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2024夏のSSシナリオ

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2024夏のSSシナリオ

リアクション

「あー? なー?」
「ん? あれか? あれはシャンバラ宮殿だ」
 肩車した神崎 紫苑(かんざき・しおん)が指さす方を、阿吽の呼吸で感じとって、神崎 優(かんざき・ゆう)が答えた。
「なーな?」
「それか、それは、街灯って言うんだ」
 まだ説明してもよくは分からないだろうが、聞かれることにはちゃんと答えるところが父親らしい。
 妻の負担を軽くするためにも……というのはほとんど口実だが、こうして娘の紫苑と二人っきりのお出かけは幸せな時間だ。
「これは、金属でできているんだぞ」
 街灯の近くによって、紫苑にさわらせてやる。小さな物は呑み込んだりしたら大変だが、いろんなものに実際にさわって確かめてみるということは子供にとって大切だ。
「きー? つつ!」
 冷たかったのか、熱かったのか。紫苑にとっては、全てが発見である。
「あー」
「よしよし、今度はあれか? おとうさん頑張っちゃうぞ」
 空京商店街を、あっちへふらふら、こっちへふらふらとしながら、神崎優はやっと目的地である公園へと辿り着いた。
 そこにあるベンチへ紫苑を下ろすと、持ってきたビニールボールをふくらませて、二人でボール遊びを始める。
 紫苑にとってはかかえるほどもあるボールなので、ポンと弾いてもどこに飛んでいくかまったく分からない。それを、神崎優は体術の全てと父親の威厳をかけて、全てキャッチするのである。
 どこに飛んでいっても、父親が全てキャッチする姿を見て、紫苑がキャッキャと手を叩いて喜んだ。絶対に失敗しないのと、ちょっと必死なのが面白いらしい。
「わー、わー」
 今度は自分が受けとめるといっているらしい紫苑に、神崎優が投げ渡すふりをして、黒子嫁しくボールを持って山なりに動かす。
「だー」
「おお、おみごと」
 みごと受けとめる紫苑に、神崎優が拍手して褒める。紫苑の方は、誇らしげな顔で御満悦ではあるが、端から見れば神崎優の方は完全な親馬鹿である。
 まあ、親馬鹿でいられるということは、最高の幸せなのではあるが。
 ふと、この先紫苑はちゃんと周りの人たちと心のキャッチボールをしていけるのだろうか、一人で何かをかかえ込んで悩んだりしないだろうかと、神崎優は考えた。
 そこへ、紫苑がポイとボールを投げてくる。
 ふいをつかれた神崎優が、サッカーのゴールキーパーのごとく、横っ飛びで何とかボールをつかみ取る。
 それを見て、紫苑は大喜びである。
 心配はいらない。心配もさせないと思う神崎優であった。