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第56章 好きな人達と楽しく!

 持ち込みOKの空京のカラオケ屋に、百合園の生徒達が集まっていた。
 学年も種族もバラバラ。
 だけれど少女達はとても仲良しに見えた。
「また兵器類は残ったままなんですけれど、皆大事なものは……大切な人も、連れて戻ることができたから」
 白百合団の班長である秋月 葵(あきづき・あおい)は、団長の桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)に、再び離宮に向かったことと、その時の様子について話していた。
「本当に良かったです」
 パーティルームで、紅茶を飲みながら鈴子は微笑む。
「ミルミも知ってたら行ったんだけどなあ、知ってたらねぇ」
 行く気は全くなかったくせに、ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)はわざとらしくそう言う。
「じゃ、次に行く時には、ミルミちゃんも一緒に行こうね!」
「え!? か、考えておくよ、勉強とか忙しいしね……」
 葵の言葉に、ミルミが目を泳がせる。
 そんな彼女の様子に、場に笑みが広がった。
「つぎは、ライナちゃんとうたうよ〜」
 秋月 カレン(あきづき・かれん)が、マイクを一つライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)に「はいっ」と渡した。……そして、何やら目配せをする。
「うん、うたうよー。あんまりおうたしらないけど、おぼえてきたんだよ!」
「2人とも、頑張って下さいね」
 エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)が声をかけると、2人は「うん」と首を縦に振った。
 イントロが流れだすと、アイスを食べていた葵が、フォークを口に入れたまま、ん? と首を傾げた。
 それは、ハッピーバースデーの歌だった。
 覚えて来たといっても、同じ言葉の繰り返し。
 間違えもなく、2人は可愛らしく歌を歌って……葵の誕生日を祝った。
「あおいママ〜お誕生日おめでとうなの〜」
「おめでとー!」
 子供達の言葉の後、パン! と、エレンディラがクラッカーを鳴らした。
「葵ちゃん、誕生日おめでとうございます」
「葵ちゃん、おめでとう〜!」
 続いて、ミルミがクラッカーを鳴らす。
「あー。そういえば今日誕生日だったっけ……忘れてたよ」
 葵はちょっと照れ笑いを浮かべる。
「おめでとうございます。これは私達3人から」
 鈴子が葵にラッピングされたプレゼントを渡す。
「中身は文房具だよ。ミルミはアクセサリーがいいんじゃないかと思ったんだけどねー」
「いえ、文房具、嬉しいです。白百合団の仕事も大切だけれど、百合園生として恥ずかしくないように……ちゃんと勉強して、知識も身に着けないといけないよね」
 葵が鈴子を見ると、鈴子は優しく微笑んで頷いた。
「私達からはこれを」
「一緒に作ったんだよぉ〜」
 エレンディラとカレンがテーブルに、ケーキやお菓子を並べていく。
 大きな苺ケーキに、シュークリーム、プリンに、クッキー。
 全て手作りだ。
 葵に内緒で、2人で作ったものだった。
 鈴子を誘ったのは葵だけれど、それより前に、エレンディラが今日は葵の誕生日であることを、鈴子達に話してあったのだ。お祝いしてあげてほしいとも。
 鈴子は、いつもの葵の頑張りに感謝しており、ミルミは葵に友情を感じているため、今回の件を快諾したのだった。
「うわあ……あ、ありがとう」
 葵は驚きながらお礼を言う。
 エレンディラはケーキにろうそくを立てて、火をつけた。
 鈴子が部屋の照明を落とす。
「葵ちゃん、火を吹き消してくださいね」
「うん……っ」
 葵はケーキに立てられた17本のろうそくの火を、一気に吹き消した。
「おめでとう」
「おめでとー!」
「おめでとうございます」
 拍手と共に、皆が葵を祝福する。
「ありがとう、ありがとーっ。それじゃ、皆で食べよう! すっごい美味しそう」
 葵は照れ隠しのように、エレンに「ケーキ、切って切って」とせがむのだった。

 女の子だけで、和気あいあい笑いあう時間は、あっという間に過ぎて。
 葵が最後の歌を歌い。
 エレンディラ、鈴子が中心となって、片付けを終えて。
 さて、帰ろうかという時に。
 葵は鞄の中から、ピンク色の包みを取り出した。
「いつもご指導ありがとうございます。これ、食べてください」
 ぺこりと頭を下げて、葵は尊敬している鈴子に包み――チョコレートを差し出した。
「ありがとうございます。
「あおいママと一緒に作ったの〜ライナちゃんにあげる〜」
 カレンも鞄の中から、黄色の包みを取り出すと、友達のライナに差し出した。
「ありがとーっ。こういうの友チョコっていうんだって」
「うん、そうなんだってねぇ〜」
 ライナとカレンは羽をパタパタはばたかせながら、微笑んでお話しを始める。
「ええっと、ミルミも何か持ってくればよかったね……」
 ミルミはどうしようかと、ちょっと困り顔になっている。
「プレゼント貰ったから、十分だよ。ミルミちゃんとライナちゃんもどうぞ」
 葵は、ミルミとライナにもピンクの包みのチョコレートを渡した。
「ありがと〜」
「ありがとー」
 ミルミとライナは目を輝かせて喜んだ。
「これからもよろしくね〜♪」
 葵がそう言うと、2人は同時に「うん♪」と首を大きく縦に振った。
「これからもよろしくお願いしますね」
 微笑みながら鈴子もそう言うと。
「は、はいっ」
 葵は緊張しつつ、微笑み返すのだった。
「あおいママ嬉しそぉ〜」
 カレンが葵を見守るエレンディラに目を向ける。
「そうですね。良い日になりました」
 エレンディラも微笑んで、カレンや葵。集っている皆に優しい笑みを向けるのだった。
(明日も頑張ろう。明日の明日も頑張ろうっ。お友達と、仲間と、鈴子団長の下で……)
 葵は心の中でそう決めながら、皆と微笑み合っていた。