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祭の準備とニルミナスの休日

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祭の準備とニルミナスの休日

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 ニルミナスの近くにある森。かつてミナの森と呼ばれていたその場所でニルミナス防衛団はその警護についていた。とある事情から本来この森を守っているゴブリンやコボルト(彼らの全体の1/10程度)が離れており、その代わりとして防衛団は森に来ているのだった。
「お、頑張ってるようね。感心感心」
 そこへやってきてそう話しかけるのはヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)だ。
「はい、差し入れ。村で適当に買ってきたから作業の合間にでも食べてちょうだい。……お酒は仕事中みたいだから遠慮しといたけど」
 ヘリワードはそう言って菓子や干し果実の入った袋を渡す。
「ありがとうございます。仲間も喜びますよ」
 受け取り、礼を言うニルミナス防衛団の男。
「一人みたいだけど、他の人たちも一人で巡回してるの?」
「基本は二人組で行動していますよ。ただ、その組み分けをしてくれたのはコボルトロードさんで、一人ひとりの実力から判断されて、一人だったり三人組だったりします」
 少しだけ恥ずかしそうに男は言う。
(へぇ……あの大きなコボルトに認められたのね)
 一人でもコボルトの代わりになると。この前にいる男は認められているのだ。
「……とりあえずあなたには話しても大丈夫そうね」
 場合によっては話そうと思っていたこと、それをこの男になら話しても大丈夫そうだとヘリワードは思う。
「あんたたちのボス、意外と近くにいるわよ。……他の仲間に話したり、そのボスに会いに行くか任せるわ。その判断ができると思ったから伝えたの」
「……そうですか」
 少し考えこむように男はそう返す。
「どうするの?」
「とりあえず仲間には話しますよ。……ただ、俺も仲間も会いに行こうとはしないと思います」
「……どうして?」
 ヘリワードの質問。
「ボスのこと信じてますから」
 それにニルミナス防衛団の男はただそう答えた。


「――ってのが防衛団の最近の働き……って、言うまでもなく知ってたみたいね。大きなお世話だったかしら」
 あくび混じりに自分の話を聞く男にリネン・エルフト(りねん・えるふと)は少し皮肉交じりにそう言う。
「いや、俺以外の目から見たあいつらがどんな風に見えてるのかには興味はある。ありがとよ」
 そう言いながらも眠そうに防衛団からボスと呼ばれる男、ユーグは答える。話に興味が無い訳じゃなく単に睡眠不足のようだ。
「それで、あなたはこの先どうするつもり?」
「今までどおりだよ」
「……いつまでも続けられないわよ、こんな暮らし」
「分かってるさ。でも今は忙しいんだよ」
「忙しいって何に?」
「あいつらが守ろうとしてるものを滅ぼさせないようにだよ」
「……どういうこと?」
 煙(けむ)に巻くようなユーグの受け答えに少しだけ目に力を入れてリネンは聞く。
「そのままの意味というか……とにかく俺の役目を果たすまで俺はあいつらに会うつもりはない」
 ユーグはそう言って逃げるようにリネンの元から去る。
「……何をしてるのかしら」
 去るユーグの背中を見ながらリネンはそう呟いた。



「ねぇ、ゴブリン達って彼らの言葉はあるんだよね?」
 森にあるゴブリンたちの集落。そこにある廃墟……もとい住処にて芦原 郁乃(あはら・いくの)はパートナーにそう声をかける。
「でしょうねぇ。でなければ集団生活は難しいでしょうから」
 この時点で既に嫌な予感をしながら蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)はそう答える。
「んじゃ、言葉の解釈辞典があればいいんじゃないかな? 日本じゃ和英辞典見とかがあるんだよ」
「はぁ……そうですね」
 そんなことは郁乃に言われるまでもなく分かっている。
「んじゃよろしくぅ♪」
「はぁ……ってお待ちください! それあたしがやるんですか!?」
「うん」
 満面の笑みで頷く郁乃だった。

――というのが二日前の出来事。

「結論から言います。彼らの言葉を完全に理解するのは難しそうです」
「えーっ……」
 マビノギオンの一も二もない言葉に郁乃は不満そうな声を上げる。
「こちらが聞き取りにくい発音が多かったり、逆にどうやっても私達では発音できない音があったり、彼らの言葉を利用して話をするというのは現実的ではないですね」
 スキル等を利用すればどうにかなりそうだが、どちらにしても困難であるのは間違いない。
「ただ……これを見ていただけますか」
 そう言ってマビノギオンは何かが書かれた何枚かの紙を渡す。
「これ……日本語? 内容は……もしかしてこの森のゴブリンたちに伝わる言い伝え? これ、マビノギオンが書いたの?」
「いいえ。私ではありませんよ」
「じゃあ誰が……」
「ゴブリンキングです」
「…………は?」
 確かにゴブリンキングが自分たちの言葉を理解してくれるのは知っていたが……まさか文字、しかも日本語をかけるとは郁乃は流石に予想していなかった。
「以上のことから主。彼らと彼らの言葉を利用しての会話は現実的ではありません。けれど文字や……ジェスチャーを通してでしたら十分な意思疎通をすることが可能です」
 もちろん文字を教えることや、現在村で考えられているジェスチャーを言語のレベル……つまり手話といえるレベルまで上げることは必要だが、彼らの言語を理解するよりはかなり早く意思疎通できるようになるだろう。特にジェスチャーは一定のレベルまでそれを利用しての意思疎通ができればその後は飛躍的に進歩していく。そういったことをマビノギオンは話す。
「ちょっと、集落の子どもたちとジェスチャーで話してくる!」
 そう言って一瞬でいなくなる郁乃。
「けれど、主。言葉よりも文字よりもジェスチャーよりも。何より主のその行動と笑顔が最高のコミュニケーションツールだと思いますよ」
 どこにいても変わらない主をマビノギオンは誇らしく思っていた。