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ワンダフル・ティーパーティー

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ワンダフル・ティーパーティー

リアクション

「……リト?」

「……泣いてるの?」
「違うっ」

 強がった声、ぶんぶんと首を振る仕草。
 それらがとても懐かしく思えた彼は、俯いて顔を隠したリトに微笑みを向ける。
「ずっと聞こえてたんだよ、リトの声」
 握った手は、とても温かい。
 機晶兵だってその温度を感じられるのだ。再び肉体を得た今ならば、ボロボロと頬を伝う姉の涙を拭ってやることだって出来る。
「ねぇ、リト……?」
「……何?」
「ただいま」
 そう言ってヴィズはにこりと微笑む。
 リトは耐えられなくなって、泣きながら両手で彼を抱き締めた。言いたいことは沢山あるはずなのに、自分でももう何を考えているのかよく分からない。ただ一つ確かなのは、抱き返してきたヴィズの両腕がとても温かいということ。
「ハーヴィも久しぶりだね」
 リトが顔を上げると、すぐ傍に幼馴染の可愛い『妹』がぐちゃぐちゃの泣き顔で立っていた。
「ヴィ、ズっ……うぅ……リトぉ……っ」
 再びこうして三人が肩を寄せ合うのに如何ほどの時間を要したことだろう。
 ハーヴィが夢見ては何度も諦めてきた再会。族長の威厳など放り捨てて、彼女は泣き、笑って、ヴィズを生き返らせてくれた者たちに何度も繰り返し礼を言った。
 その時ふいに、再会を喜ぶ彼らの後ろでハッと息を飲む音がする。
「姉さん!」
 ハガルが横たわっているベッドに手をつき、ソーンが感嘆の声を上げた。
 弟と同じ色のまつ毛が震え、うっすらとハガルの瞼が開かれる。
「……ソー、ン……?」
 それは微かではあったが、確かに弟の名を呼ぶ声だった。
「姉さん、ああ、僕が分かる? 姉さん!」
 ハガルは瞳の中に弟を捉えたままゆっくりと瞬きをする。その仕草で、ソーンには姉が優しい微笑みを浮かべて頷き返そうとしたのが分かった。
「良かった、脈も呼吸も安定してる……皆さん、本当にありがとうございました」
 泣くのを堪えるように顔を歪めたまま、ソーンは協力者たちに深々と頭を下げた。長いお辞儀の後で顔を上げた彼は、人々の視線を避けるように背を向けて眼鏡を外し、手のひらで涙を覆い隠す。
 その様子を、ハガルは優しい眼差しで見守っていた。
「さてと……」
 姉弟の様子をしばらく眺めていたダリルは、そっとベッド脇から診察台の方へと移動して、そこに横たわっていたH-1に声をかける。もう彼女がハガルの代用品でいる必要はない。既に動ける状態のH-1にダリルはヘレネ・イリスという名前を与え、手を差し出してこう言った。
「行こう、君の新しい家に」
 病魔から解き放たれたハガルにはHP回復系のスキルも効くようになるだろうし、喋れる程度になるまでそう時間はかからないだろう。涙の再会を邪魔しないうちに、彼はヘレネ・イリスを連れて一足先にその場を後にする。


「皆の衆、そろそろ行かぬとお茶会が終わってしまうぞ」
 一通り泣いてスッキリした顔で、ハーヴィが言う。
「本当だ! ヴィズ、大変よ、急がなきゃ!」
「えっ、走るの? ちょっと待ってよ、リト!」
 走り出したリトに手を引かれて、ヴィズは焦った様子で後ろを振り向いた。しかしハーヴィがにこにこしながら手を振っているのを確認すると、安堵した表情で手を振り返してリトの後を追う。
 ハーヴィは他の契約者たちのことも同じように見送ってから、ベッド脇の椅子に腰かけたままのソーンに近寄り、お前さんは行かないのかと声をかけた。
「僕はここでハガルの傍についています。族長さんもお気になさらず、お茶会を楽しんで来てください」
 そう言って動こうとしないソーンに、ハガルは少し諫めるような視線を送る。そして、再びその表情を和らげると、
「いってらっしゃい」
と微笑んだ。
「いえ、ですが……」
「心配せんでも、お前さんが帰ってくるまで我がここに残っておるから。少しは集落の空気に慣れて貰わんとのう、ソーン先生?」
 ハーヴィの悪戯っぽい目配せとハガルの笑顔に根負けして、ソーンは「分かりましたよ」と肩をすくめた。
「いってきます」