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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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【創世の絆】もう一つの地球と歪な侵略者

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市民を救出せよ 3



「結局、あれは本当のコリマって事でいいのか?」
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は古い木造の家が立ち並ぶ、住宅街をソニア・クラウディウス(そにあ・くらうでぃうす)と共に探索していた。こういった場所には、避難命令などを無視して残る人が居る可能性が高い。
「遺伝子鑑定までしたんだし、同じ疑問は私達でなくても感じているわ。その上で判断された事に、不服を唱えるべきではないわ。気持ちは、わからないでもないけど」
 ソニアはそこで言葉を切って、本部に自分達の担当地区の探索が終わった事を報告した。
「でもなー……痛っ! あい、ミカエラ姐さん、無駄口叩かずに、未避難者の捜索と救助・避難援助にいそしみますって!」
 テノーリオは頭頂部をさする。ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の一撃に手加減は無かった。
「本部から命令よ」
 ミカエラは余計な事は一切言わずに、たった今受領した命令を説明する。
「命令? って事は、何かあったのか」
 自分達がどう動くかは、予め決まっている。それが変更になるという事は、何かがあったのだ。それが、いいニュースである可能性は限りなく低い。
「神社から出た自衛隊の装甲車が、待ち伏せにあって立ち往生してるそうよ。私達の地点から遠くない、トマス達も向かってるわ」

「なぁ、あんた、本当に大丈夫なのか?」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)に老人は唾を飛ばしながら詰め寄る。老人の背中には、パンパンに膨らんだリュックサックがあり、それをトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が後ろから支えていた。
「ええ……ですから、ここでじっと隠れていてください」
 子敬は老人から、外の様子が見えないように立ちふさがりながらそう答えた。身を潜めた居酒屋の窓から、自衛隊とダエーヴァが戦う様子が見る事ができる。状況はかなり悪い。
「すぐに迎えに来ます」
 トマスと子敬は、窓から飛び出して現場に向かった。
 塀の上から民家の屋根へと飛び移りながら向かう二人に気づいたゴブリンが、ライフルを撃って応戦する。
「報告通り、銃を使ってきますね」
 弾丸は周囲の屋根や塀を破壊するが、二人には当たらなかった。
 地面に素直に降りるのではなく、こちらに向かっているゴブリンにそれぞれとび蹴りを叩き込んだ。ゴブリンは吹き飛び、二人は装甲車の前に着地する。
「おじいさんの荷造り、手伝って正解でしたね」
 避難を無視して残ろうとする老人を説得して、さらに二人はその荷造りを手伝った。説得と荷造りには時間がかかり、避難場所での合流を諦め途中で自衛隊に拾ってもらう手はずを整える事になった。
 そのおかげで、誰よりも早く自衛隊の装甲車と合流する事ができたのである。
「みんなもここに急行してる、無理は禁物だよ」
「承知しております」
 突然の援軍に怪物の軍勢は少し怯みもしたが、すぐに勇ましい声をあげて突撃してきた。相手はたった二人だ気にするな、とでもいったところか。
 無策の突撃ではあったが、数の差は大きい。自衛隊も反撃を試みるが、とめきれない。二人も、手の届く範囲は有限だ。
「目を閉じて!」
 その声と共に、眩い光が辺りを唐突に照らした。唐突ではあったが、トマスと子敬はとっさに腕で目を覆ったが、人間の言葉を理解できていないダエーヴァの怪物は視界を奪われた。
「異世界の怪物か……ひとまず、もっと醜悪なものの擬態というわけではないようだな」
 まだ残る光の中で、リューゼ・エクルース(りゅーぜ・えくるーす)の小型列車砲の発射音が轟く。
「近づけさせませんよ」
 二つに分けた失われし文明の機晶銃を両手に持ち、ソニア・クラウディウス(そにあ・くらうでぃうす)が弾幕を張る。
 光が収まると、装甲車の上にリューゼとソニアの二人が、ダエーヴァの軍勢に向けてそれぞれの銃口を構えていた。
「俺達も居るぜ」
 そうトマス達に声をかけるのは、テノーリオだ。ミカエラの姿もある。
「ニキータさんから連絡を受けてきたんだ。僕も手伝うよ」
 風宮 明人(かざみや・あきと)は怪物達から視線を外さずに言う。
「……神の目でも姿はそのまま。ううん、今は観察は後回しにしよう、このまま一気に畳み掛けるよ」
 まだ怪物達の何割かは、視界を完全に取り戻してはおらず混乱している。彼らはこの機を逃さず反撃を開始した。



「敵が、引いていく……のか」
 昌毅はふらふらとした足取りで、適当なビルの壁に背中を預けた。
(撤退、ですね)
 精神感応の相手であるマイアは、乱戦の中にいた昌毅よりも周囲を見渡せているだろう。
「あー、やってられん」
 周囲が安全になったかどうか、ギリギリまで警戒していたカスケードがその場に腰を降ろした。
「さすがに、疲れたわい」
「……撤退するという事は、皆は無事この地域から脱出できたのだろうな」
 フリーレは二人のように座り込んだりはしなかったが、疲労と消耗は自覚していた。まだ頭上にあった太陽が、今ではもう傾きかけている。それだけの時間、ひたすらダエーヴァの相手をし続けたのだ。
 唯一行幸とも言うべき点があったとすれば、戦いが激化するに従って、怪物とエッツェルも戦う状況に陥った事だろうか。周囲に効果の出る魔法をぶっ放せば、そりゃ敵対されるのも仕方ない話だろう。
「あいつも逃げたようだな」
 陽一は爆発のあとに残るダエーヴァの死骸をどけて確認したが、エッツェルの姿は残っていなかった。完全に乱戦となった際に、最初の突撃で仕掛けておいた機晶爆弾を使ったのだ。
 痛みを感じる事の無い身体は、取り付けられた異物に対しても鈍感であったようだ。周囲の怪物を巻き込んだ爆発と共に、エッツェルはこの場から消えてしまった。
 取り逃がしたのは惜しかったが、果たしてあの乱戦の中最後まで彼が残っていたら、ここに残っている顔ぶれが違ったものになった可能性は否めない。
「あー、わかった」
 昌毅は気合を入れて、壁から離れた。
 マイアが状況の報告を済ませて、連絡してくれたのだ。
「自衛隊の引継ぎが無事完了したってさ。色々あっちもあったみたいだが、ここで孤立してるのはまずいから仲間と合流しろ、だそうだ」

 一方、乱戦の中逃走を果たしたはずのエッツェルは、奇妙な青年とダエーヴァの怪物に取り囲まれていた。
「俺の勘じゃ、あんたが悪者だと思うけどどうだ?」
 青年はダエーヴァに指示を出している様子で、それに異を唱える事なく怪物も素直に反応している。
「人を悪者呼ばわりとは随分ですね。あなたこそ何者でしょうか、ただの人、というわけでは無いように思いますが?」
 怪物の力量はエッツェルは把握している。無理に突破しようと思えば可能だろう。
「人に名を尋ねるにはうんぬんかんぬんってやつか。別にいいけど、案外細かいところに拘るんだな。俺は南坂光太郎、嫌われ者だよ」
「嫌われ者、ですか。フフフ、それであなたはこの怪物を使って、こちらの世界にやってきた。そういうわけですか?」
「あー、ちょっと違うかな。俺はただ見学に来ただけだ。こいつらは頭空っぽの馬鹿だから、俺でも命令できるけど、俺はこいつらにももちろん人間様にも、嫌われてるんでね。あーあ、死にたくなるぜ」
「私はあなたの愚痴を聞かされるために、こんな仕打ちを受けているのですかね?」
「おっと悪い悪い。危ない事はしないよう厳命されてるんで、こいつらは保険だよ、保険。肉の壁ぐらいにはなるからな。あー、何だっけ、あー、そうそう、どうせこっちに来るんだったら、有望そうな奴をスカウトしようと思ってたんだよ、うん、そんなわけだ」
「この私を、ですか?」
「あー、どこまで言っていいんだっけ……なんでもいいか。詳しい話は、うちの方に来てから聞いてくれよな。話のわかる奴に俺の名前を出せば、誰か説明してくれるさ。そんだけ、あー、うん、それだけだな」
「私をアナザーに招待する、と?」
「あー、来てくれたら、な。こっちとあっちを移動する方法は、地力でなんとかしてくれ。あれだよ、あれ。もし興味があって、もしこっちに来れたら、そういう話だよ、うん。あー、そんぐらいかな、たぶん」
 光太郎は、奇妙な青年だった。
 十代半ばから後半といった容姿と、その言動や態度に何ら違和感を感じないのだ。何かを腹の内に隠していたり、あるいはとんでもない実力を秘めた人間が持つ、特有の気配というものを感じない。
 怪物どもを従えている事以外は、見た目通りの普通の、付け加えれば怠惰でやる気の無い、青年以外の何者でもないのである。
「あー、久々に人間と話しまくったから疲れた。おしまいおしまい、俺もう帰るわ。あんたも適当に……そういや、あんたの名前は?」
「ヌギル・コーラスです」
「変った名前だな、覚えられっかな……まぁいいや」
 光太郎が指示を出すと、ゴブリン達が道を開けた。お帰りはあちらから、らしい。
 エッツェルはひとまず、その案内に従った。小指の先で簡単に潰せそうな相手だ。放っておいて問題は無いだろう。
「さて、どうしましょうか」
 誘いに乗るか、否か。それを考える時間的余裕は、十二分に用意されている。