リアクション
* * * その頃、三階の別の廊下では―― 「おっ! あ、あれは!」 侵入者たちがいかにもか弱そうな少女の後ろ姿を見つけたところだった。 その姿はまさに可憐そのもの。金髪に純白のドレスと、いかにもお嬢さまな姿だった。 ――ただし二人だったが。 侵入者たちはその可憐な姿にじゅるりと涎をこぼした。 あの娘の下着が手に入るとなれば、どんなものでも犠牲にしよう! 男たちはこの家のご令嬢があの娘だと確信した。 ――ただしお嬢さまは二人だったが。 (ふっふっふ……見事に騙されてるわね) (でもでもっ…………お嬢さまが二人いるって、怪しいんじゃないでしょうかっ!? どう考えてもおかしな話ですよ!?) そう。もちろん二人は本物のお嬢さまではない。 アメーリエに扮した桜月 舞香(さくらづき・まいか)とフレンディスだった。 (なに言ってるの、フレン……男ってのはバカな生き物なのよ。だから絶対に気づいたりしないの。目の前の獲物に向かった疑いもなく飛びかかってくる獣なのよ!) (そ、そうなんですか……?) もちろん間違いではないが、かなり誇張はされている。 俗に言う『嘘ではない』という話である。 しかしそんな馬鹿な話通りの男たちが―― 「間違いない! あれがアメーリエお嬢さまだ!」 「いやっほおぉぉぉうっ! かかれえぇぇ!」 ――いたらしい。 妙なテンションで、侵入者たちが一斉に飛びかかってきた。 「きゃあっ! なっ、なんですの! あ〜れ〜!」 「…………きゃ、きゃあ〜…………」 舞香とフレンディスはそれぞれに、か弱いお嬢さまのフリをして倒れこむ。 彼女たちは金髪のカツラやアメーリエから借りたドレスを纏って、男たちを見事に騙しきっていた。 そして男たちが近づいてきたのを見ると、舞香はキランと瞳を光らせてドレスを脱ぎ去る。 「かかったわね! 総員、かかれぇー!」 「おおーっ!」 物陰に潜んでいたメイドたちが飛びかかり、一気に下着ドロたちを捕縛する。 「きゃっ、これ、あたしのお気に入り!」 「なんちゅー見境のない! やっちゃえやっちゃえ!」 「き、君たち、やめ……どええぇぇぇええ!」 メイドの下着まで盗んでいた男たちは、ボカスカと蹴りを入れられる。 もちろん舞香も容赦はしない。なんとかメイドたちの手から逃げて脱走しようとする男の前に、立ちはだかった。 「逃がさないわよ!!」 気合いの声とともに、ハイキックと膝蹴りが叩きこまれる。 「ぐぼぉっ! ………………あががが……」 悶絶した男は、苦悶の声とともにぴくぴく痙攣した。 大体、蹴られた部分は想像がつくというものである。 「あはは…………」 フレンディスは苦笑し、 「ほんと男って…………バカばっかり」 舞香はため息とともにそうつぶやいた。 * * * フレッドたちが屋敷に侵入を企てたその頃――。 反対側では、もう一人の侵入者の姿があった。 「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! ククク、この屋敷にある『ニブルナ家の赤きダイヤ』こそ、世界征服の鍵を握る伝説の秘宝! 必ずや、我らオリュンポスが手に入れてみせる!」 自分でも名乗っていたが、その名はドクター・ハデス(どくたー・はです)である。 ハデスはニブルナ家の赤きダイヤこそが世界征服への道を一歩前進させるものと信じて、勝手に侵入を試みてきたのだ。 もちろん、一人ではない。 「さすがはハデス様です! それでこそ悪の大幹部! よっ、日本一ぃ!」 ハデスの部下『オリュンポスの騎士』を名乗るアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)も、そのお供としてついてきていた。 「よし、アルテミス! では、例の作戦を実行するぞ!」 「了解です!」 ハデスの指示で、アルテミスは着替えを開始する。 変装するのはこの屋敷の令嬢であるアメーリエのような白いドレスである。事前にお嬢さまの容姿を確認していたハデスは、アメーリエがアルテミスと同じ金髪であることを知っていた。だからして、ここはアルテミスの変装技術に任せ、お嬢さまのフリをさせようというのである。 名づけて、『偽お嬢さま作戦!』。 ハデスは自身の案に絶対的な自信を持っていた。 「ふふふふ……これならば必ずやダイヤを手に入れられよう! 任せたぞ、アルテミス!」 「はいです! 私、頑張ります!」 屋敷の中にはもう一体の仲間を潜入させてある。 ハデスはもはや勝ちを確信していた。 * * * その頃、屋敷の中では――。 「ぴーががー。オ掃除、オ掃除シマス」 「きゃ〜っ、かわいい〜! 時代はやっぱりロボットよね〜っ!」 ハデスのもう一体の部下であるハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)が、屋敷に雇われたお掃除ロボットのフリをしながら巡回していた。 無駄にメイドたちの人気をさらっているのが憎い。 しかし、そのことにまったく気づいていない発明品は、身体中からあらゆる掃除道具を取りだしてピカピカに廊下を磨きあげていた。 雑巾、バケツ、はたき、モップ、吸い取り機、マシンガン、ハンドガン……。 一部、武器らしきものを所有しているように見えるが、細かいことは気にしない。 発明品のおかげで屋敷中が綺麗になっていて、メイドたちは満足だった。 しかしながら、その発明品にはある任務がインプットされていた。 それは『金髪の娘の下着』を回収することである。 「ぴぴっ……がーがー。回収、回収――」 金髪娘の反応を見つけた発明品は、その他の量産機のお掃除ロボットたちと一緒に、そちらに向かった。 * * * 「ふっ、他愛のない! 所詮は泥棒さんですね!」 アルテミスは自分をアメーリエと勘違いして襲ってきた下着ドロたちを一網打尽にしたところだった。 網にかけられて塊になっているそれを見て、満足げにぱんぱんと手をはたく。 ハデスの発明品が近づいてきたのはそのときだった。 「あら? あれはハデス様の発明品――って、きゃああぁぁぁぁぁっ!? なにするんですかぁっ!」 発明品は『金髪の娘の下着』を回収することをハデスにインプットされている。 そして、アルテミスも金髪。 したがって、発明品の目標はアルテミスにも降り注ぐ。 純白の下着を盗まれたアルテミスだが、それを知らない追加の侵入者たちは彼女をアメーリエと勘違いして接近してきた。 「見つけたぞ! あそこだ!」 「あっ、ど、泥棒さんたちっ! い、いまはダメです! こっち来ないでください〜っ!」 涙目のアルテミスは、泥棒たちから逃げ惑った。 * * * その頃―― 「むう……遅い……」 アルテミスからの報告を待っているハデスは、一人寒空の下に放置されていた。 いくら慣れた白衣とはいえ、夜は冷える。ぶるるっと、ハデスは震えた。 屋敷の中はなにやら騒がしいが、一体どうしたのだろう? ちらっと、ハデスは窓から中をのぞき見た。 するとそこには、逃げるアルテミスと追いかける泥棒たちがいた。 「嫌です〜〜〜! こっち来ないでください〜〜! あっ、あぁっ、スカートがっ!」 ひらひらっとめくれそうになるスカートを必死に押さえ、アルテミスは廊下を走り抜ける。 さらには泥棒に続き、「キンパツ! キンパツ!」と叫びながら追いかける暴走寸前の発明品の姿もあった。 ドタバタと忙しいその様子を見ながら、ハデスはつぶやいた。 「………………帰るか」 あの調子では作戦実行もままなるまい。 それにどうやら発明品の作業インプットも間違ったようだ。 この反省は次に活かすとしよう。 「さらばアルテミス! 無事を祈る!」 敬礼し、ハデスはその場を去っていった。 「博士〜〜〜〜〜!! 助けて〜〜〜〜! へるぷみー、かむば〜〜く!」 屋敷にはアルテミスの叫びが響き渡った。 |
||