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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

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【蒼フロ3周年記念】蒼空・零 ~1946年~

リアクション

 いくらか時間をさかのぼる。
 大きすぎれば逆に目に付かない、か――。
 柊真司は無言で、邸宅の門を乗り越えた。ワイヤークローで頂上付近まで登攀してからひらりと跳躍し、上に仕掛けられた有刺鉄線を超す。
 両脚を揃え猫のように音もなく着地して、油断なく周囲を見回す。呼吸は、乱れていない。
 このような場所が新竜組の賭場となっており、しかも倉庫がわりに様々なものがしまいこまれているとは、まるで真司は想定していなかった。この邸宅についてはもちろん気がついていたが、それこそ、大きすぎて注意を惹かなかったのだ。新宿という土地を考えれば十分すぎるほどに大きな邸宅、これが暴力団の所有物とは……
 ソーマからのテレパシーに導かれ、真司もまたこの場所に来たのだった。なお、裏手に回った誠一たちと違い、この位置は正門側である。
 着地しても彼は石段を避け、そろそろと丘陵状の地を昇っていった。
 この先に見える邸宅に、チヨが捕まっている。リーラたちも一緒だ。
 ところが真司はすぐに身を隠す結果になった。外に面する正門がガラガラと音を立て開いたのだ。ヘッドライトの灯りが見えた。滑るようにして自動車が入ってくるではないか。
 人買いが来るとかソーマは告げていた。あれがそうではないのか。だとすると急がねば。
 しかし直後、彼の体はその場に凍り付いた。
「誰っ!」
 背後から声がかかったのだ。
 反射的に真司は腰のスタンガンを握っていた。振り向きざま攻撃すれば先手は取れよう。
 しかし声は若い。しかも、ヤクザのようなドスのきいた口ぶりでもなかった。
 騒がれれば万事休す……とはわかっているが、真司は直感に賭けた。
「俺はおまえと同じ目的で来た者だ。天御柱学院の……」
 と、振り返って安堵の息を漏らした。
 柚木桂輔ではないか。パートナーのアルマ・ライラックの姿もあった。真司にとっては同じ学校の顔見知りであり、先日の交流会でも顔は合わせている。
「静かに……静かにですよ……」
 アルマが手で『伏せて』と示したので、真司も桂輔も身を低くした。
「どうやってここが、って? 実は新竜組の内部に知り合いがいてね」
 桂輔が言いかけたとき、正門付近で大きな騒ぎが起こった。
「『白ドクロ』だあ!」
 それは悲鳴混じりの声、まるで妖怪でも見たと言わんばかりだ。
「『白ドクロ』が出やがった!」
 たちまち正門のあたりは蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。銃声も巻き起こっている。一体何があったというのか。
「……どっちにしろ、これってチャンスだと思いません?」
 アルマの言に、真司も桂輔も首肯した。