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秋の 大 運 動 会 !!

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第四話 お昼休みタイム





 競技も午前の部が終わって、昼休みになった。
 弁当を広げたり、売店に走ったりと、昼は昼で、競技中とは違った活気にスタジアムは満ちていた。

「さあ、弁当はいかが? いろいろな種類があるよ!」
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)は観客席の近くで弁当屋の手伝いだ。様々な弁当と、飲み物やビール。人も多く、売れ行きは上々だ。
 しかも彼は【超感覚】を使い、観客の声を見事に聞き分けている。「サンドイッチみたいな軽いものがいいな」との声に反応し軽いものをアピール、「酒飲みたい」という声にビールをアピールして、確実に売り上げを伸ばしていた。
「ウチのマスター、茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)との出会いは劇的だったヨ。あれはそうネ……大雨が降った、その次の日だったネ」
 キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)は実況席で、スタッフ用に配られた弁当を食べながら放送スタッフと話していた。
 キャンディスの話はとても楽しく、語りも魅力的で、普段放送業務を営んでいる皆もついつい話に聞き入ってしまっていた。
 ほとんど嘘だったが。




「おっしゃ、てめえら、俺の歌を聞けーっ!」
 リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)はゲリラライブを開催していた。
「リョージュくん、張り切ってるなあ」
 白石 忍(しろいし・しのぶ)が少し離れた場所で一人弁当を食べながら、彼の刻むリズムに体を揺らす。
「現代の音楽か。ううむ、興味深いのお」
 織田 信長(おだ・のぶなが)が白石忍の近くで腕を組んでいた。箸を咥えたまま、目が合う。
「雑音のようで豪快、大胆のようで繊細。なかなかいいものじゃな」
「そうですね……私も、そう思います」
 いきなり話しかけられて白石忍は驚くが、信長が笑いながら言うのでついつい同意してしまう。
「かかか。おまえ、忍と言うんだったな。ウチのマスターと同じ名前のモノがおるからどんな奴かと思ったが、性別も性格も正反対とはな。面白い偶然もあるものじゃ」
 信長は彼女の隣に座りこんで言う。忍も、そういえば自分と同じ名前の人がいたような、と思い出す。
「あの、小さな娘さんをお連れしている方ですね」
「そうじゃ。なにかと気が利く親子でな、今も飲み物を買ってきてくると言って飛んでいったわい」
「そうなんですか……ふふ」
 信長が楽しそうに言うので、忍も釣られて笑う。
「信長さーん」
「来たようじゃな……気が利く上に、料理の腕もなかなかのものじゃ。一緒にどうじゃ?」
「いいんですか?」
「遠慮はいらぬ。二人とも、作りすぎたと言っておったからな」
 信長は立ち上がり、こっちじゃー! と大きく手を振った。
 飲み物を買ってきた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)桜葉 春香(さくらば・はるか)、そして、ゲリラライブから戻ってきたリョージュも合わせ、賑やかな昼食となった。



「は〜す〜み〜くん♪」
 昼休みになって遠野 歌菜(とおの・かな)はウキウキした様子で月崎 羽純(つきざき・はすみ)に近づいてきた。手にしているのは重箱で、鼻歌を歌いながら蓋を開ける。
「じゃじゃーん!」
 重箱の中に入っていたのはいかにも豪華なお弁当。定番メニューから手間のかかりそうなメニューまで、目白押しだった。
「すごいな……」
「ささ、食べて食べて! たくさん食べて、午後の競技も頑張らないと!」
「そうだな……じゃ、いただきます」
 羽純は両手を合わせていい、まずは卵焼きを箸で持ち上げた。ゆっくりと口へ運び、しっかりと味わう。
「どう?」
 少し不安そうなに覗き込む歌菜に向かって、
「……最高だなこの卵焼き。ふわふわ加減が絶妙だ」
「ホント!? えへへっ!」
 羽純に素直に喜んでもらって、歌菜も喜ぶ。羽純はその後も唐揚げにポテトサラダに、と、次々箸を運ぶ。そのたびに美味しい美味しいと言い、歌菜も笑顔になった。
「本当に、美味しそうですのね……」
 そんな二人の様子を覗き込んでいる人がいた」
「チェルシー!」
 チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)だ。彼女は愛海 華恋(あいかい・かれん)と一緒に飲み物を買いに来ていて、その帰りだった。
「すっごいね、こんなに作るの、大変だったでしょ?」
「全然。ちゃんと下ごしらえしておけば、大したことないよ」
 華恋の指摘に、歌菜は少し胸を張って答える。
「一緒に食べる? 結構な量だから、二人だけだとちょっと大変かな、って思ってたんだ」
「いいんですの?」
「もちろん!」
「わーい! ボク、理沙たちを呼んでくるよ!」
 歌菜の提案に、華恋は飛び上がって駆けていった。
 やがて白波 理沙(しらなみ・りさ)チョコ・クリス(ちょこ・くりす)もやってきて、みんなで歌菜の弁当を囲む。
「歌菜、この海老フライさっくさくね!」
「筑前煮、おいしいですわ」
「きんぴらもおすすめだよー!」
 三人も大喜びだった。
「おいひいでしゅ」
 チョコもチェルシーから食べられそうなものを分けてもらっている。
「デザートもあるよ。リンゴケーキを作ってきました♪」
 歌菜はそう言って、ケーキを取り出す。
「フルーツとデザートまであるのは、本当に嬉しい」
 羽純はオレンジをかじりながら言う。彼は実は甘党だ。
「歌菜さーん! ケーキも最高!」
「美味しいですわ……こんなものを作れるなんて、すごいですわね」
 華恋とチェルシーはケーキに大喜び。弁当を食べたあとにもかかわらず、ケーキをおかわりまでした。
「羽純はいいわね。才色兼備、文武両道、料理も上手。言うことなしの奥さんがいて」
「ん……まあ、な」
 理沙が腰のあたりをつつきながら言うので、ケーキを口へと運びながら羽純は答える。
「ほらほら、ちゃんとお礼言っておきなさいよ。女の子って、褒めて伸びるんだからね」
 なにを伸ばすんだよ、と羽純は言うが、理沙に背中を押されて観念する。ケーキを飲み込むと歌菜に向かい合い、正面から見つめた。
「大変だったろ、こんなに作るの」
「ううん、そんなことないってば」
「いや、大変だったよ。朝も早かったし。でも、やっぱ歌菜の作ってくれる料理は美味しいよ」
「羽純くん……」
「有難う、歌菜」
 正面に見つめ合って、言う。ついつい歌菜はとろんとした表情になってしまう。もう、このまま抱きしめられたら死んじゃいそう。
「はいはーい! 新婚さんご馳走様!」
 そんな雰囲気の中、理沙がそう言った。二人は現実に戻ってくる。
「全く……昼間っから元気ですのね」
「仲いいねー!」
「微笑まひいでしゅ」
 チェルシーたちも微笑みながら、二人のラブラブっぷりを見ていた。
「おい……からかうな」
「ふふ、いいじゃない。仲がよくて」
 理沙の指摘に、羽純は少し困った顔をして頬をかいた。歌菜はまだ、少しだけ顔を赤くしていた。




「じー」
「………………」
「じー」
 酒杜 陽一(さかもり・よういち)が食べている弁当を、なぜかすぐ近くで見つめる葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)
「……食べる?」
「いいのでありますか!?」
 陽一がそう言うと、ぱあっと吹雪は表情を明るくして言った。
「っていうか、吹雪さん、さっきパン食い競走でいっぱい食べてたじゃないか」
「パンだけでしたからね。あの程度じゃあ腹の足しにならないでありますよ」
「いや一斤以上食べてたけど……」
 陽一の弁当から唐揚げをつまんで口へ。
「んーっ! やっぱりタンパク質は最高であります!」
 そういえばさっきは炭水化物しかとってないのか、とちょっと納得する。
「これ、売りものでありますか?」
「いや、自分で作った」
「手作り!?」
 なぜか吹雪が驚く。
「陽一、料理もできるもんね」
 そこに別の方角から声が響いた。二人が振り返ると、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、手にパンを持って歩いてきていた。
「陽ちんは料理もできるでありますね。すごい」
 吹雪が感心したように言う。
「人並みくらいだよ。別にすごくなんかない」
 陽一も答えた。
「でも、この手のイベントで弁当を作って来るっていうのがすごいわよ。普通、弁当で済ませようとするでしょ」
 セレアナが手に持ったパンを軽く掲げて言う。
「こうなると思って」
 陽一は弁当売り場を指差した。そこは行列が出来ている。
「確かにね。あたしもあんまりいいパン買えなかったしな」
 セレンが息を吐いて言った。
「なんだったら、皆さん、いかがですか」
 また別の方角から声が。皆が向くと、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が弁当を手に立っていた。
「みんな話してたのが見えたから、ちょっとね。せっかくだから、食べ比べでもする?」
 さゆみが弁当を掲げて言う。セレンが「するするー!」と飛び跳ねてさゆみの隣に座った。
「セレンさんだってさっきいっぱい食べてたのに」
「なに言ってんの。シャンバラ教導団の訓練はそんじょそこらのぬるま湯な各校とは次元が違うのよ。だから無理なくダイエットできるんだから」
 セレンは言う。確かに、セレンのスタイルは完璧といってもいいくらいだ。 
「それに、よく言うでしょ? 『エロいものは別腹』って」
 言わないわよ、とセレアナが言った。皆が笑う。
「吹雪は、なにも持ってないの?」
 セレアナが聞く。
「あるにはあるでありますけど」
 吹雪は手にしていたものを皆に見せた。
 彼が手にしているのはいわゆる『レーション』。軍隊用の保存食だった。
「まじゅい……」
「パサパサして……なにこれ」
 セレン、セレアナが表情を曇らせる。
「そうなんですよね。だいぶマシになったとはいえ、やはり美味しいものではないでありますよ」
 吹雪はもごもごとレーションを口にして言った。
「栄養価は高そうね」
 さゆみも口にしてそう言った。
「自分は慣れているでありますけど、やっぱり、こういうときは美味しいものを食べるに限るでありますよ! 陽ちん、さゆたん、お弁当を見せてくれー、でありますよ」
「仕方ないな……」
「吹雪さんの言うとおりですわね。どうぞ、皆さん」
 陽一とアデリーヌが弁当を見せる。
 こうして、陽一とさゆみ、アデリーヌの弁当、セレンとセレアナが買ってきたパンとで、お食事会になっていた。



「さあ、竜斗さん、リゼルヴィアちゃん、どうぞ」
 黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)の手作り弁当が広げられると、黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)は目を輝かせた。
 二人でおいしいおいしいを連呼しながら次々とおかずを口に運ぶ。
「そういえば、シェスカはどこ行ったんだ?」
 竜斗はもう一人、連れてきた(正確にはついてきた)パートナーのことを聞く。
「シェスカさん、ですか? 散歩してくるわ、って言って出て行ったきりですけど」
 またか、と竜斗は小さく息を吐いた。彼女の単独行動は、いつものことだ。
「……また男でも探してるのかな」
「かもしれませんねー」
 そんなことを口にし、二人は曖昧に笑った。
 
 
 
「手作り弁当かあ」
 そんな様子を、たまたま近くにいた風馬 弾(ふうま・だん)が見ていた。
「アゾートちゃんのお弁当が食べたいな〜」
 心の中でほのかに思ったことをエイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)が口にしたため、弾は口にしていたパンを吹き出した。
「弾汚い」
「いきなり変なこと言うからでしょ!」
 ハンカチで口元を拭く。
「ふう、完売させたぜ……今日の業績ナンバーワンは確実だな」
 そんな二人の近くをハイコドが通りかかった。
 ハイコドが見ているのはスコア表だ。今現在、紅組のほうがリードしており、白組が追いかけている形だ。そして、言うまでもないが、黒組のスコアは微々たるものだ。


「疲れた……本当に疲れた……それに、胃が重い……」
 その黒組ドクター・ハデス(どくたー・はです)は午前の競技の疲労とパン食い競走でダウンしていた。
「しっかりしてください、ご主人様……じゃなかったハデス博士! これも我らオリュンポスがため、ここで挫けるわけにはいきません!」
「フハハハ……そうだな、その通りだ、ヘスティア」
 ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)の一言に、ハデスはゆっくりと立ち上がる。
「見ているがよい! 我らがオリュンポスがため……全種目制覇の夢、最後まで全うしてやる……ふふふ、フハハハハ! あっはっはっはっは! はあ……」
 いつもの笑いにも覇気が欠けていた。


「……あいつら色んな所で色んなコトしてるけどよくまぁお縄にならないよな」
 ハイコドがそんなハデスを見て言う。
「確かにそうですよね。今回は気の毒ですけど」
 弾は彼の近くまで来て声をかけた。
「スコアはトリプルスコアどころじゃないからな。全く、黒組だとかなんとか、どうするんだか」
 ハイコドもスコア表を眺めて言った。
「そうですよね……ん?」
 そこで弾があることに気づいた。
「どうした?」
 ハイコドが言うと、
「見ていてください、【ホワイトアウト】!」
 弾が急にスキルを使った。辺り一面を雪で覆うためのスキルを、ごくごく一部に対象を絞って発動する。
 黒組の部分が雪で覆われて白くなった。そして、スコアを見比べると、
「これは……」
 やや白組がリード。が、差は本当に僅差で、ちょっとスコアが動くだけで紅が逆転しそうなスコアになる。
「なるほどな。白組としてカウントするのか。人数的にどうなるかはわからんが、検討の余地はあるな」
 ハイコドは感心して言う。
「ハイコドさん、調整できます?」
「わからんけど検討はしてくれるかもしれないな。ちょっと上と相談してみるよ。……おっと、呼ばれたみたいだな。またあとで」
 ハイコドを呼ぶ声と、手招きするスタッフの姿が見えた。「今行きまーす!」と叫び、ハイコドは弾に手を振って去っていった。
「よし……そろそろ昼休みも終わりだ」
 弾は時計を確認して言った。
 次の種目は玉入れだ。ハードな種目ではないが、頑張るぞ、と弾は拳を握った。



「学人」
「なんだいローズ」
 スタッフ専用弁当を食べ終えた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、じっと無言でスタジアムを見つめていたが、やがてなにかを思いついたように冬月 学人(ふゆつき・がくと)に話しかけてきた。
「暇だね」
「うん、暇だね」
 彼女らは怪我人が出たときのために控えている医療班だ。が、今まで怪我人らしい怪我人も出ず、出番としては最初にエイカが起こした血のり騒ぎのみだ。
「ま、私たちが暇なのはいいことなんだけどさ、こう、暇すぎると私の中の悪魔がね、『怪我しろぉぉぉ』と言って私の中の天使も『怪我しろぉぉぉ』と囁くんだよ」
「せめて天使は抵抗しよう」
 ロゼの頭の中がすごいことになっているのはわかった。
「ていうか、どうして種目にプロレスがないんだい、野球がないんだい!? 絶望した!」
「いやないから。野球はともかくプロレスはないから。運動会なんだからね」
「絶望した! 今後もあんまり出番のなさそうなことに絶望した!」
「だから出番は少ないほうがいいんだってば! その分みんな怪我とかしないでやってるってことなんだから」
「そこの女学生! 転べ転べ転べ転べ転べ……」
 手をわきわきさせ、近くの女生徒に奇妙な波動を送り込むロゼ。
「やめなさい」
 学人は息を吐いて彼女を抑えた。
「痛っ! 転んじゃったあ」
「大丈夫?」
 波動は通じたようだ。女生徒が転ぶ。
「出番? 出番ですかうふふふ」
 ロゼはキラキラと目を輝かせて立ち上がるが、
「ちょっとすりむいただけ。大丈夫」
 女生徒はすぐさま立ち上がって、去っていった。
「お嬢さん! 擦り傷をバカにしちゃいけないよ! 傷が化膿したらそこから病気が広がっていずれ死に至る!」
「至らないから……とりあえず落ち着いて……」
 追いかけようとするロゼを学人は羽交い絞めにする。
「うああっ! 暇だ暇だ! 治療したい手術したい出番欲しい!」
「もううるさいなあ……ほら、これでも食べて落ち着いてよ」
 騒ぎ出したロゼをなんとか落ち着かせるために、学人はお菓子を取り出した。
「実家のお母さんが送ってきたんだ。胡麻の蜜が入ったお団子」
「学人のお母さんのお菓子? サンキューマッマ」
 ロゼは早速その一つをつまんで、口に含む。
「ちょっと待って、これは食べ方にコツがあるんだ。前歯で噛んではいけません。奥歯で一口に「なんだこれはぁぁーーーッ! ンマイぁぁあぁぁーーーーッ!!(ドバァ)」食べるんだ……わぁー! 言ってるそばから! 前歯で噛むなって言ったのに!」
 ロゼは口から胡麻の蜜を飛び跳ねさせながら叫んだ。
 落ち着かせようとした学人の行動も、どうも火に油を注ぐ結果になったらしい。



「ふう……いい男はいないわぁ」
 竜斗たちのパートナーの一人、シェスカ・エルリア(しぇすか・えるりあ)は、一人でウロウロと、会場を歩き回っていた。
 競技に参加するのは面倒だし、じっと見ているのも退屈だしで散歩に出たのだが、好みの男も好みの女もいない。
 ていうか、最近「好みの男」の方向性が揺れ動いている気がする……どうしてだろうか。
 小さく息を吐いて、シェスカは通路の途中にあるベンチに腰掛けた。
 ぎりぎりスタジアムが見える。今は玉入れの真っ最中だ。紅組のほうでなにか起きたのか、騒いでいる。
 ふう、と息を吐いてシェスカは空を見上げた。本日は晴天なり、スポーツには持ってこいのいい天気。
 そんな中でなにをしているのだろうか、と、シェスカは考える。
「竜平くん、次の借り物競走、よろしくね」
「……任せろ」
 スタッフらしき人物が近くを駆けていった。
 どこかで聞いたことのある名前ではあるが、思い出せない。まあどうでもいいか、と、シェスカは再び頭上に顔を向けた。
「あ……」
 が、声が聞こえて視線を下げる。その声の主は先ほど近くを通ったスタッフらしい人で、男で、首からカメラをぶら下げている。
 見覚えのある顔だ。会ったのはほんの少しの時間だったが、その顔を、表情を、忘れることはなかった。
「シェスカ、さん」
 海の家の盗撮騒ぎのときに出会った少年が、彼女の近くに立っていた。
 シェスカは驚きの表情を隠さず彼をまっすぐに見つめ、やがて、小さく息を吐いた。