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海の香草

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海の香草

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1章 海の香草を求めて


 海の中。太陽の光が水によって和らげられ、海中をきらきらと照らしている。
 ハーブを採取するメンバーは、ザカコが用意した採取したハーブを入れておくための小さめの籠を腰に装着し、アーデルハイト特製の丸薬を服用していた。
 丸薬は、あまり長い時間は持続しないが、水中でも呼吸できるようになるという優れものだ。

「リオン、腕はこう。そのままだと沈むだけだよ」
「こう……ですか?」
「そうそう。あ、足はさっき言ったとおりのままでね」

 海に不慣れなリオンに、これを機会に水に慣れてもらおうと、北都が丁寧に泳ぎ方をレクチャーする。
 全体の進行はやや遅くなるものの、他のメンバーも思い思いに海を楽しみつつハーブ探しをしているため、さほど遅れているようには感じられなかった。
 少しして、とりあえず沈んでいくだけではなくなったリオンに、北都は満足げにうなずく。
 
「うん、これで大丈夫だね」
「…………」

 リオンは、北都の頭をじっと見つめる。
 そこには、陸上にいた時にはなかった犬耳が生えていた。「超感覚」の能力によるものだ。
 水中にいるため、陸上のように音を拾うことはできないが、それでも音は伝道される。仲間のものとは明らかに異なる水の揺らぎも、察知できるだろう。
 もう見慣れているはずの犬耳をじっと見つめるリオンに、北都は首をかしげた。

「リオン?」
「北都は、犬耳が生えても犬かきにはならないんですね…」
「ならないよ」

 何を期待していたのか、少し眉を下げたリオンに、北都は苦笑するしかなかった。

「水には慣れましたか?」
「はい、おかげさまで」

 近くの岩場で海草を採取していたザカコが、泳ぎに慣れてきたリオンたちに声をかけてきた。
 ザカコの籠に入れられた海草を見て、北都は目的のハーブではないことを「博識」で看破する。

「その海草は? ハーブじゃないよね」
「ええ。食用の海草を少し。あとでサラダにでもしてもらおうかと思いまして」
「海草サラダかぁ。スープなんかもよさそうだよね」
「確かに、それも美味しそうですね。シンさんに提案してみましょうか」

 今頃、陸上ではバーベキューの準備が着々と進められているだろう。バーベキューだけが目的ではないが、やはり楽しみなものは楽しみである。
 楽しみといえば、「人の心、草の心」の使用者エース、リース、リイムの三人とそのパートナーは、ハーブの生育している場所を探すので手一杯だが、そのほかのメンバーは先述の通り割と気楽に海を楽しんでいる。
 もちろん、危険には十分用心しているが、それでも夏の到来と海の心地よさは楽しんでおかないと損というものだ。

「あ、アワビみーっけ!」
「セレン、はぐれないようにね」
「大丈夫大丈夫! ちょっと採ってくるねー」

 すいすいと泳いでいってしまったセレンフィリティに、セレアナはやれやれ、と小さく嘆息する。
 程なくしてホクホク顔で戻ってきたセレンフィリティは、追いついてきた北都、リオン、ザカコの三人に手を振って見せた。

「見て見て! アワビ見つけたの!」
「それはすごいですね。バーベキューがより豪華になりそうです」

 ザカコも採取した海草を見せて、談笑する。
 ――と、そこにリースが少しあわてた様子で泳いできた。

「よかった、皆さんご一緒だったんですね」
「リースさん、どうかしたんですか?」
「もうすぐハーブの群生地につきそうなんですけど、海草さんがモンスターもいるから気をつけてって言ってくれたんです。
 なので、皆さんにもお知らせしておこうと思って……」

 言われて北都が改めて犬耳を動かす。

「うーん、ちょっとわからないかな……リオン」
「はい、北都」

 北都に促されて、リオンは「イナンナの加護」を発動する。

「……今のところ、反応はありません」
「とりあえず、集まっとこうか? 個別攻撃されると厄介だし」
「そうね、そうしたほうがいいと思うわ」
「ですね。ここからは気を引き締めてかかった方がよさそうです」

 セレンフィリティの提案にセレアナとザカコが頷く。
 リース、北都、リオンも同意し、一行は先導メンバーと合流するべく泳ぐ速度を速めたのだった。