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百合園女学院の進路相談会

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百合園女学院の進路相談会
百合園女学院の進路相談会 百合園女学院の進路相談会

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「それでは進路を伺おうかしら」
 それは進路相談と口にしたものの、対峙といった風だった。
 橘 舞(たちばな・まい)は大人しく、おしとやかなお嬢様だと思われている。そのパートナーの横にいれば大抵の人は活発に見えるかもしれないが、しかし普段から目立ちたがりで負けず嫌いのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)には、今日は妙な気迫が感じられる。
「ん? 私は、短大卒業したら、舞と一緒に、会社を建てようと思っているのよ。
 私も舞も一人っ子だから、いずれは実家の本業を次ぐことになるけど、それは……もう少し先の話だしね」
 とても簡単にそう言ってのける。口調はきっぱりとしていて、それでいてそんなことはどうでもいいと言わんばかりだった。
 ブリジットの態度を不思議に思いつつも、舞が補足した。大人しく見えても長年の付き合い、ブリジットに狼狽したりはしない。
「そうなんです。パラミタで会社を建てようって話をしているんですよ」
「ヴァイシャリーで?」
「パウエル商会から菓子部門の一部譲渡も受けて製菓メーカーを」
「もしかして……」
「……ええ、カエルパイです」
 頷く舞は、覚悟を決めたのだろうか。昔は、カエルなんてって言っていたような気がするのだが。
「私は、カエルパイはどうかと思いますけれど……ヴァイシャリー湖にはもっと美味しそうなお魚がいるのですし、もっと乙女の心をくすぐるようなパイはいかがかしら?」
「まぁ、私らのことはいいのよ」
 二人の会話を手を振って、ブリジットは遮る。流石の舞もおかしいと思ったのだろう、ブリジットに疑問を投げかける。
「って、あれ? 今日って私達の進路相談だったんじゃ……」
「――肝心なのはあなたのことよ、アナスタシア」
 そこで舞は、ブリジットの意図を汲み取った。……なんだかんだ衝突しているが。やっぱり友人のことは気になるのだろう。舞自身も気になる話題ではある。
「……? 今日は皆さんの相談会ですのよ」
 疑問符を顔に浮かべたアナスタシアに、ブリジットはぴしりと言う。まるで先生ができの悪い生徒に指摘するようだった。
「そう、あなたは後輩の進路相談をするかもしれないけど、肝心のあなたの進路相談は誰がするのよ」
 まだ戸惑っているアナスタシアに、もう進路相談は始まっているのだ、とブリジットは一人で決め込んで会話の主導権を握る。
「静香じゃ頼りないし、ドリルは、うーん、能力はともかく性格が悪い」
 ブリジットも、ラズィーヤ様ファンクラブに入っていたような気がするが。それにはアナスタシアも同意である。もっとも、アナスタシアが二人より頼りになって性格がいいか、というのは全くの別問題だったが。
「ラズィーヤ様には相談しませんわよ――地球では、こういうのを何というのでしたっけ? あの狸……いえ、女狐……狐と狸ってどっちが悪いのかしら? それとも女豹? にはなりませんわ」
「それに前、私に、忌憚のない意見を下さって有難うございますとかなんとか殊勝なこと言ってたじゃない、ほら、去年の夏だったかディナーした時に」
「しゅ、殊勝!?」
「というわけで、ぶっちゃけちゃいなさいよ。いずれは国に帰るんだろうとは思うけど、卒業後すぐに帰る? それとも、しばらくこっちに?
 あなたは仕切りたがりで黙っていても偉そうだし、政治家とか向いてそう。でも、正直まだまだ頼りないし、ドリルについて勉強するのも悪くないと思うわ」
 正面切って聞かれて、アナスタシアは言いにくそうに俯いた。こうしていると深窓の令嬢に見えるのだが。
「その……エリュシオンにはまだ帰りたくありませんの。実家を通して縁談を……お見合いのお話も出ていますけれど、その方のお写真を見る気にもなれませんの。ましてや実際に会ったこともない方となんて、とてもお会いする気にはなれませんわ」
 矛盾したことを言っているのに気付いているのかいないのか。
「結婚して誰だか分からない貴族の妻として一生を終えるくらいなら、シャンバラの宮殿に上がった方が性に合っていると思いますの。元々その予定だったのですし。でも本当は、ヴァイシャリーで――」
 勢いのまま言おうとして、それに何かを察したのか。
 ブリジットは悲しげな顔をしつつ言葉を遮った。
「あ……でもね、アナスタシア……、もし考えているとしても、探偵だけはやめときなさい。人には向き不向きってあるから……」
「……」
「…………」
「………………」
 二人の間に横たわった沈黙に、舞も流石に突っ込めなかった。
「………………向いてないかしら?」
 アナスタシアは頭を抱えた。
 ブリジットは悲しげに頭を振る。
 こうして、ビミョーな空気のまま、面談は終了した。