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過去の思い出 描く未来図を見てみよう

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過去の思い出 描く未来図を見てみよう

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 本当の強さ

 未来は、本人の願望が強く影響する――

 その前提で、僕は魔道書達に未来への時間旅行を望んだ。


 ◇   ◇   ◇


 10年後を望んだカル・カルカー(かる・かるかー)と、カルと一緒にやってきたジョン・オーク(じょん・おーく)は、まずシャンバラ教導団へと向かった。10年後といえばカルも成人し、もしかしたら「英雄」として名を轟かせるくらいになっていたら――いいなと思っていたカルだった。
「強くなりたいと、常々言っていましたからね……カルは」
「努力して認められて、偉くなるっていうのは僕の目標だから! そうしたら……僕を手放したお父さんやお母さんに会える可能性が増えるかもしれない……から」
 ジョンは表情を変えずにカルの言葉を聞いていた。彼が「会いたい」と望んでいる事は知っていてもカルを手放した両親が果たして同じ気持ちを抱いているかどうか、という疑問も拭いきれなかった。

 カルは、ドイツ・デュッセルドルフ、カルカー村の教会で育てられた。成長するにつれて、教会の世話になりっぱなしではいけないと思う様になった頃にシャンバラへ渡った。
「カルカー村出身の英雄が、見知らぬ両親を探しているって噂が広まっていたら……ちょっとくらいはバツが悪くても僕に会いに来てくれるかもしれないだろ?」
「……カル、あなたが育ったカルカー村へ行ってみますか? 教導団よりそちらの方がご両親の情報も得やすいかもしれません」


 ◇   ◇   ◇


 ジョンの助言もあって、カルは懐かしい故郷に足を踏み入れた。10年後の未来でもかつてパラミタに渡った頃とあまり変わらない風景にどこか安堵するカルと、確か――初めて訪れるジョンはカルの育った教会へと向かっていた。
「確かに、両親がパラミタに渡っていないかもしれないしね。やっぱり、ジョンが一緒に来てくれて良かったぜ!」
 何気ないカルの一言だったが、ジョンは自然と笑みを浮かべる。
「そう言ってもらえて、嬉しいですよ」
 カルの育った教会が見えてくると、変わらずに小さな子供達が居る様子だった。姿を見られないように物陰に隠れる2人は暫くその様子を眺めていたが、不意にジョンはカルに訊ねた。
「カルは、どうしてご両親に会いたいんですか?」
 一瞬、ジョンの問いが良く解らなかったカルは教会から目を離してジョンを見上げた。
「え……どうしてって……会いたいからだよ。僕を手放した時、経済的な何かがあったのかもしれない……でも、それなら逆に10年後なら僕が両親を養えるようになってるって思って……会いたいんだ、一人前になった所を見て欲しくて」
 カルがそこまで言うと、教会の子供達の言葉が2人の耳に入った。
「ねえねえ、今日はカルお兄ちゃん来ないの?」

 ―カルお兄ちゃん?

 顔を見合わせてしまったカルとジョンは、子供達と教会の僧の話に更に聞き耳を立てた。
「カルなら、もうすぐ来ると思いますよ。君達が遊び相手になってくれているおかげで、向こうの子供達も随分元気になりましたからね」
「……カル、あなたもしかしたら結婚しているのかもしれませんね」
「え……えええ!?」
 思わず大声を上げてしまったカルは、慌てて口を塞いで隠れ直してしまうが、子供達にも僧にも気づかれた様子はない。子供達が言う「カルお兄ちゃん」がカルの事なのだろうかと、その場から動けない2人は更に覗いていた。本当に10年後のカルの事ならば、両親に会えているのかどうかという望みと願いがカルの中で膨らんでいた。そうして待ち続けるとやがて1人の青年が教会を訪れた。
「皆元気かー!? 遊びに来たぜ」
 明るい声で子供達に声をかけたのは、今よりずっと精悍さを増したカル・カルカーであった。

「いらっしゃい、カル。今日は遅かったですね」
「あ、これお土産。これを買い込んでてちょっと遅れたんだ、よし……遊んでこい!」
 カルに付いてきていた5〜6人の子供達が教会へと駆けていって、泥んこになって遊んでいる姿を優しい目で見守っていた。カルの隣で一緒にその様子を見ていた僧も顔を綻ばせる。
「じゃあ、せっかくのお土産だから……アップルパイでも作りましょう。カルも食べていくでしょう?」
「勿論!」

 両親に巡り会っている自分ではなく、かつての故郷で沢山の子供達に囲まれている自分の姿にカルも戸惑った。
「僕、結構子だくさん……?」
 そう呟いたカルに、ジョンは笑いを抑える事が出来ず肩を震わせていた。
 しかし、未来のカルと別の僧との会話から全く違う事情が窺えたのだった。

 成長したカルは、かつてカルカー村の教会で育てられたように自分と同じような境遇の子供達を集めて面倒を見ている事が解った。カル自身が周りから与えられた愛情を、今度は同じような孤児達に愛情を注いで育てているのだ。どんなに時代が流れても、親の都合で捨てられたり手放されたりする子供は後を絶たない。
「両親に会いたいと――確かにそう思ってた時期もあったけどな……僕を育ててくれたのはこの教会の人達で、仲間になってくれたパラミタの人達が居て……親に会えなくても僕は沢山の人に支えられて生きてこれたっていうのが解ったから」
「カッコいい事言う様になったね、カル」
 茶化す僧に、素直に照れるカル――未来のカルは、本当に幸せそうに生きていた。
「……現代に、帰ろうか。ジョン」
「ええ……」


 ◇   ◇   ◇


 いつになく元気のないカルに、イーシャンとシルヴァニーも心配そうに顔を曇らせていた。ジョンは「心配ないですよ」と2人に告げるとカルの正面に立ってそっと頭に手を置くとゆっくり撫でる。
「落胆……しましたか?」
 ふるふると頭を横に振るカルだったが、やがて顔を上げると何かに吹っ切れた――少しすっきりした顔を見せた。
「両親に会えてなくっても、未来の僕は幸せそうだったな」
「ええ」
「いつかは、僕が親に捨てられた子供達を愛情で包んでやれるんだな」
「きっと、そうなりますよ。カルは愛される事を知っているんですからね」
 目に溜まった涙を誤魔化すように俯いて少々乱暴に腕で目元を拭うと、ジョンを見上げて笑顔を見せた。
「そうだよな……僕の手を必要としてくれる子供達が未来に居るんだ……よーし! それなら僕はもっともっと強くなって子供達を守るんだ!」

 カル、あなたは強さに気付いているんですよ――

 敢えて、ジョンは言葉にしなかった。きっと、カルが「本当の強さ」を得るのも近いと、これはジョンの予感であった。