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一会→十会――絆を断たれた契約者――

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一会→十会――絆を断たれた契約者――

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【エピローグ】


「困りましたねぇ……。
 あの採石場、お陰で永久凍土になってしまいそうですよぅ?」
 エリザベートからのじとっとした視線を受け、横に並んで座るアレクと豊美ちゃんは誤摩化すように首をちょこんと傾げた。

 事件は一応の解決を見た。魔法世界とこちらの世界を繋いでいた魔法は打ち砕かれ、『君臨する者』ゴズと亜人の軍団は採石場で物言わぬ像と化した。
 しかし一帯は全ての活動が停止した状態となっており、うかつに近付けば自分も凍ってしまうのではないかという錯覚すら与える土地となってしまっていた。元々そんなに人が近付く場所でもなかったのだが、そんな場所が出来てしまったというのも問題である。
 常人では踏み込む事も出来ない大地の氷像――見込みは薄いが、ゴズから魔法世界の事や、ヴァルデマールの事を聞き出す必要もあった。

「まあ、あなたたちも随分な目にあったようですしぃ、魔法石も持ち帰ってきましたし。
 雪かき氷かきはディミトリアスにでもやらせますかぁ」
 エリザベートの思いつきに、ディミトリアスの与り知らぬところで彼の不憫さが増して行く。
「生徒の責任をとるのもまた、教師の務めだから仕方有るまい」
 と、アルツールがイルミンスールの同僚に同情しつつ首を横に振った。そしてアッシュに向き直り、教師として生徒に指示するように告げた。
「アッシュ君、君には今回の調査の目的であった、パラミタの鉱石と君の世界の魔法石の特性についてのレポート提出を指示する」
「はい、先生。一週間以内に調査結果を報告するよう、尽力します」
 その返答にアルツールはうむ、と頷き、それ以上の追求を避けた。本当は彼の過去の成績を引き合いに出すことも考えていたが、アッシュの真面目な態度を見て一定の評価を下した結果だった。この点彼はやはり、生徒の成長を何よりも願う教師であった。
「魔法石と言えば……あなたの世界はこちらの世界と時間の進みが違うようですねぇ?」
 エリザベートの質問に、アッシュがそうみたいですね、と答える。あの事件の後戻ってきた契約者達は、数日の時を過ごすうちに一年もの歳月に感じられたあの時が、まるで夢のように一瞬だったと感じられる様になった。それは感覚ではなく実際そうであり、彼等が飛ばされた異世界『魔法世界』はアッシュの元いた世界だったが、そこでは流れる時が此方と大分違うのだという。
 アッシュがその経験のわりに、未だ子供のような容姿を保っているのも、彼の身長が何時迄経っても伸びなかったのも、魔法世界に暮らす人間だったからなのだ。
「僕の両親や仲間が、魔法世界からこちらに逃げてきた時、あそこはもうヴァルデマールの手に落ちかけていたらしい。
 今はどうなっているのか…………」
「俺達は皆採石場に居たからな。
 残念だが、外の様子までは分からない」
「うん、ありがとう。いいんだ」
 故郷の様子を気にするアッシュに、豊美ちゃんが元気づける様に頷いて返すと、エリザベートがふぅ、と息を吐き出し続けた。
「とりあえず今回の事は不問にしますぅ。この事は私と大ババ様で処理しちゃいます。
 アッシュ、先生に言われたことをちゃぁんとやってくださいねぇ」
「はい、分かりました。
 まずはこちらの世界でも、魔法石に二つ名を付けることで付けた名前に応じた効果を発揮させられるようにしたいと考えています。
 合わせて武器や法具にすることで汎用性を高められるように出来たらと。
 これには既存の鉱石を用いた武器や法具をいくつかお借りしたいのですが、構いませんか?」
「それならいいですよぅ。後で大ババ様に持って行かせますねぇ」
 二つ名という言葉に内なる中学二年生を蘇らせようとしていたアレクをハインリヒが抑えている。
 そんな騒がしい中でアッシュとエリザベートが魔法石についてのやり取りをいくつかして、この場は解散となった――。


「ウマヤド、私が居ない間『豊浦宮』を護ってくれて、ありがとうございます」
 帰り道、豊美ちゃんが改まってお礼を言うのを、馬宿は黙って一礼することで答えとする。それは彼にとっては、わざわざ礼を言われるまでもなく当たり前にするべきことなのだから。
「……私は前々から、豊美ちゃんが彼と関係を続ける事に危惧を抱いていました。
 それは今回の様に、豊美ちゃんが望まぬ戦いに手を染めてしまわないか、という危惧です」
 だから、その後に馬宿が言葉を続けたのは、彼が豊美ちゃんに求めた『お返し』だった。
 ――アレクはただの変態お兄ちゃんではなく、軍隊を指揮する立場にある者。そして軍隊はどこまで行っても、戦うための組織である。
 彼等の傍に居るジゼルやミリツァは、人殺しなど出来ないような優しい心根を持った少女達だが、それでも音響兵器として強化人間として、戦う者の力になる事を望んでいる。あの戦いの時、豊美ちゃんはジゼルの中にそれ見たのだ。
 戦いを――この場合の戦いとは、悪い人を改心させるというある意味ファンタジックなものではなく――義務付けられた者との付き合いは、豊美ちゃんの心を変えてしまわないか。
 そんな危惧が、馬宿の中にはあった。
「……戦う力そのものを否定するつもりはありません。私も昔には考えもしなかった、戦う力を身に付けるための行いをしていますから。
 ですから……これは私のお節介と思ってもらって結構です。……願わくば豊美ちゃんが今の私の言葉を頭の片隅にでも留めていただけるなら、それに勝るものはありません」
「はい、分かりました。今の言葉、私は忘れません」
 そう宣言する豊美ちゃん、言葉の裏には『どんな魔法をかけられたとしても』という言葉が潜んでいた。
「あと、お節介なんかじゃないですよ。ウマヤドがそうであってくれるからこそ、私は安心して背中を預けられるんですから」
「……もったいないお言葉です」
 再び一礼して、馬宿は一歩先を行く豊美ちゃんの後ろに付いて帰路を共にした――。

担当マスターより

▼担当マスター

菊池五郎

▼マスターコメント

シナリオにご参加頂き有り難う御座いました。

【東 安曇】
 執筆前は(スキル無し)の縛り戦闘を想像していたのですが、思ったよりも感情面に重きをおいたアクションが多く、驚きと共に今回も楽しく執筆させて頂きました。
 何時も様々なアクションを、有り難う御座います。そしてバトルしか考えが無かった自分の脳筋具合も自覚致しました。ははははは。

【猫宮 烈】
 参加いただきどうもありがとうございました。

 今回非常に苦戦したのは、MCとLCの関係をどう描写するかでした。
 なんだか行動描写が多いのは、心理描写まで踏み込めなかった自分の未熟さが出ているものと思っていただければ。ははははは……いや、笑ってもられないですね、反省です。

 個人的には心理描写というのは色々と問題を含むものだと思います。ですがそういうものだからこそ、『行動の結果こうなった』以外の部分を補えるものだと思っています。
 今回のシナリオはそんな問題が浮き彫りになったりもしました。勉強させられたと思っています。

 残り僅かではありますが、今後もこうして皆さんに学ばされつつ、シナリオを運営していきたいと思います。


それでは、次回は9日(もしくは7日)にシナリオガイド発表予定の【一会→十会 ―終わりの無い輪舞曲―】で、
またお会い出来れば幸いです!