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秋はすぐそこ

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 Episode5.その頃の海
 
 
「……むっ。何処かで誰かが悪事を企んでいる、ような気がするような」
 正義のアンテナがピピンと反応するものの、此処はプールではなく、海であった。
 パラミタ内海。この季節にこの場所に来ることは、もはや様式美とも言えるかもしれなかった。
 いや、今年こそは克服する。 
 海辺のコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、飽くなき挑戦者であった。
「今年こそは! 泳ぐ!!!」
 そう、アトラクションはプールではない、この海で起こっているのだ!
「海よ! 波よ雲よ! 私は今年こそ勝利してみせよう!」
 夏の浜辺。
 そうそこは、巨体かつ重量のハーティオンにとっての戦場。――勿論、本人以外の全ての人物には、既に結末が見えている。

「準備運動開始! よし!」
「足から順番に頭に水をかけて慣らす! よし!!」
「【水泳用ゴーグル】装備! よし!!!」
ゴーグル装着と同時に、謎の効果音が響く! ジャキィィィィン!
「……しかし去年までの私ならば、この装備で君に挑み、抗うことも許されずに沈んでいただろう!」
 ハーティオンは、びし! と海を指差して語る。海の擬人化。何という新ジャンル。
「しかし! 私は間違っていた!
 まずは君と『友』になることを考えなければならなかったのだ! その為には!」
 ハーティオンは、猫型ロボットの秘密道具の如く、必殺の新兵器を取り出して掲げる。
「【浮き輪】装備!!!」
 てってれれってて〜てれ〜……(間違い)……ジャキイイイイイン!!!
「“泳ぐ”のではない、まずは、水に浮かび水と友に……そう、『共』に在るようになること……それを最初に行うことが必要だったのだ!」
 そして、友となってこそ、本当にお互い競い合うライバル(ルビ=とも)となり、再び君に勝負を挑むことができるのだ。
 それに気付いた今、もはやハーティオンに迷いはなかった。
 今年こそ、ハーティオンは海と強敵(とも)となり、友を超えて強くなる。
「蒼空戦士ハーティオン! 参る!」
 ゴーグルと浮き輪を装備し、準備運動を済ませて水に慣らした完璧超人ハーティオンは、海に突撃して行った。
 ドスドス、バシャバシャ、ザバザバ、
 ……ブクブクブク……

「まあ、今年も飽きもせず沈んで行ったわね……」
 海辺に持ち込んだデッキチェアーに横になり、パラソルの下で寛ぐ高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が、呆れた表情でハーティオンの激闘を眺めつつ技術書を読んで、ゆっくりと羽を伸ばしていた。
 一応、沈んだ時用にバトルマスクを持たせていたから、溺れて死ぬようなことはないだろう。
 後が面倒くさいので、あまり長時間粘らずに、そこそこで戻って来ればいいのだが。

 一方、ラブ・リトル(らぶ・りとる)は、完全にハーティオンの存在を脳内から抹消していた。
「夏と言えば、海、空、そしてあたし!
 教導団のNo1アイドルラブちゃん、可憐に見参よ♪
 ふっふっふ〜、浜辺で小麦色になって、大人なラブちゃんをアピールするのもアリよね♪」
 そして、ハーティオンさん頑張ってねー、と激励した後、ラブの所に走って来た夢宮 未来(ゆめみや・みらい)は、持っていたビーチボールをラブに見せる。
「ね、ラブちゃん、折角海に来たんだし、ビーチバレーしようよ!」
「ボール遊び〜? あんた子供ね〜……」
「え、そんな嫌そうな顔しないで、やろうよー!」
「てゆか、サイズを考えなさいよサイズを!」
「う……」
 ほぼボールと同じ身長のラブに言われて、たじ、と怯む未来に、ラブはぷいっと顔を逸らす。
「や、やらないとは言ってないわよ! ちょ、ちょっとだけなら付き合ってあげなくもないけど?」
「本当? わぁい、ありがとう! 大好きラブちゃん!」
 二人はビーチバレーを楽しんだり、海に入ったり、浜に生息する生き物と遊んだりと、健全な夏を満喫する。

「……あれ?そういえば、いつの間にかハーティオンさんいなくなっちゃった」
 先刻迄は、彼の叫びが響き渡っていたのだが。
「ま、海の底に飽きたら戻って来るわよ」
 きょろきょろと見渡す未来に対して、ラブの反応は冷たい。毎年のことだからだ。
「いいから、あの海の家で売ってるドリンクが気になってるんだけど」
「うわぁ、ホントだ、変な色だね」
 二人は浮き輪を抱えて出店に向かう。

 こうして、ハーティオンは全てのパートナー達に放置されたのだった。