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始まりの日に

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始まりの日に
始まりの日に 始まりの日に

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 パラミタ大陸は西部、シャンバラ王国。
 夕日も沈みきって夜の帳の下りて暫く、時刻も19時を回ろうとしていた頃の事だ。
 御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の腕の中に抱かれた娘の陽菜が、安らかな寝息を立てているのに、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はその表情を緩めた。
 恙無く順調に、成長して幾一日一日が愛しい。柔らかい肌起こさないようにそっとつつき、ふにっとした感覚に目を細めていると、気のせいか陽菜が顔をほころばせた。その可愛らしい笑顔に、環菜と陽太は顔を見合わせて微笑み、家族と言うものの温かみをかみ締める。
 そうすると自然、思い出すのは今は留守にしている家族達――御神楽 舞花(みかぐら・まいか)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)のことだ。
「今頃、二人ともどうしているかしら……」
 環菜が呟いたのに、陽太は出掛けの二人の楽しげな様子を思い出してふふ、と笑みを深めた。彼女達は、友人の結婚式に出席するために、地球へと向かったのだ。今頃、式は始まっているだろう。そんな二人に思いを馳せるように、環菜と陽太は窓の外へと視線をやった。

「きっと……賑やかにしていますよ」



 * * * 



 陽太達が話をしていた頃、舞花とノーンの居る場所は正午にまだ早い時間だった。
 ホスト側の実家の敷地内とあって必要以上に気負う事は無いものの、舞花の表情が緊張に硬くなってしまうのは、壇上に居る人物をよく知っているからだろう。
 式の開始前はバタバタとして声を掛ける暇等無かったが、伝えたい思いが無数に込み上げて来る。溢れ出そうなものを両手で押さえ込むように胸の上で組んでいると、感動しているのは自分だけでは無かったようで、目頭を抑える姿がちらほらと目に入った。舞花がそれにほっこりした心持ちでいると、遂に啜り泣く声が耳に入る。隣のノーンがこっそりと合図で教えてくれた。
 舞花の丁度目の前の席、乳白金の髪を結い上げ露になった肩が小刻みに揺れている。
 本日の主役の片割れの妹ジゼル・パルテノペー(じぜる・ぱるてのぺー)が、感極まっているらしい。彼女の夫アレクサンダル四世・ミロシェヴィッチ(あれくさんだるちぇとゔるてぃ・みろしぇゔぃっち)がその涙を拭って数度、行動が全くの無駄だと諦めたらしく正面を向いたのに、舞花はバッグからさっと取り出したハンカチを、二人の間に差し出した。
 椎名 真(しいな・まこと)から落ち着いてとトントン背中を叩かれたジゼルは、しゃくりを上げないように俯き必死になっている為気付かなかったが、アレクが代わりにハンカチを受け取って目礼してきた。
「アレクお兄様は、大丈夫ですか?」
 舞花がアレクへそう聞いたのは、現在彼等の関係を簡潔に表す言葉が義兄弟の一言だとしても、感情はそれ以上のものだと誰よりも良く知っているからだ。
 が、当のアレクはその気遣いが笑いのツボに入ってしまったようで、今度は彼が俯いて肩を震わせてしまった。

 そんなやり取りは派手な動きや音があった訳ではないものの、壇上の人物は反応を見せる。彼等は契約者だから、緊張の中で些細な変化に気付くのは当たり前だ。
 とは言えツライッツ・ディクス(つらいっつ・でぃくす)の方は緊張の余り視線が一方向に固定されてしまっているのだが、ハインリヒ・ディーツゲン(はいんりひ・でぃーつげん)のグレーアイズは此方を向く。
 そこで彼はアレク、ジゼル、舞花という三人を目に留めたらしく、目を眇めて元へ向き直った。
 ハインリヒがあんなに素直で優しい笑みを見せるのは中々無い事だ。
 舞花は彼の姉ローゼマリーへ引き金をひき、永遠の夢の中に閉じ込めた。勿論その事について自責の念を持っている、持つべきだと考えているが、一方行為自体を否定する必要が一切無いのは、あの笑顔を見れば分かるだろう。
「ハインツさん、私が言うのもおかしいかもしれませんが……
 どうかローゼマリーさんの分も幸せになってください」
 舞花の心から溢れ出た声は、音には出ずとも、ハインリヒへ伝わっている。