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【蒼空・三千合同】鍋会にいらっしゃい

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【蒼空・三千合同】鍋会にいらっしゃい

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8.闇鍋 ――実食!

 いよいよ闇鍋の実食。
 僅かに灯っていた明かりも消され、洞窟は真の闇に包まれる。
 そこに、一人の女性が宣言した。
「私は霧雨透乃! 掴んだものはたとえどんなものでも絶対に吐いたりせずに食べきってみせるよ!」
 そして鍋に菜箸をずぶりと差し込むと、ぐるぐるぐるりとかき混ぜる。、
「時間が経つほど具に味が染み込んでやばいことになるだろうから自信がない人はさっさと食ったほうがいいよ!」
 周囲に与える謎のプレッシャー。
「私? 私はもちろん、ある程度味が染みてからにするよ」
 不敵に笑って見せる。
「なら私が一番箸を行かせてもらうよ!」
 先に宣言したのとそっくりな声が響いた。
 緋柱 透乃。
 もしもここに灯があれば、霧雨 透乃と緋柱 透乃、瓜二つの姿を互いに確認できただろう。
 しかし透乃はそれには気付かない。
 鍋に全身全霊を集中させる。
「引きの悪さなんか気にせず、食べつくしてやる!」
「へえ、気合十分ね」
 ぐにょ。
 箸から伝わる、あまり気味のいいものではない感触。
 それでも透乃は覚悟を決めて、口に入れる!
「……ん?」
 口内に広がる香ばしい肉の感触。
 次いで、べちゃっとした出汁の染み込みまくった何か。
「もぐ……これは、ハンバーグと、パン……?」
「あ、私のだ」
 霧雨が入れた墓標バーガー。
「むぐ……ハンバーグは美味しいけど、パンは最悪で……微妙」
 とりあえず大凶からは免れたようだ。
「そ、それでは、私も……」
 パラミタの緋柱 陽子も恐る恐るパートナーに続く。
 ぐにょん。
「う、うわあ何だかすごく変な感触です」
「大丈夫、もし変なモノだったら、私が代わりに食べてあげるよ!」
 口移しで……
 うふふとほくそ笑む透乃。
「ああ、あ、歯にぐにゅっと……ん?」
「どうしたの?」
「これは……牛のモツですね。まだそんなに煮込まれていませんが、食べられないほどではないかと……」
「食べられない? 食べられないよね! なら私が口移しで食べてあげる!」
「え、あの、んん、ん……っ」
 透乃の台詞の後、陽子の言葉が不自然に途切れた。

「わ、私も早々に行かせていただきます!」
 パートナーの言葉を受け、箸を突っ込んだのは特異者の方の陽子。
 ふにょりとした感覚が、箸から伝わってきた。
(できれば苦手な物ではないといいのですが……)
 もしも苦手な物が当たったら、女性に無理やり食べさせられている妄想をしてなんとか切り抜けましょう!
 そこまで覚悟を決め、箸を口に運ぶ。
 ぱくり。
「……んー…これは、美味!」
 口に入ったのは、なんとアワビだった。
(美味しい上に……なんだか何かを連想しそうな怪しくも素敵な舌触りが……うふふふふ)
 養殖した者が聞いたら泣きそうな妄想を入れ込みながら、アワビを完食する陽子。
 ちなみに、味が染みた後に透乃が掴んだのは、かろうじて溶け残ったほんの小さな欠片だった。
 口に入れた透乃の表情が歪む。
「んにゅ……甘いぃ……」
 全能神のチョコレート、の溶け残り。
「ええい気にしない!」
 透乃はぐちゃりとその欠片を噛み砕き、飲み込んだ。

「よーし、いっぱい食べますよ〜!」
 皆が一様に怯む中、待ちきれないと言った様子で箸を運ぶのは高天原 さくら。
「この日のために、3日間、食事を我慢してきたんですから、闇鍋でどんなものが当たってもいいので、お腹いっぱい食べますよっ!」
 赤貧のさくらは悲しい決意の元、箸を運ぶ。
「闇鍋のコツは、箸で掴んだら、何も考えずに一気に食べてしまうことですっ!」
 ぱくっ、ふにゃ……っ。
「こ、これは……」
 アワビだった。
「お、美味しいーっ! 美味かつ高級食材ゲットですぅ〜っ!」
 感涙にむせびながら、さくらはアワビを完食した。

「お、おかしい……」
 そんな反応を見ながら、アリス・セカンドカラーは首を傾げる。
「あの蛍光ピンク鍋から食べられるようなモノができるなんて……」
「豆乳のおかげですね」
 エンジュ・レーヴェンハイムが自信たっぷりに答える。
「俺のナラ辛カレーの威力も消されるなんて……」
「豆乳のおかげですね」
「豆乳すごい!」
 崩れ落ちる唯斗の隣で、エンジュは悠然と箸を伸ばす。
(どんな素材も、火を通せば大丈夫のはず……!)
「……あとは頼みましたよ……」
「おっとぉ!」
 そんなエンジュに朱零こと緋來が体当たりする。
 大切な人物への危険を察知したのか、エンジュが触れそうになったモノを自らの箸で横取りする。
「毒見は、俺の役目だ」
「緋來」
「ったくどこの世界に旦那差し置いてフラグ立てる妻がいるんだよ!」
「緋來……」
 暗闇の中でも感じるエンジュの視線に、緋來はふっと目を逸らす。
 そして、箸で取ったモノを口に運ぶ。
「……ぶはっ!」
 それは、インスマスの切り身だった。
 リアルに緋來の意識が遠のいてゆく。
「ひ……緋來っ!」
「そんな目で見るなよな……大丈夫だって……戦乙女のお前がついてくれているなら、エインヘリアルの俺は安心して……逝けるからな……」
「緋來、緋來ーっ!!」
 闇鍋最初の犠牲者だった(死んでません)。
 ちなみにエンジュは缶詰の桃。
 鍋には厳しいが、豆乳のおかげで食べられないものではなかった。
「だ……大丈夫!?」
「……命には、別状ないようですわ」
 治療のためスタンバイしていたミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)和泉 真奈(いずみ・まな)が駆け寄る。
 しかしエンジュが緋來の側から離れず看病しているため、自分達の出番はないと判断。
 ここは、エンジュに任せることにしたのだった。

「納得……いかない……ん?」
 アリスの箸が捕えたのは、蠢く球体。
「これよ、このカオス的物体こそ闇鍋よ!」
 確認もせず口へ運ぶ。
「マ、待テ、待ツノダ、少シハ確認ヲシローッ!」
 それはうっかり鍋に落ちた夢宮 ベアードだった。
 何本も生えた手が必死で口を抑える。
「負けない……っ!」
「ヤ、止メロ……アッーー!」
 アリスとベアードの攻防は続いた。

 こちらでも、美しい庇い愛が繰り広げられていた。
「危ないっ!」
 信道 正義は真っ直ぐに箸を伸ばした。
 そして、納屋 タヱ子が今にも取ろうとしていた食材を代わりにゲットする。
「正義、さん……?」
「……気にするな。俺はこっちが気になっただけだ」
 暗闇の中、見えないタヱ子に微笑みかける。
 そう、大丈夫。
 よほど変な食材でなければ。
 危険な役は慣れている。
 心配無用。
「け、決して、決してやせ我慢じゃないからな」
「正義さん……心の声の順番がおかしいですよ?」
「はっ!? い、いやそんなことは……」
 タヱ子に言われ、正義は誤魔化すように箸を口に運ぶ。
「ん……長い……堅い……こ、これはもしや……」
 ヘビだった。
 処理済みであればともかく、芦原 郁乃が取り立てのヘビを放り込んだものだから堪らない。
「う、ウロコが……」
「正義さーん!」
 崩れ落ちる正義。
(いいんだ……俺がどうなろうと、タヱ子さえ無事ならば……)
 そんなタヱ子が取ったのも、何やら細長いぐにゃりとした物体。
(ま、まさか……!)
「う……ん、味が、染みて……ぐにゃぐにゃです」
 鍋で煮えまくった棒状の駄菓子だった。

「一応、最低限の準備はしておこうか」
 柊 恭也はトランキライザーを使い、精神の安定を図る。
 次に使用するのは、アナライズ。
(これで、分析して少しでもマシな食材を……)
 しかし闇鍋は(一応)敵ではなく、詳細を量ることはできなかった。
 恭也は闇雲に突き出した箸で、とある物体を掴み取った。
「ま、まあいい……あれだ、面白ければなんだっていいんだよ!」
 覚悟を決めて恭也は掴み取ったモノを持ち上げた。
「ん……なんだこれ?」
 とりあえず口に運ぶ。
 さくっ、ぐにゃっ、もぎゅもぎゅもぎゅ。
 固い物体、柔らかい物体、とりあえずどれも栄養満点。
「……レーション?」
 そう、パワードバックパックの中に入ったコンバットレーションだった。
「……不味くはないが、いまいちだったな……」
 意外に味の良い物体を、恭也は飲み込んだ。

「私達も……行きましょう、か……全能神様……」
「そうだね、そろそろ僕が闇鍋のお手本を見せてあげるとしようか」
 マジョラム・アルカードと田中 全能神は揃って箸を伸ばす。
「ん……にゅ!?」
 マジョラムが口にしたのは、テイストミースイーツ。
 アップルパイとティラミスとカボチャとローストビーフとキャラメルとハニートーストを混ぜたような味がマジョラムの口の中に広がった。
「ん……ん」
 美味しいのか不味いのかいや美味しいは美味しいのだがどう反応していいのか分からずマジョラムは混乱する。
「ああ、これは美味しいね」
 全能神が取ったのは野菜……白菜だった。
 全能神らしからぬ無難な食材だ。

「んん……んー……」
 篠月 糺が口にしたものは、一瞬ぐにっとした歯ごたえの後ゆっくりと歯が沈む。
 そして中からミントのような爽やかな香り。
「んー、結構、美味しいな。でも、これは一体何だっけ……」
 それはリコリッツ。
 鍋の中に入っていると、お菓子というより一瞬怪しげな肉かと誤認しそうになる。
 どんなに吐きそうなものでも気合を入れて食べようという覚悟で臨んでいた糺は、ほっと息を吐いた。

「さあ、いよいよアタシの番ね!」
 東城 カンナは気合を入れて口の中に箸で取ったブツを放り込む。
「ぶぷふーっ!!」
 そして盛大に噴き出した。
 カンナが口にしたもの、それは美味しいとか不味い以前の問題の代物だった。
 エルダーマギウスが持ってきた500年前の携帯食料。
 既にそれは食物かどうかも分からない。
 固形なのか流動体なのかも。
 箸の先にひっかかったそれを口にしてしまったカンナは白目を剥いて気絶してしまったのだった。
「大変!」
「今度こそ、わたくし達の出番ですね」
 飛び出したのはミルディアと真奈。
 二人は、闇鍋では絶対に具合が悪くて倒れる人がいると考え、こうして鍋には参加せず万が一に備え待機していたのだ。
 手慣れた様子でカンナの衣服を緩め、治療に当たるミルディア。
 その姿はメイド服なのだが、残念ながら暗闇のためはっきり見ることはできない。
「大丈夫ですか?このお薬を飲んでしばらく横になっていれば落ち着くと思いますわ」
 真奈もかいがいしく手当てをする。
 二人のおかげで、カンナはなんとか無事危機を脱することができたのだった。

「ふふふふふ、日頃のストレスで鍛えられたこの胃腸なら余裕のはず! 逝くぜぇ!」
 逝くという字に覚悟を込めて。
 紫月 唯斗は気合を入れて鍋の中に箸を突っ込んだ。
 ぐさ。
 箸に突き刺さったものを思い切って口の中に入れる!
「ぱくっ、もぐ、もぐ、もぐぐ……ん?」
 がりごりがりごり……ごくん。
「こ、これは……卵!」
「ああ、僕のが当たったんだね」
 全能神の入れた卵だったようだ。
「うん、食べられない事はないけど……できれば、殻は剥いてほしかったかなー」

「よし、俺たちも行くぞ」
「我は何になるであろうな」
「ボクは皆に愛を届けられればそれでいいよ!」
「そうは行くか」
 セリス・ファーランドとマネキ・ング、そしてマイキー・ウォーリーは揃って鍋に箸を入れる。
「これは……人参か」
「笹に包まれた……粽であるか。これは、笹も食べなければいけないのであるかな?」
「……アワビだよ……」
 セリスは人参。
 マネキは粽。
 そしてマイキーはマネキが大量投入したアワビと、全員無難な結果となった。

「さて、行くか……」
 酒杜 陽一はごくりと唾を飲み込むと、箸を構える。
(そう言えば、世の中には店内が真っ暗なレストランがあるとか聞いたけど……)
 真っ暗闇で何も見えないこの状況、おまけに周囲に漂う鍋のなんともいえない香りにさすがに不安を掻き立てられる。
 怖いもの見たさで参加した陽一だが、ほんの少し後悔が過ぎる。
「いや、逝くさ。ここまできたら最後までな!」
 覚悟完了、箸投入!
 掴んだものを思い切って口に入れ……
 もぐ。
 もぐもぐもぐ。
「ん……な、なんだ、葱かぁ……」
 それはごくごく普通の野菜だった。
 最悪の事態を想定していただけに、肩透かし気味の陽一。
 一方の美由子は。
「う……どろどろしてるけど……えいっ! ……んん?」
 餅だった。
「なぁんだ、全然平気……むしろ美味しいんじゃない?」
「なんか申し訳ない気がするな」
 陽一たちの一箸目は無難に終わった。

「むん……こ、これは……」
 屋良 黎明華が齧ったのはレモン。皮付き。
「ああー、そりゃ当たりだね」
「当たり、なのだ……」
「おめでとー」
 入れた当人の糺のどうやら本気の祝福に、黎明華は困惑するばかりだった。

「さあ、行こうか」
「……だな」
「材料は投入済み。あとは、これを口にするっていう大仕事が残っているだけだ」
「はは、とうに覚悟の上だよ」
 エーファ・アルノルトとケイシー・カートライトは顔を見合わせ、共に笑う。
 そこにあるのは、心を決めた同士の真剣な表情。
「……たあっ!」
「とうっ!」
 エーファとケイシーの箸が、鍋に突き刺さる。
「……とったぁ! ……はむっ!」
「よしっ、もぐっ!」
 箸で掴んだ何かを、エーファは一瞬深呼吸の後覚悟を決めて口に入れた。
 ケイシーは箸で掴んだものを、迷うことなく口に放り込む。
 もぐもぐもぐ……
 暫しの間、咀嚼音が響く。
「ん……あれ、これは」
「これって……」
 エーファとケイシーの声が揃う。
「「……美味しい」」
 エーファの掴んだものは、ブリの切り身だった。
 ケイシーが掴んだものは、新巻き鮭。
 魚は鍋の辛みや豆乳の下味にバッチリ馴染み、どちらも美味しく仕上がっていたのだ。
 ちなみにエルダーマギウスが掴んだものは、アワビ。
 ここだけ完全な海鮮鍋の様相を呈していた。

「ふぷっ!」
「う……ううっ」
 セレンフィリティが口にしたのは、なんだかよく分からないキノコだった。
 セレアナが口にしたのは、どろどろに溶けた甘い物体……クリスマスケーキ。
 二人は悶絶しながら、口の中のものを飲み込んだ。
「な、何だったのよアレは……ひくっ」
(こ、これくらいセレンの料理に比べれば……)
 ひくっ。
 キノコのせいだろうか、セレンフィリティの目が座る。
「ね、セレアナ……ちょっと口直しに、一緒に洞窟の奥に行かない?」

「それじゃ、食べるよー」
「桃花も、いきます……」
 芦原 郁乃は元気に、秋月 桃花はそっと鍋に箸を入れる。
「はむっ……あ、こ、これは……」
「どうされましたか?」
「……美味しい!」
 郁乃が取ったのは肉団子だった。
「こちらも、ハズレではありませんね」
 桃花が取ったのはうどんや素麺の塊……麺類。
「えへへ、美味しいものでラッキー……ん?」
 もぐもぐと食べていた郁乃は、何故か体がふわふわするような、不思議な幸福感に包まれた。
(なんだろう……体が、熱い)
 柊 恭也の作った肉団子。
 その中には、食べると気持ちのよくなる粉(小麦粉です)が入っていたのだ。
「も、桃花ぁ〜!」
「きゃっ」
 郁乃は桃花に飛びついた。

「いただきまーす☆」
(玲亜ちゃんたら……)
 闇鍋に参加する者の避けられないルール。
 玲亜はしかし楽しそうに鍋に箸を運ぶ。
 玲亜の中の玲亜は危険を感じ、玲亜とのリンクを完全に切断する。
 はむっ、もむもむもむ。
「……ん」
(ど、どうしたの?)
「……お餅とチーズがもっちりまったりしてて……美味しーい!」
「そ、そうなんだ……」
 玲亜が取ったのは、結和・ラックスタインが作った餅チーズ鍋を闇鍋様にまとめたものだった。
 素直に喜ぶ玲亜と、ほっと胸をなでおろす玲亜。
(さあさあ、玲亜ちゃん)
「ん?」
 いい機会だと、玲亜は玲亜のコントロールを手にしようとする。
(美味しいもの食べて満足したでしょ? お姉ちゃんも探してるだろうし、そろそろ帰ろうよ)
「う〜ん、そうだね」
 闇鍋に満足して玲亜は素直に玲亜に従い、洞窟の入り口目指して歩き始める。

(美味しい、ですって!)
 玲亜の言葉を小耳に挟んだのは、作った当人の結和だった。
 素直な称賛の声に小躍りする。
「それでは、私もいただきます」
「うーむーむっ!」
 結和とロラ・ビソン・ルレアルは同時に箸をつける。
「これは……大根、ですか? 色々な味が染みて、美味しいですー」
「んんん……うーむっ!」
「ロラさんも、美味しかったですか? 良かったですねー。それは……きび団子、ですか?」
「おお、オレの冷凍きび団子を食べたのはお前か!」
 結和の声を聴きつけた吉備津 桃太郎がやって来た。
 ぺた。ぺたぺたぺた。
「んー、うーむっむー!」
 桃太郎はロラに触れまくり、思わず文句を言うロラ。
「これは、カエル……? まあ丁度良い、きび団子を食べたからにはお前は俺のお供だ。共に鬼が島を目指そう!」
「んーむっ!?(変な人来ちゃった!)」
 突然の桃太郎の勧誘に目を白黒させるロラだった。
 ロラを勧誘する傍ら、桃太郎も鍋に箸を入れる。
 掴んだものは……
「むぎゃー!」
「む、この食材……叫ぶ!」
 叫ぶ食材の正体は、葛城 吹雪との格闘の末、うっかり鍋に落下してしまったイングラハム・カニンガムだった。
「だが! 箸で取った以上は食べなければなるまい!」
「止め……止めるのだー!」
 食べようとする桃太郎と食べられてたまるかというイングラハムとの攻防が暫くの間続いた。
 そして。
「な……なかなか、やるであるな」
「ふ……っ、お前こそな」
 戦いの最中、二人の間に何かが芽生えたらしい。
「よし気に入った! お前、オレのお供になって鬼退治に行こう!」
「はぁ!?」
 カエルに次いで、タコ。
 桃太郎は新たなお供候補を見つけたのだった。
(何やらイングラハムが勧誘されているでありますね……まあ生きてて何より)
 そんなパートナーを片目に、当の吹雪は鍋に箸を入れていた。
「む……」
 一口入れれば、歯に抵抗するような不思議な歯触り。
(ええい、ここで怯んではテロリストの名が泣くであります!」
 思い切って歯に力を入れる。
「む……もっ?」
 それは、酒杜 美由子が入れたブラックアリスのアーガマーハだった。
 美由子曰く『塩辛にしたら食べれた』だそうだが……
 確かにそんな気もするが、そもそも食感がイカとかそういったものに似ているのかと問われれば、なんともいえない。
(果たしてコレは、食べてもいいものなのだろうか……)
 半分死んだ目で、吹雪はそれを飲み込んだ。

「ふむ……これはデータ的に人が食べるのに適さぬ物のようだな」
「あーもう、知ってた! こーいうイベントだって知ってた!」
「私が引き当てて良かったと言うべきか……」
「何一人で悟ってんのよ!」
 コア・ハーティオンは静かに自身の受難を噛みしめ、ラブ・リトルは直前にお願いした神様を恨む。
 コアが取ったのは、ショゴスの目だった。
 ラブが取ったのは、邪神群の肉だった。
 2人そろって、驚異のヒキの悪さ。
「他の者がこれを取らず、良かったのであろう」
 コアは、ショゴスの目を口に運ぶ。
 モグモグモグ……ピーガシャン。
 ロボットだというコアは、異物を摂取したため内部に異常をきたし停止してしまった。
「コラー! 何一人で気持ちよく死んでるのよこのポンコツ!」
 ガンガンと倒れているコアに蹴りを入れまくるラブ。
 しかし引き当ててしまった事実は変えられない。
「はむ……っ、ばたんきゅー」
 ほんの少しそれを口にしたラブは、意識を失った。
「こ、こっちも要救助者が!」
「まったく、無茶にも程がありますわ……!」
 コアとラブは即座にミルディア、真奈の救護班に見つけられ、応急処置がとられたのだった。

 闇鍋は、やはり多少の波乱を含んでいた――