を見つめるが、囚人達は気にせずクリムを辱めていく。
 パートナーであるアンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)はそんな車内の状況が外に見えないように見張りをしていた。
 特に三人の動向にも気を配っていないように見えて、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)はこの異常とも言える光景に声を震わせながら、アンネに声をかけた。
「あ、あの……あの人たちとは友達なんだよね……? 助けなくていいの?」
 その問いにアンネはニッコリと微笑んで見せる。
「大丈夫ですよ、三人とも囚人を挑発するために乗ったのですから……組決めは、運がなかったですね? 人数を分けてここに入ってしまうなんて」
「そんな……」
 アリアは愕然としたように顔から血の気を引かした。
 熱気と男女の汗や体臭が混じった匂いがこもり、頭が壊れそうなほどの恐怖を感じた。
「怖がらなくても大丈夫……こちらから差し出せば、向こうもそれ以上のことは……あぁ……♪」
 不意に、アンネは胸を乱暴に揉まれて甘い声を上げ、アリアは目の前の光景にただただ震えた。
「お前たちも寂しいだろ? 俺達が相手してやるよ……」
 そう言って、アンネが答える間もなく数人で組み敷かれて乱暴に衣服をはぎ取られてしまう。
 囚人達はアンネの白い肌に触れると、アンネはくすぐったそうに腰を浮かせた。
「なんだ? お前、震えてるのか? だったら、やさしくしてやらないとな」
 そう言って、囚人がアリアの肩に手を置く。
「いやっ!」
 アリアは逃げるように囚人から離れた。四人のじゃれるような抵抗では無く、肉食獣から逃げる草食動物のような本気の逃走。
「へへっ……いいねぇ、娑婆にいたころを思い出すぜ……。おら! 大人しくしろや!」
 突然、囚人がドスの利いた低い声で叫ぶと、アリアを押し倒してマウントポジションを奪う。
「いや! やだ……! お願い離して! こんなのいやあああああ!」
 アリアは暴れるが、この体勢から繰り出される拳の力などたかが知れている。
 囚人は殴られているのも快楽の一つであるように笑みを崩さず、服の裾に手を忍ばせてそのまま捲り上げるように上着を脱がすと、そのまま相手の反応を見るようにゆっくりと胸に手を置いて、ゆっくりと動かし始めた。
「やだ! やめて……お願い……」
 アリアはしゃくりをあげて泣き出してしまう。
 羞恥心で顔を真っ赤にしながら涙を流していると──突然、護送車の天井が真っ二つに裂けた。
「なんだぁ……?」
 囚人の一人が訳も分からずに上を見上げると、
「げぶぁ!?」
 間髪入れずに頭に大鎌が突き刺さり、そのまま股まで真っ二つに引き裂かれた。
 当たりに鉄さびのような臭いが充満し、男達の声も静まりかえる。
 その中心では大鎌から血を滴らせているゼンゼンマンが立っていた。
「……汝らに問う言葉はすでに持ち合わせていない」
 それだけ言うと、ゼンゼンマンはバットのスイングのように大鎌を全力で振るう。
 瞬間、立っていた男達は全員首を刈り取られ、糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちる。
 決して広いとは言えない護送車の床は血で満たされ、血しぶきがゼンゼンマンにかかるが、ゼンゼンマンは何も言葉を発しない。その姿は怒りに震えているようにも見えた。
「んもう! 折角盛り上がってたのに! 邪魔しないで……って!」
 摩耶が武器を取ろうとするが近くにいた男達が怯えてしまい、まともに身動きが取れなくなってしまう。
 それは董卓やクリムも同様だった。
 その一瞬の隙をつくようにゼンゼンマンの巨大な鎌は囚人達の魂を容赦なく刈り取っていく。
 摩耶たちに覆い被さるような格好の囚人達も綺麗に急所を捉え、摩耶達は返り血を浴びるが四人とも怪我を負うことは無かった。
 すでに護衛の対象を殺されきったため、四人に戦闘の意思は無くゼンゼンマンもそれを悟ってか背を向ける。
「男を誘うなら、相手を選ぶことだ」
 それだけ言い残すと、ゼンゼンマンは身体についた血も拭わずに次の車両に飛び移り、聞こえてくるのはアリアのすすり泣く声だけだった。