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××年後の自分へ

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××年後の自分へ ××年後の自分へ

リアクション

「これが未来体験薬という物を染み込ませた便箋……」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はまじまじと便箋を見つめる。どう見てもただの紙。
「……未来の自分へという事なら10年後のあたしに宛てて書こうかなぁ。確か……」
 ネージュは何年後の自分に書くのか決めて想像しながら鼻を便箋に近付けて染み込ませた匂いを嗅ぐと同時に色々な光景が頭に浮かび、次第に鮮やかになっていった。

■■■

 10年後、森の中の獣人の集落。

 集落の中に丸太を組んで作った幼稚園のような建物があった。
 丁度ネージュが代表を務める児童館兼孤児院の『こどもの家「こかげ」』にそっくりであったが、どこか様子が違う。
 建物を覗くと
「みんなー、大きな声で歌おうね♪」
 オルガンの前に座ったネージュが集まった子供達に言うと
「はーーーい」
 子供達は元気に返事を返した。
 子供達の返事を聞いたネージュは童謡を弾きながら子供達と元気に得意の歌を歌い始めた。その姿は保育士そのものであった。つまり児童館が保育園となっていたのだ。
 賑やかな歌の時間が終わると
「みんな、好きな物は出来たかなー?」
 賑やかな粘土の時間。
「見て見て」
 大好きなヒーローを作った男の子。
「かっこいいねぇ」
 ネージュはにっこりと笑顔で男の子の絵を褒める。
 中には
「ネージュせんせー、見て見て、せんせーを作ったよ」
 大好きなネージュ先生をモデルにした女の子もいた。
「うわぁ、ありがとう。とっても美人さんに作ってくれてうれしいなー」
 ネージュはにこにこと喜んで見せる。当然、小さな子供が作った物なのでかなりお粗末な物だが、自分を慕い題材にしてくれた気持ちが嬉しい。
「二人ばっかり褒められてずるーい」
「僕も僕も」
「りっちゃんのも見て」
 大好きな先生に褒められた二人に妬いて子供達が次々と作品をネージュに見せて褒められようとする。
「み、みんな、ちょっと、待って」
 大人気のネージュは大慌てながらも口元は綻んでいた。なぜなら子供達の笑顔に囲まれていたから。

 そうしていつも賑やかな子供達の笑い声が保育園から洩れて側を通る集落の住人達の心もほっこりさせていた。

■■■

 想像から帰還後。
「……児童館が保育園化かぁ。水穂さんもはりきったんだね、たぶん」
 ほっこりした気持ちのネージュは現在の『こどもの家「こかげ」』で園長をする獣人の仲間の事を思い浮かべていた。
「それにネージュせんせいってあたし保育士さんになってた。やっぱりせんせいになるために頑張ったということかなぁ」
 保育士を想像した事にはとても納得していた。なぜなら幼児体型のためかネージュは、いつの間にか子供好きになっていたから。
「……でも10年後、カレーのお店とかどうなっているんだろう」
 想像しなかった事柄について少しだけ小首を傾げるも
「……手紙を書かなきゃ、頭に浮かんだあたしに向けて」
 すぐにネージュはペンを手に持ち、
「……(未来のあたしは、水穂さんと仲良くこどもの家を運営しているんだろうね。多くのパートナー達も手伝ってくれていると思います。今のあたしも頑張ってるからね)」
 頭の中で文章を考えながら書き始めた。10年後の自分に届く事を願って。