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ノクターン音楽学校

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ノクターン音楽学校

リアクション


プロローグ

「ミナホさん、ついに明日なんですね」
 ミナホ・リリィ(みなほ・りりぃ)のもとへと訪れた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーである御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、挨拶をしたあとそう言う。
「ええ。長かったような短かったような不思議な感じですけど。明日音楽学校ができます。これも舞花さんの協力のおかげです」
「私は、音楽学校開校がこのニルミナスの村おこしの一つの完成だと思っています。これから発展していくとしても、その形を大きくは変えない…………音楽祭から途中参加の私の協力はそんなに大きくないですよ」
 この村の発展に舞花は尽力してきた。その事実は皆が認めることだ。だが、舞花自身は、途中からで本当に役に立っているのかという漠然とした不安はあった。
「…………本当は誰にも言うつもりはなかったんですけど」
 舞花の様子にミナホは袴で持っていくつもりだった自分の気持ちを伝えることを決める。
「私が、音楽学校を作ろうと決めたのは音楽祭を準備を決めた頃です。それははっきりと覚えています。……でも、どうして作ろうと思ったのか、そこにどんな感情が込められていたのか。それはもう私の中にはないんです」
 繁栄の魔女の呪い。それは死したものに関する記憶をなくすというもの。その影響が自分に出ていることをミナホは理解していた。
「きっと、舞花さんと出会った頃の私と、今の私は別人のようなものなんだと思います」
「……ミナホさん」
「それでも、私は私の……私だったものの願いを忘れずにこうして形に出来ました。それはきっとあの頃の私を知っている舞花さんのおかげです」
 音楽祭の準備の頃。ラジオ番組をしようと協力していた舞花はあの頃のミナホと一番長くいた。パーソナリティ役のアテナやミナホと台本を遅くまで打ち合せたり、本番の様子を多少ハラハラしながら見守ってつかみ十分な滑り出しにホッと安心したり……そういった苦労や心配も含め舞花はミナホと共有していた。
「だから、たとえ恵の儀式が終わらなくても私は大丈夫です。私は私だって……もう言えないですけど、それでも私だったものの願いを引き継いで、その願いに込められた感情を誰かに覚えていてもらえるなら」
「……忘れませんよ。あの楽しかった思い出も。これから起こる楽しい出来事も」
 舞花は言う。
「それなら……よかったです」
 この村が、ミナホがどうなるか。それは分からない。それでも、今ここにこうしているミナホのことを舞花は忘れないとそう心に決めた。


「……これ、本当にめちゃくちゃな理論が書かれていますわね」
 穂波の行っている儀式を終わらせる方法の研究。遺跡都市で見つけたその方法が書かれた本を読んでエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)はため息をつく。
「実際にやること自体はそこまで難しくないけど……それをするにあたってないといけない環境がおかしいですわ」
 摩擦が発生しない・重力が発生しない・速度限界がない・沸点がない等その他にもいろいろ無茶な環境が必要と書かれており、この世界の理に反する環境でのみ儀式は終わらせられると書かれていた。
「一部は力さえあれば私の方で擬似的に再現できますが……どんなに強大な力があっても不可能な環境条件がありますね」
 藤崎 穂波(ふじさき・ほなみ)もそう言って頭を悩ませる。
(力押しでなんとかならないかと思っていましたが……現状難しそうですわね)
 理を超えることは穂波には出来ない。できるとすれば時に理を超える力を見せる契約者であるが、ここにあるすべての環境を満たすことができる契約者を集めるのは不可能に近いだろう。
「なにか、この条件を満たす方法に心当たりはありませんの?」
「…………ありません」
「嘘……ですわね」
 嘘感知を使い、エリシアは穂波の言葉を否定する。
「その心当たり、それはなんですの?」
 これまで、穂波が自分たちに嘘をついたことはなかった。それをしてまで隠そうとした心当たりとは何なのか。
「……遺跡都市に眠る最後の魔女。彼女は物理法則や魔法の原理……世界の理を限定的にですが変える力を持つと、私の知識にはあります」
「理を変える…………本当にそんなことが可能であれば、この方法も簡単にできますわね」
 そして、穂波がけして目覚めさせてはいけないと言った理由もわかる。それは世界が世界であるためにあってはいけないものだ。
「他に、方法がないか研究しましょうか」
 誰も傷つかずに終わらせるために、あるいは最後の魔女や双子の魔女を利用することも考えないといけないかもしれないと、エリシアは思うのだった。


「開校イベントね。結構にぎやかになりそうだわ」
 喫茶店ネコミナス。そのカウンターで仕事をしながら奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は明日のイベントの準備に追われる(といっても最終調整程度だが)村の様子を感じてそう言う。
「みんな準備に忙しそうだねぇ。アイスコーヒーの差し入れとかしよっかな」
 沙夢同様、そんな空気を感じながら雲入 弥狐(くもいり・みこ)もそう言う。
「私たちも出店すればよかったかしら……弥狐の言うとおり差し入れがてらアイスコーヒーの移転販売とか」
「せっかくアイスコーヒー始めたもんね。アイスコーヒー始めましたーってみんなに挨拶しながらとか面白そう」
 沙夢の案に弥狐も同意する。
「といっても、今更準備もしてないし無理ね。明日はこっちに流れてくるかもしれないし、ゆっくりいきましょ」
「そっかぁ……残念」
 沙夢の言葉に弥狐も仕方ないねと頷く。
「……すみません、私が手伝えたら今からでも何かできるかもしれないんですが……」
 二人にそう言うのは研究がひと段落して部屋から出てきた穂波だ。
「大事なことなんでしょう? それなら私たちのことは気にしなくていいわ」
「うん。ネコミナスのことはお姉さんたちに任せて」
 沙夢と弥狐はそう言う。
「……すみません。ありがとうございます」
 申し訳なさそうにいう穂波。
「そうね……今は一息ついてるとこなんでしょう? アイスコーヒー飲んでいかない?」
 そう言って沙夢はアイスコーヒーを穂波のために準備する。
「研究、手伝えることがあったらなんでも言ってちょうだい?」
 自分にできることならと沙夢は言う。
「それだったら美味しいアイスコーヒーをまた淹れて下さい。私、沙夢さんの淹れるコーヒーが大好きなんです」
「それくらいお安い御用よ」