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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

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【ダークサイズ】謎の光の正義の秘密の結社ダークサイズ 壱

リアクション


 ダイソウたちが、ピストン輸送で真奈の小型飛空艇でアナザ・ダイダル卿の本体へ乗り込んだころには、襲いくるモンスターをかいくぐって、イシュタンがアナザ・ダイソウへの直接攻撃を仕掛けている。
 ダイソウトウを傷つけられるのはダイソウトウのみ。
 分かってはいるものの、自分で試してみなければ気が済まない性分か、イシュタンはいたずらっぽい笑みを浮かべて動き回る。
 イシュタンは【殺気看破】や【鬼眼】を駆使して、アナザ・ダイソウの視界から姿を消してかく乱する。

「ふーん。私の動きを目で追えるわけじゃないんだね。となれば、当てるのは簡単♪」

 イシュタンは、自分を探すアナザ・ダイソウの死角に回って、【ブラインドナイブス】を思い切り叩き込んでみる。
 重い音を響かせて、アナザ・ダイソウの体が吹き飛び、アナザ・ダイダル卿の表面をザザザと滑ってゆく。
 普通なら当然大ダメージのはずだが、アナザ・ダイソウは飛ばされた慣性を利用して片手で地面を突き放し、軽々と飛び上がって着地した。
 イシュタンはチェッと舌打ちし、ほほを膨らます。

「やっぱそうなんだ。ずるーい」
「ふん、言葉では理解せぬか。試せば納得できぬのは、愚か者の証左よ」
「こーんなかわいい子捕まえて、失敬だなーっ」
「ではその愚か者の手でさっくり逝ってもらいましょうかねぇ」

 という声が、アナザ・ダイソウのすぐ後ろから聞こえた。
 彼が振り返ると、そこには【羅刹刀クヴェーラ】を構えたレティシアの姿がある。

「モモちゃんのぶんですよぅ」

 レティシアが袈裟懸けに刀を切り落とし、そのままV字に刀を返して切り上げる。【燕返し】だ。
 彼女は切り上げた刀をさらに返して上段からアナザ・ダイソウの脳天を切る。

「今のはモモちゃんのぶんですねぇ」

 続けて横に返して腹部を切る。
 ズバッとクヴェーラがアナザ・ダイソウを切り裂く音がする。

「ちなみにこれは、モモちゃんのぶんですねぇ」

バシュッ

「今のもモモちゃんのぶんですねぇ」

ザシッ

「これもモモちゃんのぶん」

ドスッ シュバッ ザンッ ズバッ……

「モモちゃんのぶんですよぅ。これもモモちゃんのぶん、モモちゃんのぶん、モモちゃんのぶん、モモちゃんの……」
(あ、あの人こわーい……)

 イシュタンはアナザ・ダイソウではなくレティシアの顔を見て膝が震えだしている。
 レティシアがもう一刀、モモの分の攻撃を入れようとすると、

パシイッ……

 アナザ・ダイソウが真剣白羽どりでレティシアの刀を止める。
 彼はゆっくりレティシアを見上げて言う。

「さて、気は済んだかな?」
「……モモちゃんのぶううううううううん!」

 アナザ・ダイソウの言葉が神経を逆なでし、レティシアの形相が変わって刀を振り上げる。
 それをついて、アナザ・ダイソウがレティシアの顔をつかむ。

「返すぞ」

 と言うと、アナザ・ダイソウは到着したばかりのダイソウ目がけてレティシアを投げた。

「ちょ! あぶなっ……」

 ミルディアがダイソウの目の前に割って入り、レティシアを受け止める。
 その勢いで、ミルディアが地面に背中を打ち付けた。

「いったたたた……」
「ミルディア、レティシア、大丈夫か」

 ダイソウがミルディアに向かってしゃがもうとすると、ミルディアが何かに反応して目を開き、

「どいてーっ!」

 と、ダイソウとレティシアを突き飛ばした。
 そこにアナザ・ダイソウが放った魔力がミルディアを直撃する。

「うああーっ!」
「ミルディーっ!!」

 真奈がミルディアに駆け寄り、抱き上げる。

「さ、さすがにシリアスな人相手だとつらいね……」

 と、ミルディアは笑って言うが、明らかに無理をしているのがわかる。
 ダイソウはレティシアを寝かせてミルディアに寄って手を握る。
 ミルディアはどうにか手を握り返し、生きていることを伝えた。
 ダイソウはアナザ・ダイソウを見て言う。

「少しばかり、卑怯な手が過ぎるようだな」
「卑怯? 至極王道の攻撃方法にすぎぬが? それよりも、お前が直々に私の下へ来るとは、リスクが高すぎると思わぬのか?」
「お前を倒せるのは私しかおらぬようだ。ならばここに来るのは、至極王道の策にすぎぬ」
「そうだな。確かに王道の……下策だ」

 アナザ・ダイソウは容赦しない。
 ダイソウを狙って、第二撃の魔力を掌に充填し始める。
 ダイソウは立ち上がり、それを受けて立とうと皆の前に立つ。
 すると、

「いいかげんに……せんかーい!」

 スパーンと気持ちいい音を立てて、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の【雷霆の拳】がダイソウの後頭部にヒットした。
 ダイソウはつんのめって前に倒れる。
 アナザ・ダイソウも、思わず魔力充填の手を止めた。

「せ、セレン!? 今一騎打ちの空気だったじゃない! なんで? こんなタイミングで何してるのー!?」

 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は雰囲気ぶち壊しのセレンフィリティの肩を後ろから叩いて、慌てふためいている。
 セレンフィリティは肩をわなわな震わせてつぶやく。

「……つまんない」 
「え?」
「……おもしろく……おもしろくないんじゃああー!
「せ、セレン!?」
「なんなのこのマジな雰囲気はー!」

 ダイソウが起き上がり、セレンフィリティを叱る。

「何をするのだ。今大事なところなのだぞ」
「やかましいのよ!」

 セレンフィリティはダイソウの頭をもう一発スコンとはたき、

「ダイソウトウ! 何を真面目に一騎打ちなんか始めようとしてんのよ!」
「私はいつでも真面目だぞ」
「そういう意味の真面目じゃないわよ!」

 と、セレンフィリティはもう一発ダイソウを殴る。

「もうちょっとこう……いつものノリってもんがあるでしょーが! ちょっとミルディア? あんたもシリアスに命の危機を迎えてんじゃないわよ!」
「いや、あたしリアルにダメージ受けてるんだけど……」

 と、ミルディアは痛みで震える声でかろうじて言い返した。
 セレンフィリティはアナザ・ダイソウを見、

「とにかくね、こういう面白くもない戦いなんてあたしが許さないわ。まともな悪のダイソウトウなんて、何の存在価値があるっていうのよ。ゴミよゴミ」
「セレン、それは言い過ぎ……」

 セレアナがフォローを入れるがお構いなしにセレンフィリティは、

「そういうわけだから、冗談も通じないあんたがダイソウトウの一種なわけないわ。アナザーですらないわ。あんたなんかただの他人よ。ていうか、あんたが勝ってダークサイズがまともな悪役になったら、あたしが隠れ蓑にできなくなるじゃないの」

 シャンバラ国軍の中尉という地位を持っているセレンフィリティにとって、善なのか悪なのかよくわからないダークサイズは、自分のうっぷんを晴らす趣味として、格好のスケープゴートになっていたようだ。

「よく言ってくれた、って褒めてあげるよ」

 セレンフィリティの足元には、茅野 菫(ちの・すみれ)が立っている。

「シリアスなモードになってるってことは、すでにあっちの術中にハマってるってことだよねー。あいつの空気に飲まれるなんて、相変わらずダメダメだね。ダメソウトウだよ」

 と、菫がダイソウのすねをコツンと蹴る。

「でもま、そんなあんたには、いや、そんなあんただからこそ、あたしたちがついてるんじゃない。今までだってみんなで何とかなってきたんだし? あたしはあたしの大総統のあんたを信じてあげる。だからたまにはカッコいいとこ見せなさいよね」

 菫がニッと白い歯を見せる。
 彼女の言葉につられて、そろったダークサイズ幹部の面々がダイソウを囲んで力強くうなずく。
 ダイソウは彼らを見、うなずき返す。
 ダイソウは拳を前に突き出す。
 幹部たちも円になって拳を突き出す。
 セレンフィリティは、またシリアスな感じになってきたのを不満そうにしている。
 菫はメモを取り出しながら、

「ほんとは勝利した後の決め台詞なんだけど……」

 と、せっかくだから読んでみろとダイソウに見せる。そこには、

『我らがダークサイズに光を、あまねく世界に』

 と書かれている。
 ダイソウはメモから菫に目を移し、

「菫よ。これは権利的に大丈夫なのか」
「大丈夫じゃん? 四の五の言ってきたら著作権料払えばいいでしょ」
「そうか、では却下だ」
「えー、なんでよー」
「私にそんな金はないからだ」
「ああ……そうね」

 そんなことをしている間に、アナザ・ダイソウが手下のモンスターをけしかける。
 セレアナがすばやく迎撃態勢を取り、

「セレン、きたわよ!」
「了解! セレアナ、例の調査、頼んだわよ!」

 セレンフィリティは、アナザ・ダイソウを一直線に目指す。
 セレアナはダイソウに駆け寄り、

「ねえダイソウトウ、あなたの弱点を教えて」
「なぜだ?」
「別時間軸で別人格だけど、あなたとアナザーの弱点は同じかもしれないじゃない? それを聞いて、セレンがそこを攻めてみるわ。セレンじゃダメージにならないけど、あなたが攻撃しやすくなるわ」
「なるほど……私はしいたけが苦手だ」
「わかったわ」

 セレアナは走るセレンフィリティに向き直り、

「セレン! しいたけよ!」
「分かったわ、しいたけね! ……って」
『そんなん聞いて役に立つかーっ!』

 セレンフィリティとセレアナが同時にダイソウに叫んだ。
 セレンフィリティの望み通り、いつものダイソウの調子が出てきたのは良いものの、ツッコミをしている間にモンスターに取り囲まれてしまった。
 ちょうどそのころ、ピストン輸送の最終組、ダイダル 卿(だいだる・きょう)リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)
がアナザ・ダイダル卿の上へ到着した。

「ダイダル卿、自分で自分の本体に乗り込むのも、乙なものであろう」
「なにやら妙な感じじゃのう」

 年の功というか、敵対するアナザ・ダイダル卿に乗り込んでも落ち着いていて、むしろもの珍しそうにアナザ・ダイダル卿の本体を見渡す。
 リリはダイダル卿の肩によじ登り、

「ダークサイズがモンスターに囲まれているのだ。早速例の策を実行したいのだよ」
「じゃがわし、やったことないんじゃが大丈夫かのう……」
「君が本物の神なら理論上は可能なのだ。リリももっと強い英霊を召喚してみたいのだからな」

 と、リリはその準備に向け、詠唱に入る。
 ダイダル卿はリリを見下ろし、

「リリや、わしゃどうすればいいんじゃ?」
「君は強力な英霊を呼び出す触媒なのだよ。神のオーラでも纏っていてくれればいいのだ」
「そうか」

 そう言って、ダイダル卿は古代ギリシャ神だったころを思い返す。

「懐かしい古代の神々よ……皆今はどうしておるのかのう。わしはどうにか、面白おかしくこの世にしがみついとるわい。この娘の力を使って、たまには現世に遊びに来たらどうじゃ?」

 ダイダル卿は目をつぶり、懐かしい古代ギリシャ時代の風景を瞼の裏に浮かべる。
 その景色はリリの脳裏にも伝わり、それは心象風景となって二人の共有イメージとなる。
 そのイメージと重なって、リリは今まで感じたことのない強力な魔力の到来を感じた。

(ここまでは計算通りなのだ……リリの力を超える、強い英霊たち。ダイダル卿の呼びかけに応えてリリのもとへ集まってきたのだ……リリの魔力がもつかどうか分からぬが、それも一興なのだ)

 リリは心を決めてカッと目を開く。

「固有結界を、展開するのだ……!」

 リリがダイダル卿の神の力を触媒に、【召喚獣:薔薇の盾騎士団】を召喚。
 リリが魔力を解放すると同時に、空間に亀裂が入る。
 リリとダイダル卿の真上を中心にして、急速に別空間が開き、アナザ・ダイダル卿の上を侵食するように広がっていった。
 辺りは、地球上のはるか古代、ギリシャ神話時代の風景と変わる。
 見はるかす緑の草原、なだらかな丘、遠くには神殿がいくつか見える。それらは朽ちた遺跡ではない。ヒビひとつない美しい純白の石柱に支えられた神の居城である。

「おお……懐かしいのう」

 ダイダル卿は目を細めて辺りを眺める。
 一方で、驚愕と同様のまなざしで周囲を見るのはダークサイズとアナザ・ダイソウ、そしてモンスターたちである。

「な、な、なんなの? ここどこ?」
「どうして? どうしてこうなった!?」

 皆の混乱をよそに、リリはダイダル卿の肩の上で号令する。

「リリ・スノーウォーカーがダイダリオン神の名を以て、ここに神の軍勢を召喚する! すべての英霊たちよ、疾く推参されよっ!」

 そして、ダイダリオンが右拳を突き上げ、リリと共に叫ぶ。

『ダイダリオン・ヘタイロイ!!』

 直後、リリの後方彼方から巨大な地響きとともに、土ぼこりが舞う。
 一群となって押し寄せるのは、古代ギリシャ時代の神々をはじめとした猛者たちの大軍である。
 ダイダル卿の後ろに揃ったのは、軽く見積もっても数千を超えていて、結界内の地平線も軍勢で埋め尽くされている。

「こんなに応じてくるとは思わなかったのだ……」

 リリは予想をはるかに超える神軍に、ダイダル卿の肩からずり落ちてしまった。
 先頭の神が言った。

「ダイダリオン! 懐かしいおぬしの声が聞こえたと思えば、なんだその姿かたちは? まるで人間ではないか」

 ダイダル卿が答える。

「軍神アレス。今を生きるにはこれくらいがちょうどいいんじゃ。ちょっとわしが味方しとる人間が困っておっての、多勢に無勢なもんで、おぬしらちょっとあのモンスターたちをやっつけてくれんか」

 ダイダル卿の要請を受けて、軍神は笑ってから言う。

「なるほど、化け物退治か。面白い。我らを召喚せりはその娘か?」
「そうなのだ」

 軍神がリリに問い、リリは軍神を見上げて答えた。
 神はリリを剣で指して言う。

「では娘。我らに号令をかけよ。我らは一人一人が神と英霊の称号を得た者だが、ここでは呼び出されし者に過ぎぬ。汝の指示が必要だ。倒すべき敵を我らに示せ。行うべき行動を我らに説け。しかる後、我らは召喚されし者としてその首尾を、汝の前に現ずるであろう」

 神の言葉を聞いて、リリは頷く。
 まず、アナザ・ダイソウの配下のモンスターたちを指さす。
 そして叫んだ。

「蹂躙せよ!」

おおおおおおおおおおおおおおお!

 大軍が手に手に武器を鳴らして突撃を開始した。
 アレス、アテネ、マルス、ミネルバ、オーディン、ワルキューレ……
 ギリシャの古代神ではない神々もちらほら混じっているが、細かいことはまあいいだろう。
 神のお出ましとなってはモンスターたちもたまらず、次々と神々の手にかかって倒されてゆく。

「うーむ、ちとチートすぎたかのう、リリ?」

 一方的な戦のさまを見ながらダイダル卿はリリを見下ろすが、そこにリリの姿はなかった。

「……何をしておるのだ、リリ」
「うーん、うーん」

 ダイソウが、自分の足にまとわりつくリリに言った。
 軍勢の紛れて前進したリリが、ダイソウの足を抱えて持ち上げようと唸っている。

「ダイダリオン・ヘタイロイは陽動にすぎないのだ。リリの策の要は、ダイソウを剣となしてダイソウを討つ、『ダイソード』にあるのだよ」

 とリリは言うものの、彼女の腕力ではダイソウを持ち上げられそうにない。
 ダイソウはなるほどと言って、

「私を振り回してやつを倒そうというのだな」
「そうなのだよ。だからもう少し持ち上がりやすくなってほしいのだ」
「ではどうしろというのだ」
「10秒以内にダイエットしてほしいのだ」
「なるほど、しかしそれは難しいのだ」
「のだのだのだのだうっさいのよー! 早くしなさいよ!」

 ダイソウとリリのやり取りの向こうで、アナザ・ダイソウに攻撃するセレンフィリティが文句を言いながら戦っている。

「ダイソウトウ弱点! 早く弱点教えて!」

 いつものように【ビキニの水着】姿のセレンフィリティ。
 おっぱいをばいんばいん揺らしながら、【行動予測】でアナザ・ダイソウの体術をかわす。
 アナザ・ダイソウはセレンフィリティのおっぱいには何の関心も示すことなく、わき腹を狙って蹴りを放つ。
 セレンフィリティが蹴りを手で受けて地面を蹴り、アナザ・ダイソウの足の上に逆立ちする。
 そのままぐいと引っ張り、セレンフィリティがよろめいたアナザ・ダイソウの脳天に蹴りを振り落とす。

「ええい、【裸拳】の効果が足りないわ!」

 セレンフィリティは着地すると同時に、上半身の水着を脱ぎ捨てた。
 向こうでセレアナが何か叫んでいるが知ったことか、とセレンフィリティは【則天去私】をアナザ・ダイソウに顔面にヒットさせる。
 脱げば脱ぐほど強くなる(?)彼女の裸拳で上乗せした【雷霆の拳】が、アナザ・ダイソウの腹部にヒットして吹き飛ぶ。
 もはや布一枚で局部を覆っているだけのセレンフィリティを見ながら、セレアナは焦る。

「ダイソウトウ、早く弱点を!」
「うむ、だからしいたけだと」
「そうじゃなくて! 何か別のやつ……そうだ!」

 セレアナがひらめき、叫ぶ。

「セレン、帽子よ! あいつの軍帽を狙ってみて!」
「了解!」

 これまで軍服を剥がれたことはあっても、軍帽の中だけは決して人に見せたことのないダイソウだ。
 アナザ・ダイソウも、そこを狙われるのは嫌がるはずだ。
 予想通り、セレアナの言葉が聞こえたアナザ・ダイソウは、魔力放出でセレンフィリティを引かせて距離を取った。

「やっぱり……あの軍帽の中に何が秘密が……」
「つまり、ハゲってことだね」

 セレアナの隣で、菫がニヤリとして言った。
 菫がとことことアナザ・ダイソウに向かって歩き、

「ハゲでぼっちで嘘つき。そっちのダイソウトウは救いようがないね」

 冗談とか煽りの通じないアナザ・ダイソウは、ぎろりと菫を見る。
 菫は殺気に満ちた目に臆することなく、

「だってそうじゃん。ハゲフラグが立ってんのは当然でしょ。それにあんたのダークサイズの幹部はどこよ? だーれもついてきてないじゃん。アナザ・ダイダル卿なんてただの乗り物でしょ、これ。こんなのアナザーじゃないわ。仮よ。ダイダル卿(仮)。つまりあんた一人っきりで攻めてきたんでしょ。ぼっちじゃん。構成員もいないのに大総統って役職、おかしくない? 成立しないわ。だからあんたもダイソウトウ(仮)」
「……娘、先に死にたいようだな」

 もしや図星だったのだろうか。アナザ・ダイソウは今まで見せたことのない怒りの目と魔力を貯めた掌を菫に向ける。

「ハッ」

 菫は蔑んだ笑いを一つ入れ、

「そっちにイコンとか向日葵がないなんてのも、どうせあんたの嘘でしょ。イコンを手に入れるのに失敗して、向日葵にもフラれたんでしょ? あの子決断力ないくせに好き嫌いははっきりしてるし。あと20年くらい生まれるのが遅かったらよかったわね。あーかわいそう。ていうことはダイソウトウ(仮)じゃなくて、ダメソウトウ(仮)ね。ごめーん、謝罪して訂正するわ。手に貯まってる魔力もほんとにアルテミスのなの? アルテミスもあんたに愛想つかしてそ……」

 菫が言い切る前に、アナザ・ダイソウが魔力を発する。
 アナザ・ダイソウをへこませようと思ったら怒りに火をつけてしまった菫は、よけようとするが魔力の照射速度が速すぎる。

(やば……)

 よけきれないと思った矢先、菫の前に立ったのはダイソウだった。
 ダイソウは、その仕組みが全く謎の『なんとなクラッシュ』を放ち、魔力を相殺してみせた。

「私の幹部を傷つけるのは許さぬ」
「そういや、そんな技もあったわね」
「うむ、今思い出した。だが……」

 ダイソウのわけのわからない技よりも向こうの魔力が圧倒的に優っているのは目に見えている。
 ダイソウはがくりと膝をついた。

「くくく。せっかく回復してもらいながらふがいないことだな。次は回復するスキは与えぬ」

 アナザ・ダイソウは、第二撃を充填しながら笑った。
 菫がダイソウの肩を持つ。

「あんた。ちょっとカッコいいとこ見せたと思ったらもうやられてどうすんのよ」
「うむ、私の力はやつに及ばぬようだ」
「情けないこと言ってんじゃないわよ」

 アナザ・ダイソウを見ながら、リリが言う。

「しかしおかしいのだ。アナザ・ダイソウはなぜ魔力を連射できるのだ? アルテミスの力ならとっくにカロリーが切れてもおかしくないのだ」
「フハハハハ! その疑問には俺がお答えしよう!」

 リリが声のするほうを見ると、アナザ・ダイソウの後ろからドクター・ハデス(どくたー・はです)が現れる。

「我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクターハデス!」

 と言うと、ハデスはアナザ・ダイソウのマントをまくって見せる。
 そこには妙な機械がくっついている。

「そしてこれは私の最高傑作ハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)! こやつとアナザ・ダイソウトウをつなぎ、【ナノマシン拡散】とかいろいろ駆使してカロリー補給をし続けていたのだ!」
「ハデスよ。ダークサイズとオリュンポスは協力関係にあるはずではなかったのか」

 とダイソウが問うと、さらにハデスは高笑い。

「フハハハハ! 我らはあくまで悪の秘密結社! 悪の組織でなくなったダークサイズに用はない! 謎の光の正義の秘密の結社だと? ちゃんちゃらおかしくてへそで沸かした茶が蒸発してやかんが空焚きだわ! オリュンポスは、謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズの、アナザ・ダイソウトウにつく! そして!」

 ハデスはその宣言の後、【ユニオンリング】を取り出して指にはめた。

「俺の真の力を見せてやろう」
「了解シマシタ。合体こまんど、実行シマス」

 発明品はアナザ・ダイソウの背中から離脱すると、ナノマシン化して霧状となりハデスの周りに集まり、再度実体化してハデスの肉体を包む。
 発明品についている多彩なアタッチメントが展開する。
 【機械の触手】、【空捕えのツタ】、【女王騎士の銃】も発明品が持ち、ハデスの背中から多彩な武器が伸びる。

「ククク……これが、俺の最終形態メカハデス! 今まで世話になったな、ダイソウトウ。傷ついた今でも俺の攻撃が無効かどうか、確かめてみるとしよう!」

 直後、ハデスの女王騎士の銃が火を吹く。

「まずい! ダイソウが雑魚キャラにやられてしまう!」

 ダークサイズは色めきだつ。

「雑魚キャラ言うな!」

 ハデスも律儀にツッコむ。
 だが、それを静止して叫ぶのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)

「大丈夫であります! ダイソウトウはギャグ属性があるから、きっと平気であります!」
「いや、それが通用しない相手なんじゃないの!?」

 まだ傷が癒えないミルディアががんばってツッコむ。
 吹雪はそう言われて口に指をあてて考え、

「そういえばそうでありますね……あ、でも、自分もどんな目にあってもいつもなんとかなってるんで、実感として分かるんであります」
「それって、ただの勘なんじゃ……」
「と、とにかく。ダイソウトウがこんな負け方するはずがないのであります。それだと盛り上がらないであります」

 吹雪は無理やりすぎる論理で皆を落ち着かせる。彼女がダークサイズを制止したのにはわけがある。

(く〜っくっくっく。ダイソウトウとアナザ・ダイソウトウ。二人が……)
「相打ちになってくれれば、我が【非リア充エターナル解放同盟】が、イコンをいただくであります。自分たちの専用イコンで、全てのリア充共を地獄の業火に叩き込んでやるんであります。く〜っくっく」
「あのさ……企みがほとんど聞こえてるよ?」

 とミルディアが言うと、吹雪はハッと目を白黒させ、

「し、しまったであります! つい心の声を出してしまったであります!」
「やっぱやばいんじゃないか! 吹雪もスパイなんじゃないか!?」

 ダークサイズたちが吹雪に総ツッコミ。
 吹雪は両手をわたわた振り、

「ち、違うであります! あわよくばイコンを手に入れたいなんて野心は、持っているであります!」
「持ってるんじゃねーか!」
「はわわ! 墓穴であります〜!」

 吹雪が頭を抱えたところに、ハデスの銃口がダイソウからダークサイズたちに移る。

「さて、ダイソウトウを撃ちまくるのは飽きてきた。俺の目的はあくまで貴様らダークサイズ幹部たち! アナザ・ダイソウトウよ。邪魔な者共は、俺が露払いしてやる。世界の半分はオリュンポスに寄越すのだぞ!」

 と、ハデスの銃と触手たちがダークサイズに襲い掛かる。

「のわー! やっぱ吹雪のせいでピンチになった!」
「いやぁん、触手がぁ〜」
「ち、違うであります。オリュンポスと非リア充エターナル解放同盟は別組織でありますから……あーもう、仕方ないでありますー!」

 吹雪は身から出た錆となった誤解を解くため、ハデスに向かって走り出す。

「ハデスのせいで、自分が誤解されたであります! 責任取ってもらうでありますー!」
「フハハハハ! 知ったことかー!」

 走る吹雪の正面から、ハデスの触手が迫る。
 吹雪は思う。

(よく考えたらダイソウトウのほうが不利であります。相打ちにするには、ダイソウトウを助けないとまずいであります)

 吹雪が武器を取り出しそうなのを見て、ハデスはニヤリと笑う。

「ククク、正面攻撃をまともに食らうほど愚かな俺ではない。防御だ! フォースフィー……」

ごん!

 【フォースフィールド】を展開しようとしたハデスの顔面に、吹雪の【歴戦のダンボール】が激突した。

「見たかであります! 【歴戦のダンボール術】を!」

 ただ投げただけなのだが、属性防御を使って一手誤ったハデスには届いたようだ。

「自分はリア充を滅ぼしたいだけであります! アナザ・ダークサイズだと誤解されるのは困るであります! 困るでありますキーック!」
「どわああー!」

 吹雪の八つ当たりキックがハデスに炸裂。
 一発でハデスは吹き飛んでしまった。
 すっ飛んで行く勢いで、ハデスと発明品のユニオンリングが外れ、ぽーんと飛んで地上へと落ちていった。