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今日はハロウィン2023

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今日はハロウィン2023
今日はハロウィン2023 今日はハロウィン2023

リアクション

 カフェテリア『宿り樹に果実』出張店。

 開店少し前。
「本日はハロウィン限定のカフェですからカボチャをふんだんに作ったお料理で皆さんが素敵なハロウィンを過ごせるように頑張りましょう」
 魔法使いのお嬢様になったミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は店内を見回した後、やる気十分の顔で両親の方に振り返った。
「カボチャのプティングにパンプキンパイ。カボチャを使ったサラダにカボチャのグラタンも良いですね」
 身重故にゆったりとしたマタニティ風メイド姿のミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)は楽しそうにカボチャのレシピを色々列挙した。
「はい。でもお母様は無理をしないで下さいまし。わたくしとお父様が頑張りますから」
 ミリィは無茶をしないようにとミリアに釘を刺した。
「えぇ、頼りにしてます」
 ミリアは母親の表情で微笑んだ。
 ミリィは最終確認をするためにこの場を離れた。
 夫婦だけになった所で
「何か嬉しいねぇ」
 仕立てのよいスーツにマントをまとった古きよき吸血鬼ドラキュラになった涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が笑みをこぼした。
「?」
 ミリアは隣の涼介を見上げながら小首を傾げた。
「ほら、今日の出店はミリィがやりたいって言ってくれたからだろう。それが何か嬉しくて、これが子の成長を素直に喜ぶ事が出来る親の気持ちなんだろうなぁって」
 涼介はしみじみと父親の心境を語った。
「ふふ、涼介さんったら」
 ミリアはクスリと笑いながらこの人が伴侶で幸せだと心底思っていた。
 そして、カフェテリア『宿り樹に果実』出張店は開店した。

「……シリウスさんとお揃いですね」
 ハロウィンサブレで白の魔女服姿になったミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の黒の魔女服とを見比べた。
「あぁ。しかし、せっかくパーティーに誘ったのになんかわりぃな、ミルザム」
 シリウスは今日の予定が急遽遊びから仕事に変更になった事を詫びた。
「園児の相手の事ですか? 別に気にしていませんよ。今日はハロウィンですから賑やかな方がずっといいですよ。ただ、困るのはトリックを用意していない事ですね」
 ミルザムは笑顔で答えながらもちょっと困った顔になった。何せ急な事で子供達を喜ばせるようなトリックは用意していない。
「それはオレに任せてくれ、悪戯小僧に鍛えられたからな!」
 シリウスはニヤリと悪戯な笑みを浮かべ自信満々。
「では、お任せします」
 ミルザムもつられて笑った。
「あぁ。しかし、最近ミルザムに迷惑かけっぱなしだな」
 ふとシリウスは最近参加したイベントの事を思い出した。
「迷惑をかけたりかけられたり気にする事ありませんよ。それが友人だと思いますから」
 ミルザムの方はシリウスを思いやってとかではなく本当に気にしている様子はなかった。むしろ気にする方がおかしいという感じで。
「……そうだな。さてと行くか」
 ミルザムの様子に胸を撫で下ろしたシリウスはやっと動き始めた。元気が余りある子供達の相手をするために。

 シリウス達はナコや他の引率者と打ち合わせをしてから担当の子供達と顔合わせをした。
「待たせたな」
「こんばんは」
 改めて挨拶をするシリウスとミルザム。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれないと悪戯するよ!」
 早速子供達はハロウィンの挨拶をかます。
「おっ、早速来たか。ほら、お菓子だ」
「どうぞ」
 シリウスとミルザムは用意していたお菓子を配った。
 これで出発かと思いきや
「トリックはどんなのがあるの?」
 半透明少年が好奇心でトリックを訊ねてきた。
「知りたいか?」
 シリウスは屈んでその子供と視線を同じくして悪戯な顔を向けた。
「うん!」
「よーし、見てろ」
 シリウスは『アニメイト』で菓子の包装を小動物に変えて少年の手の平に載せた。
「うわぁ、動いてる。お姉ちゃん、すごい!」
 少年は手に平から腕へと駆け上る紙動物に感嘆し、シリウスを尊敬の眼差しで見上げた。
「ねぇ、ねぇ、他には?」
 他の子供がワクワクしながら訊ねた。
「そうだな。こんなのはどうだ?」
 シリウスは期待に応えるべく『光術』で生み出した光球を飛ばしたり見せた。
「ほわぁ」
「きれー」
 光球を目で追ったり走ったり。
 子供達の興奮が落ち着いたところで街を練り歩き、お菓子を沢山貰った所で子供達の疲れたという訴えでシリウス達は近くのカフェテリアで休む事にした。

 カフェテリア『宿り樹に果実』出張店、開店後。
 お菓子を求める者やハロウィン料理を求める者で店は大盛況であった。

「ハッピーハロウィン」
「お菓子を貰いに来ました」
 シリウスとミルザの引率で園児達が来店。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子くれなきゃ、カエルにしちゃうぞ」
 数人の子供達がやって来た。
「魔法使いさん、お菓子をあげるからカエルにしないで」
 涼介は驚かせようとする魔法使いの女の子に大袈裟に怯えたフリをして用意していた綺麗にラッピングしたお菓子をあげた。渡したハロウィンクッキーはカボチャを練りこんだ生地に食用加工されたパンプキンシードをあしらって焼いた物。もちろん『調理』を有する涼介とミリィ作なので味は絶品。
「うん、いいよー」
 お菓子を貰った途端、女の子はぱっと顔を輝かせお菓子入れに入れた。
「……賑やかですね」
 ミリアは子供達の相手をする涼介を見守りながら自分達の近い未来を重ねて笑んでいた。

 シリウスは子供達を気遣いながらも
「こんなドタバタで話すことじゃないけどさー、楽しいんだよな、ミルザムと組むのは……相棒とは違う空気だけど、同じくらい」
 少しだけ自分達だけの時間を過ごす。
「私も楽しいですよ」
 ミルザムは笑顔。楽しいからこそこうして一緒に過ごしているのだから。
「お前も忙しいだろうからいつになるか分からないけど、今度はコッチで組まないか? 今までも何度かセッションはしてるけど……その場限りじゃないって意味で、さ?」
 シリウスは音楽のジェスチャーをしながらニヤリ。
「それは悪くないですね。ただ、急にどうしたんですか。そんな真剣な話をして」
 ミルザムは笑いながら答えるも心配そうな表情になった。
「いや、オレも色々人生を考えないといけねぇかなと思ってさ」
 とシリウス。こう考えるのは相棒こと剣の花嫁のパートナーが人生をほぼ決めているのに影響を受けてだろう。
「……そうですか。どんな人生を決めても私達が友人である事は変わりませんから」
 ミルザムの言葉はそれだけだった。シリウスの人生に他人である自分が余計な意見を挟む事は出来ないが、親友として支えにはなれる事は伝えられる。
「ありがとう……オレもお前の良い友人であり続けるよ」
 親友の言葉にシリウスは胸が熱くなった。自分は本当に良い友を持ったと。そして、自分もその友が誇れる自分でありたいと思った。
「……とりあえず、この話はここまでにしましょう」
「だな。今は楽しいハロウィンだ」
 ミルザムとシリウスは真剣な話は終わりにして祭り気分にチェンジ。

 少しして
「よし、ここの店で一休みするぞー」
「休みついでに次の悪戯の確認だー」
 双子が入店して来た。
「いらっしゃいませ」
「よく来たね」
 ミリィと涼介が笑顔で双子を迎えた。
「……キスミ、別の店に行くか」
「だな」
 二人、主に涼介を見た途端、双子は引き返そうと一歩後退。
「おいおい、二人が度が過ぎた悪戯をしない限りこちらも何もしないよ」
 涼介は二人の警戒に苦笑を浮かべながら引き止めた。
「美味しいカボチャ料理もありますからどうぞゆっくりして行って下さいな」
 ミリィは最高の笑顔で涼介に加勢。
「……」
 双子は少しだけ沈黙した末、近くのテーブルに着席した。
「……あいつらも来たか」
 シリウスはあちゃーっという顔で双子を見た。一応これまでの事から予想はしてはいたのだが。
「花見を盛り上げていた双子さんですね。でも私達の席が隅のため向こうは気付いていないみたいですよ」
 直接の被害に遭遇した事の無いミルザムは少々気楽に笑った。ミルザムの言う通り顔見知りであるシリウスに反応する様子は無かった。
「今日は子供の相手があるからあいつらの事は他の奴に任せて一休みするぞ」
 シリウスは双子を警戒している涼介とミリィに気付いていた。
「そうですね。ここに立ち寄ったのはお菓子と歩き疲れた子供達のためですものね」
 ミルザムは同席したり近くの席に着いてお菓子を数えたりしている子供達の様子を眺めた。そして、シリウス達は折角だからとここで何か食べる事にした。ついでに子供達にも御馳走する事に。
 この後すぐに
「こんばんは、お菓子ちょうだい」
 着物を着た少年が現れた。
「はい、こんばんは。お菓子をどうぞ」
 ミリアは笑顔で迎え、クッキーを渡した。
「ありがとう。お菓子じゃないけどこれあげる。食べても体にカビは生えないから食べてみてとても美味しいから」
 少年、豆腐小僧はお返しにと持っていた豆腐を渡した。
 そこへ
「へぇ、豆腐小僧のお豆腐とはなかなか美味しそうだね」
 気付いた涼介も加わった。
「どうぞ」
 豆腐小僧は涼介にも豆腐を差し出した。
「是非、食べますね」
「ありがとう。お菓子をどうぞ」
 ミリアと涼介は礼を言って豆腐を受け取った。
 お菓子を貰ってうきうきしながら豆腐小僧は店を出ようとした。
 そんな時に
「なぁ、俺達とも交換しよう」
「ほら、お菓子」
 双子がお菓子交換を申し込み楽しい悪戯菓子を差し出した。
「いいよ、どうぞ」
 豆腐小僧は豆腐を二丁。
「……少しよろしいでしょうか」
 気付いたミリィがやって来て双子の手から菓子を取り、有する『薬学』にて確認を始めた。
「?」
 じっとミリィの様子を訝しげに見守る双子。
「……何も問題はありませんわね。どうぞ」
 確認を終え、悪い悪戯でないと判明してから豆腐小僧にお菓子を渡した。
「うん」
 豆腐小僧は嬉しそうにお菓子を持って店を出て行った。
「何で今、確認したんだよ」
「オレ達が変なお菓子をあげるわけないじゃん」
 双子は当然口を尖らせる。
「念のためだよ。これまでの事があるからね」
 と涼介。
「……むぅ」
 双子は何も言えず黙るもめげていない。
 なぜなら
「キスミ、この豆腐は例の奴だぞ」
「蕩ける豆腐。これを使って何か悪戯するぞ」
 悪戯のためだから。以前の花見にて豆腐小僧の豆腐の威力は遠くから見ていて知っている。面白い物を手に入れたらやってみたくなるのが悪戯小僧。
「豆腐にこの魔法薬を入れて……」
 ヒスミは自作の怪しげな魔法薬を注射器で混入。
「食べた途端、言葉通り蕩けるって事だな。ヒスミ、それ入れ過ぎだぞ」
 キスミはまだ節度があるため兄を制止を入れた。
「これぐらい入れた方がいいってハロウィンだし。盛り上げねぇともったいないだろ」
 ヒスミは悪戯な笑みのまま迷惑な言い分を披露するのだった。
「それもそうだな」
 兄の言い分に納得し悪乗りをするキスミ。
 そして
「よーし、早速」
「誰かと交換をしないとな」
 双子は素敵な悪戯豆腐を完成させた。
 その瞬間、
「うべっし!!」
 双子の脳天から小気味良い音が発生した。
「いてぇな」
「少し楽しい悪戯の準備をしてただけだろ」
 双子は叩かれた箇所をさすりながら背後にいる涼介とミリィに振り返りにらんだ。
「確かに悪戯の準備自体は怒らないよ。今日はハロウィンだからね」
 ヒスミの頭を叩いた折り紙つきハリセンを手にする涼介。『薬学』だけでなく『博識』を持つ涼介は双子がやらかす準備を整えたのを読み取ったのだ。
「ただ、やり過ぎはよくありません。せめて効果はハロウィンきりにするべきですわ。それは効果が一週間続きます」
 ミリィはキスミの頭を叩いたお盆を片手に笑顔で叱る。
「……」
 二人の正論に何も反論出来ず双子は押し黙ってしまった。
 双子が観念した所で
「ミリィ」
 涼介は双子が復活する前に片付けてしまおうと決め、ミリィに指示を出した。自分は双子の見張りを務める。
「はい、お父様、失礼します」
 ミリィは一言断りを入れてから豆腐を一丁回収し、丁寧に処理をした。
 この後、双子はカボチャ料理を美味しく食べてから出て行った。
 それからも客入りはよく皆美味しい料理とハロウィンの雰囲気を楽しんでいた。

 双子が去った後。
「カボチャのグラタン、美味しかったぜ」
 シリウスが双子の相手を終えた涼介に声をかけた。
 それに続いて
「このカボチャスープ美味しかったよ」
「クッキーも」
 子供達の元気な声が混じった。
「ありがとう」
 涼介は子供達に笑顔を向けた。
「双子の相手お疲れさん……と言っても他でやってるだろうけど」
 シリウスは労いの言葉も忘れずに追加。
「だろうね。今日はハロウィンであの二人の天下みたいなものだから。遭遇した時は気を付けるようにね」
 涼介はいない双子に対して呆れの顔で言ってから仕事に戻った。
「あぁ」
 シリウスは軽く答えて涼介を見送った。
 一休みを終えるなりまたお菓子を貰うために街を練り歩いた。

 カフェテリア『宿り樹に果実』出張店。

 営業終了後。
 三人は早速豆腐小僧に貰った二丁の豆腐の内一丁を一口ずつ食べてみた。
「このお豆腐、美味しいですわ。まるで極上のスイーツのよう」
「美味しくて頭がクラクラしますね。気を付けないと美味しさで倒れてしまうかもしれません」
 ミリィとミリアはあまりの美味しさに感嘆した。
「さすが、妖怪の豆腐だ。これで何か作りたいね」
 涼介はまた口をつけていない豆腐を見ながら料理上手の腕をうずうずさせた。