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王子様とプールと私

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王子様とプールと私
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【フリューネとユーフォリア、変装中】

「今のところ、どうにか上手くデートができているみたいですね」
 ユーフォリア・ロスヴァイセは、こそこそと二階部分からプールを見下ろしていた。いかにも怪しげなサングラスをかけているせいで、周囲の人たちがどことなく不審者を見る目でユーフォリアを見ているのだが、本人は気付いていない。
「多少ハプニングはあれど、そこまで大惨事にはなっていないみたいですね」
 同じく怪しいサングラスをかけたフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)が、安心したように小さく溜め息をつく。もちろん、遠目に見ているだけなので、ヴァレリアがとんでもない知識を身につけている事をユーフォリアとフリューネは知らない。
「このまま何事もなく、無事に一日が過ぎれば良いのですが……」
「なにしてんの?」
 突如背後からかけられた声に、ユーフォリアとフリューネは飛び上がらんばかりの勢いで振り返った。二人に声を掛けたのは、オレンジ色の花柄ビキニを着たセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)だ。
 幾何模様のバンドゥタイプのビキニを着たセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)と一緒にデート中、明らかに怪しい二人(だがどう見てもユーフォリアとフリューネ)を見かけて、思わず声をかけたらしい。
「実は……」
 フリューネとユーフォリアから事情を聞くと、うわぁ……とあからさまに微妙そうな表情をするセレンフィリティ。
「よりによってあのキロスにベタ惚れねえ……」
 複雑そうな顔をしながらも、セレンフィリティは面白い事を見つけた、とばかりに笑みを浮かべる。
「ヴァレリアが本気でキロスの事が好きっていうなら、あたしたちも手伝うわよ!」
「『あたしたち』って、当然私も含まれているのよね……」
 はあ、と溜め息をつくように肩を落とすセレアナ。
「それじゃ、行ってくるわ!」
 面白がる気満々のセレンフィリティと、いざという時にはそれを抑えなければ……という表情のセレアナが去って、間もなく。
「そこ、二人そろって何してるのよ……もう」
 セレンフィリティたちと同じように、不審者のフリューネたちに気付いたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が駆け寄ってきた。あきれ顔のリネンの後からは、ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)もやってきた。
「あら、どうしてここへ?」
「ユーフォリア、アンタを笑いに来た!」
 ヘリワードがビシ、とユーフォリアに指を向ける。
「何かおかしな格好になっているかしら……」
「そこじゃなくて! だってねぇ、あたしはリネンのせいでずっとこの立ち位置よ。たまにはいいでしょ!」
 ヘリワードはリネンとの出会い頭に「フリューネのようになりたいから弟子入りさせて!」と迫られたことを思い出しながら、ユーフォリアの元へずいと身を乗り出す。
「リネン……私、そんなに怪しく見える?」
 その隣で、フリューネは自身の格好をキョロキョロと見回しながらリネンに問いかけた。
「変装というか、むしろ怪しくて気付かれるわよ、それじゃ」
「へぇ、あの子がヴァレリアちゃんか……清楚そうに見えてなかなか積極的じゃん」
 リネンの隣で、フェイミィがキロスを引っ張り回しているヴァレリアの姿を見留めて呟く。
「とりあえず着替えと変装ね。目立ち過ぎよ、二人とも」
「一応、サングラスかけてるわよ」
「どうみてもそれが怪しさの原因じゃない!」
 リネンは素早く指摘して、フリューネたちを物陰へと連れて行った。
「あ、一応私たちは『空峡でならず者が暴れてて出かけた』って流しておいたから」
 こういうところ、リネンの手回しは周到である。

 そして、数分の後。
「これならどう? だいぶ雰囲気が変わったんじゃない?」
 リネンはフリューネの髪をアップにして、前髪を流した。鏡を見たフリューネは、物珍しそうに自分の姿を見ている。リネン自身も、ウィッグを編み込んで髪を伸ばしている。
「フリューネ、随分と印象が変わったな」
 そこに、ハーフパンツの水着にパーカーを羽織ったレン・オズワルド(れん・おずわるど)がやってきた。
「尾行でもしているのか?」
「そうなのよ」
 あっさりと認めたフリューネの言葉に少し驚きながらも、レンはフリューネから事情を聞いた。
「事情は理解した。俺も、彼女の恋愛を見守ろう」
 レンは眼下のヴァレリアの姿を目で追う。
「幸いにも俺と彼女は面識がない。不測の事態が起きた際、フリューネやユーフォリアが出て行かなくとも、俺が助けに出ることで違和感なく解決出来ることも多い筈だ」
 プールサイドでは、ヴァレリアがキロスの腕を引っ張って、どこかへと連れて行こうとしているらしい。キロスがしぶると、ヴァレリアはすかさず抱きついた。
「短期間で男の方を上手く操れるようになっているみたいね」
「……オレにもあんな頃があった……」
 心配と微笑ましさが入り交じったような表情のユーフォリアと遠い目をするフェイミィ。
「でも本当に箱入りのお嬢様、って感じね……私たちと大違い」
 リネンはヴァレリアの姿を目で追いながら、小さく呟いた。
「だからこそ、変な知識で暴走してしまうのが心配ですね」
「気持ちはわかるけど、もう少し信用して好きにさせたげなさいよ。あたしたちの価値観が唯一絶対の恋愛価値ってわけでもないでしょ」
 ユーフォリアの言葉に、ヘリワードが答える。
「それとも……ユーフォリアたちはキロス相手じゃご不満?」
「不満、というわけではないけれど……」
「たぶん『恋に恋するお年頃』ってヤツなんだと思いますよ、彼女は」
 フェイミィがユーフォリアとヘリワードを見比べながら口を挟んだ。
「ま、いざって時はオレ等もいますから。今は目くじら立てずに見守りましょ」


 一方、プールサイドのヴァレリアの近くで、セレンフィリティとセレアナは様子を見ていた。
「あ、キロスがどこかいくみたいよ。トイレとかかしら」
 セレンフィリティの言う通り、ヴァレリアは一人その場に取り残されている。
「……早速、彼女に近付こうとする男がいるわね」
 セレアナは素早く、ニヤニヤしながらヴァレリアに近寄って来る男の姿を認めた。
「ナンパし始めたわね。あまりしつこいようだったら、ちょっと蹴散らしてくるわ」
 セレンフィリティがヴァレリアに近寄っていく。
「ねえ、一緒に遊ばない?」
「残念でしたー☆」
「え、何が? ダメ?」
「どーしよっかなー?」
 ナンパなのだろうが、見事に噛み合っていない。このまま放っておいても良さそうだったが、セレンフィリティはヴァレリアをナンパしている男たちとすれ違いざま、男たちに妄想を見せつけた。
 ーーヴァレリアが、突如とんでもない醜女に見えるようにしたのだ。
「……えっ?!」
 男たちは、ナンパを即時中断し、いずこかへと去っていった。と、同時にキロスが帰ってくる。
「やりましたわ! ナンパを追い払いましたわ!!」
「……ヴァレリア、変なことしてないだろうな?」
「変なこと、というのは?」
 セレンフィリティはセレアナに目配せをすると、また影からヴァレリアたちの動向を見守り始めたのだった。


 二階からは、レンとフリューネがそんな様子を見ていた。
「レンは、ああいう子を見守るのが好きなの?」
「こう見えても子供は好きなんでな。少年少女の成長を見守るのは大人の特権だとも思っている」
「何オヤジ臭いこといってるのよ」
「悪いな、こう見えてもいい歳なんでな」
 フリューネと笑い合いながら、レンは同時に自分たちの周囲も見回していた。
 フリューネたちをナンパしようとしている男の姿もちらほら見受けられた。だからこそ、レンは尾行中のフリューネたちの邪魔をされないように、こうして話を続けている。
「フリューネ、ヴァレリアたちが外に行くみたいよ」
「それじゃあ、私たちも移動しないとね」
 リネンとフリューネ、レンはヴァレリアたちの遥か後方をついて移動を始めた。
「……ヴァレリアちゃん、こうしている間にキロスのことを知ってくれているみたいですね」
「じゃあ、ヴァレリアがキロスのこと好きになるのは構わないのね?」
「直接会って話をして、それで気に入ったなら、何も口出しはしませんわ。本人の意思に任せます」
 ユーフォリアはそう言って、ヴァレリアたちの背を眺めた。
「……オレも新しい恋がしてぇ…もうヴァレリアちゃんでもいいかな……?」
 そんな中、フェイミィは何やら怪しげなことを呟いていた。