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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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【ニルヴァーナへの道】決戦! 月の港!

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chapter.6 対美女陰陽師軍団(5) 


「元より、この程度の呪法など微塵も気にならん! みと! 支援砲撃、弾種、適時一任!」
 凛々しい声でパートナーの乃木坂 みと(のぎさか・みと)に指示を飛ばすのは、相沢 洋(あいざわ・ひろし)だ。彼はパワードスーツを身にまとい、一切の危険を気にかける様子もなく平然と攻撃命令を下している。
 みとはといえば、さすがに洋のようにはいかないのか苦しそうな表情を浮かべたものの、彼の命令を第一とする彼女にとってさして大きな障害とはならないようだった。
 そんなみとの背中を押すように、洋は彼女に言う。
「排泄の屈辱に耐えたなら、後で私と共に体を洗おうではないか。三日ほど休暇をもらい、ゆっくり楽しもうじゃないか。湯船、ベッドの中、いつでもいてやる。こんなやつらにつきあわせた侘びだ!」
 その一言で、みとは活力をみなぎらせ、その声を響かせた。
「弾種、雷術! 火術! 氷術! ついでに汝、その身を蝕む妄執に苦しみなさい!」
 自分が繰り出せる魔術をこれでもかと放ち、陰陽師たちにぶるけんとするみと。彼女たちからすれば炎の壁を突き抜け突如あらゆる魔法が飛んできたのだから、たまったものではない。
「ちょっ、いきなりなに!?」
 陰陽師たちに混乱が生じたのを見て、洋は大胆にもその渦中へと突進していった。
「銃剣戦闘よーい! 突撃!」
 みとが放つ術による誤爆の可能性も気にせず、彼は堂々と進んでいく。
「みと! 私が標的になっても構わん! 敵部隊を駆逐せよ! イナンナよ……我に加護あれ!」
 言うと同時に、洋は銃を乱射した。慌てて術を発動させ弾を防ぐ陰陽師たちだったが、その間に洋はもう自分の間合いまで入り込んでいた。
「貴様らのような戦術は気に入った。褒めてやるが、敵対する以上は女でも殺す!」
 洋は銃剣を構え、目の前の陰陽師を突こうとした。が、そこは腐っても蘆屋系を名乗るだけはある。すんでのところで一撃をかわすと、後方へと飛びずさる。再び詰め寄ろうとする洋だったが、そんな彼を追い抜き、素早い動きで突っ込んでいったのは猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)だった。
 彼はウルカ・ライネル(うるか・らいねる)を魔鎧としてまとい、彼女のスキルを利用して術に対する防御力を高めていた。
 といっても、勇平に呪法はかかっておらず、あくまで攻撃魔術に対する防御策となっていたが。
「なんだか不思議……っていうか複雑な気持ちだが、まあいいや。いくぜ!」
 彼は呪法をかけられない――つまり知名度がいまいちなかったことに対し良かったような悲しかったような気持ちを抱えていたが、今はそんなことに頭を使っている場合ではない。
 勇平は、自分の得意とする近距離の間合いでの戦いに持ち込むため、その足を前に動かすのみである。
「なんでどいつもこいつも、近づこうとしてくんのよ!」
 術を唱え、氷の刃を出現させた陰陽師が勇平をそれで攻撃しようとするが、その刃はもうひとりの勇平のパートナー、魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)によって防がれた。
「わらわに記されし、特大魔法メテオライト!」
 炎による援護射撃で、氷は解け、その威力をほとんど失う。さらにウルカも属性攻撃に対する防御スキルを抜け目なく発動させており、勇平の突撃を補助する。
「お前になんか、指一本触れさせねえよっ!」
 そんなふたりの助力もあり、陰陽師の懐に潜り込んだ勇平は、身を屈め、その武器に炎をまとわせた。
「ちっとばかし、全力でやらせてもらうぜ!」
 掛け声と共に勇平が放ったのは、全力を込めた煉獄斬であった。
「きゃあっ!?」
 直接の斬撃は免れたものの、剣がまとった炎までは避けることができず、一撃を受けた陰陽師は耐え切れぬ熱さに慌てて逃げ出し、地面を転がった。

 徐々にではあるが、洋や勇平、同様に他の生徒たちの攻撃が陰陽師たちを押し始めていた。
 瞬く間にひとり、またひとりと倒され、あるいは逃げざるを得なくなり、残る数は十数人までに減っていた。
「はあ……はあ……」
 呪法をかけ続ける余力もさほど残らなくなったのか、息を切らしながら陰陽師たちは少しずつ後退していた。もう生徒たちにかつてほどの腹痛はない。
「こうなったら……ブライドオブシリーズだけでも……!」
 マリコが悔しそうに言う。
 元々、彼女らは安倍晴明がいるという話を聞き、血筋からの宿怨で今回の妨害活動に参加していた。つまり、晴明が別のルートを進んでいると判明した時点で、彼女たちに確固たる信念はもう存在していなかったのだ。
 残るのは、立場上の義務感である。そのような感情で動く彼女たちの力は、恐るるに足らなかった。
「ダーツ持ってんのは誰!? よこしなさいよ!」
 陰陽師たちは、汚い口で毒を吐きながら生徒たちの様子を見る。これまでの戦いからも、おおよその予測はついていた。
 常に生徒たちに囲まれているような、なおかつ戦いに介入してこないような、そんな人物。
「……あんた?」
 そうして彼女らがあたりをつけたのは、託だった。いや、正確には託の隣にいたパートナー、アイリスだ。
「もう戦いとかどうでもいいから、とりあえずダーツだけもらってくよ!」
 言って、残りの陰陽師たちが一斉にアイリスへと向かった。最後のあがきといったところだろうか。
 当然、その前には託が立ちはだかる。魔鎧の無銘 ナナシ(むめい・ななし)をまとった託は、敵が迫ってきているというのにどこかのんびりした口調で言う。
「うわぁ、近くで見ると本当、なかなかきれいな人たちだねぇ」
 無論、だからといって手心を加えるつもりは彼にはなかった。ナナシもそれを理解しているのか、彼に語りかける。
「かと言って、戦いの場で遠慮する貴様でもあるまい?」
「まあ、それはそうなんだけれどねぇ」
 一見戦いの意思を見せていないように見えた託だったが、それはどうやらモーションだったようだ。容易く倒せると陰陽師たちに錯覚させるための手段だろう。
 まんまとその策に乗ってしまった彼女らは、なんのひねりもなく、直線的な動きで仕留めにかかってきた。そこで不意を突いたのは、もうひとりのパートナー、那由他 行人(なゆた・ゆきと)であった。
「俺だってできることはあるんだ! がんばってアイリスねーちゃんを守るぜ!」
 刀を手に、陰陽師たちに横から斬りかかる行人。その表情は正義に満ちている。それを示すかのように、行人は一際大きく叫んだ。
「俺も、立派なヒーローになるんだ! だから、悪いヤツはちゃんと倒せるようになるんだ! うおおおお、負けるかぁあああっ!」
「あうっ!」
 動きを見事に見切られた陰陽師は、行人の一撃で怪我を負った。
 命を懸けてまでダーツを奪うことはない。
 そう内心で思った陰陽師は、即座に戦場から離脱した。いよいよ残るはマリコと数名の陰陽師だけである。
「もう……よこせって言ってるじゃない!」
 もはやほぼ不可能だろうと頭では理解していても、マリコはアイリスに手をかけようとした。半ば自棄にも似たその行動は逆に勢いを生んだが、それも託たちの策の前に消えることとなる。
「さっきからしつこいわね……」
 アイリスが、ぼそっと呟いた。と思った次の瞬間には、彼女は、自身の体から光条兵器を取り出していた。
「こんなもの……あげるわよ!」
 大きく声をあげるアイリス。だが、彼女が出したのは同じ光条兵器ではあるものの、ダーツではなかった。マリコの目に飛び込んできたのは、青色のチャクラム型をした光条兵器――つまり、託の武器である「流星・光」であった。
「それは、違っ……」
 慌てて身を翻そうとするマリコだったが、この至近距離ではたいして意味がなかった。アイリスがそれを託に投げ渡すと、託は華麗にチャクラムを操り、マリコの周りを固めていた陰陽師を狙って攻撃した。
「あう……っ!」
 どさり、とマリコを囲んでいた陰陽師が倒れ、ついにマリコは孤立してしまった。
 この時点で決着はほぼ着いたのだが、せっかく美女陰陽師がまだ残っているのだ、むざむざ逃がすことはない。
「ヒャッハァ〜! 陰陽術もこんなもんか! 今度は俺が今流の陰陽術を見せてやるぜェー!」
 満を持してマリコの前に進みでて、良からぬことを企んでいそうな笑みで南 鮪(みなみ・まぐろ)がそう言った。
「な、なによ……」
 その不穏な気配を察したのか、マリコが一歩後ろへ下がる。彼女のその直感は、正しかった。この男、既にとんでもない仕込みを行っていたのだ。
「いくぜェー、パラ実式陰陽道だ、ヒャッハー!!」
 何やら意味深なことを言いながら、鮪が取り出したのはパワードバックパックだった。鮪はそれを式神化させていたのか、バックパックはふわふわと宙に浮いていた。
「え……?」
 マリコが戸惑う中、鮪はそのバックパックをマリコに向かって急降下させた。
「危な……っ!」
 すんでのところでそれを回避したマリコだったが、直後、彼女の鼻は異臭を覚えた。なにか、良からぬにおいだ。
 ここで、察しの良い者ならもう感づいたであろう。
「まさか……」
 マリコが目を丸くして汗をたらすと、鮪は誇らしげに笑った。
「ヒャッハァ〜! これが今流だぜェ〜!」
 そう、あろうことか、鮪は、他の全員が便意と戦いながら、堪えながらどうにかしようとしていた中、ひとり平然と漏らしていたのだ。どうりでさっきからなんか臭かったわけだ。
 思うまま垂れ流したそれを鮪はバックパックに詰め、マリコに突っ込ませたというわけだ。なんという逆転の発想だろうか。腹痛で辛いのなら、漏らせばいい。ただ、これが今流なのかどうかは疑わしい。今年のトレンドが排泄物を飛ばすことだと、誰が思うだろう。まあ、少なくとも鮪はそう信じているのだろうが。
「き、汚っ……! ちょっ、こないで! あっちいって!」
 必死で追い払おうとするマリコだったが、なまじ式神化されているだけに、鮪の意思に従順に従うそのバックパックは執拗にマリコを狙った。その様子は、隙だらけだった。鮪はそれを見逃さない。
「ヒャッハァー!」
 尻餅を付いたマリコに飛びかかると、鮪は神業の如き速さでマリコから下着を抜き取った。もはや職人芸だ。
「も、もうやだ……」
 排泄物に付け狙われ、下着を剥ぎ取られたマリコは涙目になりながらふらふらとその場を去った。この瞬間、彼らは陰陽師軍団の撃退とお腹の防衛に成功する。
 とはいえ、犠牲が出なかったわけではない。
 プライバシーの問題上名前は伏せるが、今回の戦いで何名かは晴明の札のお世話になっていた。だがそんな犠牲者に、鮪は優しかった。
「ヒャッハァ〜、こっちに新しいパンツがあるぜェ〜!」
 もう洗濯するしかないであろうパンツを鮪は進んで回収し、代わりに手持ちのコレクションの中から新品のパンツをその者たちに差し出したのだ。紳士だ。もしくは、危険なパンツを欲しがる強者だ。



 ダーツルートの頂点。
 彼らの前には、台座が見えていた。晴明からダーツを受け取った唯斗が、ゆっくりとそこに近づく。
「晴明、約束は守ったぞ」
 言って、唯斗がダーツを台座に収めた。その様子を見ながら、彼が出した晴明の名に反応を示したのは、琳 鳳明(りん・ほうめい)だった。
「葦原の地下でブライドオブハルパー探索で一緒になって以来だけど、大丈夫なのかな……?」
 話によれば、参道 宗吾(さんどう・そうご)が先回りして晴明を狙っているという。
 ――晴明くんは、そうまでして自分を求める宗吾さんに対して、己を保つことが出来るの? 仮にも、以前は友人として一緒にいた彼に。その歪んだ価値観によって、友情を裏切る形になった彼に。
 鳳明は視線を台座から虚空へ移した。彼女の頭に浮かんだのは、晴明の悩む顔だった。
 どうか、晴明くんが後悔だけはしないように。
 心でそう願い、鳳明は彼の無事を祈った。

 そして、舞台は晴明たちの進むハルパールートへ移る。