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ジゼルちゃんのお料理教室

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ジゼルちゃんのお料理教室
ジゼルちゃんのお料理教室 ジゼルちゃんのお料理教室

リアクション

 グリーンゴブリン隊がナオに陥落するのを別室で見ていた三人の新たな兵士が、廊下へ続く扉を開いた。
「可愛い少年とかマジ反則ですわー」
「ですわー」
「だが我らブラックハート隊に比べれば奴等もまだまだよな」
「そうそう、チュバイス少尉の闇の軍団の中では俺達がさいきょうおあッ!!


 三人の兵士が『不過視の糸』に逆さに吊るされるのを、唯斗は信じられないという面持ちで見つめていた。
「こうもあっさり捕まるとは……」
 そして抜けられないとは、唯斗は考えもしていなかったのだ。
 プラヴダといえば、唯斗が知っているのは戦闘集団と言える程そちらの面に特化した人物ばかりだったから、糸を張った程度では安心出来ず、次の手も、そのまた次の手も用意していたというのに。
「――使うところ無かったな」
「うるさい! 皆が皆強いと思うなよ! 動けないデブもいるんだよ!」
「デスクワークばっかだと太るんだよ!」
「あと訓練すると腹減るんだよ! 飯はおかわり自由だからつい食べ過ぎちゃうんだよ!!」
 太った原因を洗いざらい吐いてくれた三人のぽっちゃり兵士達を前に、唯斗はどうしたものかと考えて居た。
「取り敢えずキアラに連絡すっか……」
 彼が端末をポケットから取り出していたその時だ。
「我々の最大の敵ハーレム王め! 死なばもろとも!!」
 ハッと顔を上げれば、一人の兵士が二重顎で支えたフラッシュバンのピンを口に咥え、今抜かんとしている。
 唯斗がそれに反応しようとしていると、それよりも早く三人の兵士達が地面に転がり落ちた。
「糸が――!」
 唯斗が振り返れば、トゥリン・ユンサル(とぅりん・ゆんさる)が手にした槍を横薙ぎにした姿勢の侭で立っている。糸を切ったのは彼女だったのだ。
「これは没収しますね」
 と、フラッシュバンを取り上げたのはスヴェトラーナだ。
「遊びでこんなものを使うのはやり過ぎですからね」
「ユイト、報告に行く。一緒についてきて」
「おう。
 って誰のところだ?」
 唯斗の質問に、トゥリンは地面に転がる三人の兵士へ振り返る。
「ヤンのしごきが一番キツい。
 コーリャのお説教は一番疲れる。
 ハインツに殴られるのは一番痛いって?
 でもアンタたちが一番怖いのは、アレク……だよね?」
 そしてマオウロリータ様は、唯斗の顔を見上げにやり笑った。
「さ、ユイト……誰のところに行こうか?」



「どう?」
 壮太が不安そうに覗き込んできたのに、ジゼルは咀嚼を続けたままサムズアップで返す。
「そっか、じゃあこれ。
 余りで悪いけど、良ければおにーちゃんと一緒に食べてくれ」
 シンプルなラッピングが施された完成品をそのまま渡して、壮太はほっと一息つく。
 そもそも壮太は料理がさっぱり出来なかった。
 それは瑞樹のようなぶっとんだものではなく、食材を切るところまでは出来るけれど、火加減や味付けが分からないと言ったもので、料理下手というより料理経験が無いというのが正しいだろうか。
 だから今日は椅子に腰掛けたまま机に顎をくっつけ「ふーん」とか「へー」とか相槌をうちつつ皆の様子を見守ったり、洗い物などのサポートに徹していた。
 しかし大切な人の為に頑張る皆の姿を見ていれば、壮太の頭にも大切な彼の姿が過る。
 バレンタインデーは何もしなかった。
 忙しかったから。
 手作りを渡したかったとか、そういう訳じゃない。
(そもそもオレは食うの専門だし)
 ただ幾ら忙しかったからと言って、『そういう日』にプレゼントを何もしなかったというのは――
(流石に拙かったよな……)
 と、考え出してしまえば悶々と沸き上がってくるものがある。
 始めこそ洗い物をする手の力を強くして追いやっていたそれも、時間が経てば経つに連れて、頭をすっかり支配してしまった。
 結局観念した壮太は、皆の指導が一段落したジゼルを捕まる事になってしまった。
「幼稚園児でもできそうな、いちばん簡単なチョコの作り方を教えてくんねえ?
 オレほんとに料理できねえから、できれば一緒に作ってほしいんだけど」
 ボソボソ頼めば、彼女はそれを小さく笑って快諾してくれた。
 とても上手くいくとは思えなかったが、出来る人にマンツーマンで指導してもらえば何とかなるものらしい。
 売り物のよう、とまではいかないまでも、今テーブルの上にある包みに入っているのは、見た目も味もいい。
 それはプラスチックの小さな入れ物にガナッシュを入れバラまくだけのトッピングを施したもので、失敗のしようがないメニューではあったが、心のこもった手作りのプレゼントには変わりないのだ。 
「きっと喜んでくれるわ」
「そうかな」
「優しいもの、彼は。
 それに大好きな人から貰える好きって気持ちは、とても嬉しいものよ」
 微笑みかけられて、今更ながら恥ずかしくなり、壮太は頭を抱えてしまった。

 さて、こうして最後のレシピが完成まで無事にこぎ着けたのには、キアラに頼まれた仲間達の尽力あってこそだったのかもしれない。
 今もさゆみとアデリーヌの二人が、食堂を警戒している。
「ホワイトデーに反感を持つのは仕方がないにしても、だからと言って妨害するのはいかがなものかしら?
 しかもやっている事は見た感じ『な、なにそのピンポンダッシュのようなどうしょうもなさは……』って頭を抱えるよーな下らないものばかり」
「そうですわね。
 さっきなんてトッピングの同じ色を減らすとか言ってましたわ」
「こんなんでよく兵士やってられるなあ」
 しかし、こんな会話を交わていたさゆみとアデリーヌは、ドミトリー隊最後の刺客である見た目はモブ兵士ロベルトの存在には全く気がつかなかったのだ。
「一緒にきて貰いましょうか……」
 背中に何かを突きつけられた!
(これは銃!? アディ!)
 さゆみの視線に、アデリーヌは黙って(従いましょう)と首を振る。
 こうして二人は誰にも気付かれぬままロベルトに何処かへ連行されて行くのだった――。