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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【決戦、アールキングVS契約者】5

 やがてエリザベート一行は、アールキングの核が眠っている場所まで辿り着いた。
 そこは不吉な邪気と瘴気とが入り乱れている場所だった。
 壁という壁一面に根をびっしりと張っているのは、イルミンスールと姿形は似ているように見える世界樹のアールキングだ。しかし、受け止められる印象はまったく違う。雰囲気も、様相も、まるでイルミンスールと違うのだった。
 ごくりと息を飲んで、エリザベート達はアールキングに近づいていこうとした。するとそのとき、横からエリザベートを狙って伸びてきた手を、ある女が掴んでいた。
「なにっ!?」
 あと一歩のところでエリザベートを捕まえられそうだった男は、とっさに身を引いた。その名は天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)。エリザベート達を先へ行かせる為に通路に残った、ドクター・ハデスのパートナーだった。
 一方、彼の手を止めたのは高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)だった。
 鈿女は十六凪の野望に気づいていた。
 彼はハデスの腹心である振りをしながらも、実は出し抜く機会を虎視眈々と伺っていたのだ。そして、アールキングという強大な力を前にして、それがついに露見した。
 システムX――ロボットのコアを操るその装置によって、強制的に従属を強いられる聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)は、十六凪の指示に従ってエリザベートを捕らえようとする。
 だが、それすらも事前に阻んだのが鈿女だ。
「チィッ……! 鈿女! 貴様がなぜここにッ!」
 十六凪は動揺も露わに瞠目する。
 一方、鈿女の目は平然としたものだった。
「おあいにくさまね、十六凪。あんたの魂胆が分からない私だとでも思った?」
「クッ……」
「大方、アールキングの力に魅せられて、その力を利用しようとでも思ったんでしょうけど……そうはいかないわよ」
 じろりと睨み据える鈿女に、十六凪は屈辱的になる。
「ハーティオン! エリザベート校長を頼んだわよ!」
「うむ、任せておけ!」
 鈿女に呼ばれ、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)はカリバーンに捕らえられそうになっていたエリザベートを安全なところまで連れていった。
 その後、残されたのは逃げ場を失った十六凪と鈿女だ。
 普段のクールな表情からは打って変わり、苦虫を噛み潰したような苦渋の表情を浮かべる十六凪に、鈿女はじっくりと近づいた。
「今さらカリバーンを操ろうなんて思わないことね。あの子の強制コントロールはもうとっくに解かれてるわ」
「なにっ……!?」
 十六凪はシステムXを作動させようとした。
 が、そのコントローラーはまるで反応がない。事実、カリバーンはすでにコントロールから目覚めていて、今まで自分は何をしていたのかと困惑した状態にあった。
「システムXの強制コントロールを解除したというのか!? どうやって!?」
「……そりゃ、造ったのはあたしのお祖父ちゃんなわけだし」
 鈿女は肩をすくめた。
「ちょいとコツさえ知ってれば、何とかなるもんなのよ。――結局、機械ってのはそんなもん。本当の意味で心なんてコントロールできないのよ」
「ふんっ、世迷い言をッ!」
 十六凪は言いながらも、後ろへ引き下がった。
 もはや彼にも対抗手段がないのは分かっていた。ならばここで捕まるわけにはいかない。
「あー、鈿女!? 逃げちゃう! 逃げちゃうってばー!」
 脱走した十六凪を見て、ラブ・リトル(らぶ・りとる)が言う。
 しかし鈿女は、あえてそれを追いかけようとはしなかった。
「もう! どうして逃がしちゃうのよー!」
 リトルはぶーっと鈿女に文句を垂れる。しかし鈿女は、もはや十六凪ではなくアールキングのほうに目を向けていた。
「いまはそれどころじゃないわ。気づかないの? リトル……。アールキングが目覚めたのよ……!」
「えっ……!?」
 驚いたリトルもアールキングに目を向けた。
 そう。そこでは、強大で邪悪なエネルギーに包まれた大樹が振動を起こしていた。十六凪なんかよりももっと危険で危うい存在。それがついに、エリザベート達の前に姿を現そうというのだ。真の意味での、本当の顔を――。
「来るわっ……!」
 鈿女が言った。

『我は、大世界樹……――――!』

 そこに呪怨の声が、鳴り響いた。



「こいつは……邪気の塊みたいな奴だな」
 レンはそう言って、魔銃を構えた。
 彼はこの場所へ着く少し前に、エリザベート達と合流していた。
 そのレンの横に、エリザベートやその他の仲間達が顔を並べている。
 と、アールキングに銃口を向けるレンの横から、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)という女性が歩み出た。
 彼女はアールキングにある問いを尋ねようと考えていた。それは、リカイン自身がずっと疑問に思っていたことだ。アールキングの思い。目的。それらの全てを知りたいとリカインは願っていた。
「アールキング……。あなたは、どうしてアルティメットクイーンと手を組んでいるの?」
 彼女は問う。アールキングは押し黙ったまま、その声を聞いていた。
「アルティメットクイーンはこの世界を滅びから救うために、世界を自らの手で滅ぼして創り直そうとしている。それには、あなたも含まれているはずよ。あなたは自分が滅んでしまってでも、クイーンに協力すると言うの?」
『………………それは、違う』
 アールキングは唸るように答えた。
『私は力を持っている。“真の王”たる力……。この世の大世界樹となる力だ……。古き世界を滅ぼし、新たな世界の王となるための力』
「それが、……可能だというの?」
『意思と世界。我と大地。望まねば我は単なる世界樹でしかない。しかし――我は違うのだ! 我は大世界樹となる! “真の王”となる! 光条世界が定めた正しき滅びと創世のサイクルが紡がれる“真の世界”の王と!』
 アールキングの意思は、憎悪と強固な決意に満ちていた。
 リカインにもそれが分かる。巨大な樹木と核から発せられる莫大な力が、それを証明している。アールキングの力に押し潰されそうだった。
 もはやそこには助力を仰ぐ隙すらもない。
 そのときリカインは理解した。アールキングはすでに覚悟を決めているのだ。いくらこちらが何と言ったところで、その意思を曲げることはもう出来ないのだろう。
(戦うしかない…………)
 リカインはそう思った。
 そしてそれは――ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)とて同じことだった。
(彼の意志は固い……)
 あるいは、もしかすればアールキングがこちらに力を貸してくれるかもしれないという可能性に賭けていた。一縷の望みに賭けていた。しかし、それは無理な話だ。
 アールキングはすでに覚悟を決めている。
 ザカコ達が世界を救う覚悟をしているように、アールキング自身も、新たな世界で“真の王”となる覚悟を決めているのだ。それは相反する二つの意志だ。ぶつかり合うことはあれど、混ざり合うことはない。そのことを、その現実を、ザカコ達は突きつけられていた。
「あなたが“真の王”だと言うのなら、なぜ他の者を受け入れようとしないのですか! 他人を受け入れてこそ、王だと言えないのか! 皆を守ってこそ……!」
『そんなものは、戯れ言でしかないッ!!』
 アールキングは叫んだ。激情が声音を変えていた。
『今の世界に満たされているのは“本来、存在している筈のない命”。滅びを逃れ、サイクルを歪め、生き延び続けている浅ましい塵芥に過ぎん!』
「そんな、無茶苦茶を……」
『無茶だと思うか? それが人間の限界よ……。だが、我は違う! イルミンスールとも、世界樹とも! “真の王”は支配者たる王となる! 安寧の世界がため、生にしがみつく哀れな命をナラカへと沈めてなぁ!』
 もはやアールキングの心は盲目に囚われているとしか思えなかった。
 いや、事実――そうであったのかもしれない。
 アールキングは執着している。己が野望の成就に。己の願望の実現に。
 リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)はそれが痛いほど分かる。だからこそ、悲しくなった。アールキングの信念が。その執着心が。
「もう、止められないのでふか……。アールキング……。あなたは、もう、僕らの知ってる世界樹とは違うのでふか……」
『我は真実に従うのみッ――! さあ……、死ぬがいいッ!! 害虫どもがァッッ!!』
「!?」
 その瞬間、アールキングの力が膨大に膨れあがった。
 一瞬のことでリイムは何が起こったか理解出来なかった。しかし、そこに十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)が助けに入る。
「リイム!」
 彼はとっさにリイムとアールキングとの間に割り込み、小さな相棒の身体を掴み上げて離脱した。しかし、間に合わない……!
 一瞬の戦慄の後、アールキングのエネルギーが爆発した。
「ぐあああぁぁぁぁぁっ!!」
 強大なエネルギーの奔流が、宵一を吹き飛ばす。
 背中に無数の傷跡を作り、宵一はその場にくずおれた。そして、その下から這いでてくるのはリイムだ。彼は宵一に守られていたのだった。
「リーダー!」
 リイムは宵一の身体を揺さぶった。が、返事はない。かろうじて息はしているが、宵一はかなりの深手を負っていた。
「お姉さま! お姉さまっ……リーダーはっ……!?」
「待って、落ちついて、リイム」
 慌てて駆けつけたヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)が、宵一の隣にかがみこんで彼の身体を調べた。その顔が険しくなる。ヨルディアは重い口を開いた。
「ひどいですわね……。まともにパワーを受けてしまってる。かなりのダメージを受けてますわ……」
「リーダー……僕のせいで……」
 リイムは悲しそうにうなだれた。目に涙が溢れてくる。
 しかし、幸いだったのは、命に別状はないことだった。ヨルディアはそのことをリイムに告げると、すぐに宵一を連れて後方にさがった。宵一の治癒に移る為だ。リイムはしかし、その場を離れなかった。力強い目が、意思が、キッとアールキングを睨みつけた。
「許さないでふ……。もう、あなたなんかは……許さないでふっ……!」
 リイムの目は怒りに満ちていた。
 それを受け止め、アールキングは笑う。嘲笑する。世界の全てを敵に回しても、その怒りこそが自らのエネルギーだというように――アールキングは笑った。
『さあ、来い……契約者達……! 我を止められるなら止めてみせろ! そして、あがくがいい! 無力な自らを嘆きながら!!』
 世界樹は唸りをあげた。戦いへの、前章というように。