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リアクション
一方、村では生徒達による妖精の注意引きが行われ続けていた。
「はいっはいっ! 白雪姫がやりたいっ!」
やりたいことを問われた遠野 歌菜(とおの・かな)は両手を挙げて主張した。
妖精は歌菜の要望に応えようと、木材をかき集め舞台セットと大小道具を目にも止まらぬ速さで作り上げた。
そして、どこからか持ってきたドレスを受け取った歌菜は、
「もっとお姫様っぽいドレスがいい!」
頬を膨れさせながら速攻で突き返していた。
「お城もちゃんとしたのがいい! 妖精さんが住んでそうな感じで!」
歌菜が力いっぱい叩いていると、張りぼてのお城はバランスを崩し、ゆっくりと倒れてしまった。
仕方なく妖精たちは森の中にあるアトラクション、通称『桃姫の迷宮城』を改造してままごとというよりは、観客のいない劇に近い遊びを行うことにした。
だが、やるにしても出演者は歌菜とパートナーの月崎 羽純(つきざき・はすみ)、それと妖精一名だけ。
「じゃあ、妖精さんは悪い母役と、来賓AとBと、あと……」
自分達の役以外を全て妖精にやらせようとする歌菜。
さすがに無理だと断ろうとすると、歌菜は大地が震えるほどの大泣きして困らせる。
妖精は歌菜の我が儘を受け入れるしかなかった。
そうして始まった歌菜が役者&総監督を務める白雪姫。
「そこはもっと楽しそうにだよ!」
細かい指示を受けながら妖精は必死に役柄をこなそうとする。
そんな大変な姿を見ていた羽純が妖精を呼ぶ。
「喉が乾いた。美味いおやつが欲しい」
羽純はふかふかの椅子にふんぞり返る。
「これから大事な登場シーンがあるんだ。栄養補給をしとかなくてはいけないだろ? それに俺は王子だ。召使いはちゃんと世話をしてくれないと困る」
召使いA役の妖精は渋々羽純のためにお茶とお菓子を運んできた。
「うむ。ご苦労」
「妖精さん早く〜、続き始めるよ!」
休む間もなく働かされる妖精。
歌菜は段々と楽しくなってきて、駄目だしと要求がさらに多くなる。
同時にこなせないようなことや、どう考えても無茶な要求が増え、妖精のフラストレーションは徐々に溜まっていった。
「いい加減に……」
笑顔で可愛らしい妖精の顔が一瞬鬼の形相に見える。
とっさに危険を感じた羽純は、震える拳が振り上げられるより早く、歌菜に駆け寄り腰を掴んで引き寄せる。
「お姫様、あまり我が儘を言ってはいけません」
「え?」
予定より早い王子の登場に目の前の白雪姫歌菜は驚いている。
そんな歌菜の耳元に口を近づけた羽純は小さな声で耳打ちする。
「今のは危なかったぞ。やりすぎには注意だ。それと、そろそろ抜け出したのが気づかれるかもしれない。少し範囲を広げよう」
羽純の言葉に、歌菜は耳のこそばゆさを感じながら赤面して首を縦に振った。
すると羽純は膝をつき、恭しく白いレースの手袋をした歌菜の手をとる。
「姫様。よろしければこの俺と一曲踊ってはいただけませんでしょうか……おい、早く曲をながしてくれ」
ポカンとしていた妖精は慌てて音楽を流し始めた。
優美な曲が流れる中、指先にパートナーの熱を感じていた歌菜は突然の急展開に考えを巡らせる。
「えっと…………あ、そうだ。他の人も呼んでこう。舞踏会やるなら盛大な方がいいし、皆で楽しんだ方がいいよね♪」
歌菜の提案に疲れを感じていた妖精は激しく同意する。
確かに多様な役からは解放されるだろうが、一度に面倒をみる子供が増えることは苦労を増やすだけだと妖精は気づいていない。
「みんな早く帰って来てね……」
歌菜は子供たちと妖精を呼びにいきながら、仲間達の帰還を願う。
日はすでに傾きはじめていた。
その頃、立ち入り禁止地域を探索していた及川 翠(おいかわ・みどり)は森の中で使われていない井戸を見つけていた。
「綺麗だし、壊れてるみたいに見えないの」
「しかし、これでは近づいて調べることもできませんわ」
ノルン・タカマガハラ(のるん・たかまがはら)は井戸の周りを囲うように作られた魔法障壁に触れながら告げる。
頑丈な障壁は多少衝撃を与えた程度で壊れる様子もなく、先に進みたい翠をイラつかせる。
「もうっ、全然進めないのっ!」
「たぶん石柱の上にある魔法石が結界を作っているのですわ」
「壊してくるの!」
翠は勢いよく結界の囲っていた石柱の一つに張りつき、純粋な膂力だけでよじ登ろうとした。
しかし、表面が艶やかなため登ることができない。
「むぅ……こうなったら、サリアちゃん!」
「はい!」
名前を呼ばれたサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)は対変態ギフトスナイパーライフルを取り出す。
照準越しに狙いを定め、引き金が指を掛けた時、パァン、と魔法石が砕けた。
続けざまに障壁を構成していた四つの魔法石が破壊される。
「な、なに!?」
「こっちを狙ってくる気配はないの……」
再び森に静けさが戻る。
なんにしても謎の狙撃によって道を切り開かれた翠たちは、周囲を警戒しながら井戸を調べることにした。
その様子を遠くから見ていた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。
「あとは任せるであります」
吹雪は試製二十三式対物ライフルを担ぎ、その場を後にした。
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