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第28章 甘さをキミに

「お昼はあの店にしようか。食べ歩きしたから、そんなにお腹空いてないしね」
「そうね。軽食で十分だわ」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)は、微笑み合い、小さな喫茶店へと向かった。
 朝から3時間ほど、2人はホワイトデー大感謝祭が行われている通りを、ぶらぶら歩いていた。
 他愛もない話をしながら、ウィンドーショッピングを楽しんだり、
 大道芸人のパフォーマンスに、歓声を上げて、時には子供のようにはしゃいだり。
 出店で、クレープやお菓子を買って、味見し合って、笑いあって。
 特別なことは何もなかったけれど、友達同士の楽しい休日を過ごしていた。

 喫茶店に入って、店のおすすめランチを注文した後。
 先に届いたオレンジジュースを飲みながら、鳳明は紅茶にミルクを入れているフリューネに目を向ける。聞いてみたいことがあるのだけれど、少し聞きづらくて……思わずじっと彼女を眺めてしまう。
「ん? 何? オレンジジュースとアイスティー交換する? それともストローもう1本ずつもらって、一緒に飲んでみる? ホワイトデーだし!」
 悪戯気にそう言ってフリューネが笑い、鳳明も笑みを浮かべた。
「あのね」
 ちょっとドキドキしながら、鳳明は思い切って聞いてみることにする。
「……フリューネさん最近複数の人から告白されたって本当?」
「……えっ。なんでそれを……」
 手を止めて、動揺しているフリューネに、鳳明は何故か小声になって問いかけていく。
「ね、ねぇ……告白されるってどんな感じ?
「……うっ……」
 小さく声を上げただけで、フリューネは押し黙ってしまった。
 意味もなく、ストローでアイスティーをぐるぐるぐるぐるかき混ぜたり、視線をうろうろと彷徨わせたりしている。
「やっぱり凄くドキドキするよね? というか返事したのかな!?」
 鳳明の問いに、フリューネはテーブルに目を向けながら口を開く。
「気持ちは嬉しいんだけど、どうしたらいいのかわからなくて。ちゃんと答えてないかも……というか」
 フリューネが軽く鳳明を睨みつける。
「鳳明、あの時近くにいなかったっけ?」
 実は鳳明はフリューネが告白をされている所に、偶然居合わせていたことがある。
「そ、そうだったっけ……」
 今度は鳳明が目を逸らした。
 勿論当時のことは覚えているけれど、フリューネの感情全てが見えていたわけではないから。
「どうなんだろうね、今は無理とか言うのって却って酷なのかな。相手の気持ちを縛るつもりは全くないんだけど」
 ぽつぽつ語るフリューネの言葉を、鳳明は頷きながら興味深げに聞いていた。
「今は恋愛に時間を割くことは出来なくても、誰か一人に決めておくべきだと思う?」
「むしろ全員といっぺんに付き合ってみたら?」
「なるほど、そして全員に嫌われて、エンドってわけね!」
 笑いあった後、だけど皆大切な戦友達だから、友ではいたいのよね……と、フリューネは複雑そうな表情をした。
 しかし次の瞬間。
「で、鳳明の方はどうなの? そういう事聞くってことは、何かあったでしょ」
「わ、私!? 私はそんな告白なんてされた事ないし!」
「なるほど、したのね! だから、された方の気持ちが気になったと」
「え……そ、そうじゃなくてね。そもそも私の方から告白したって、フリューネと同じような事言ってはぐらかされたりとか……。……ううっ」
 そこまで話して、色々自爆してしまっていることに気づき、鳳明は赤くなって頭を抱えた。
「はははははっ。っと、いただきまーす」
 フリューネは笑い声をあげた後、届いたサンドイッチを食べ始める。
「い、いただきます」
 鳳明も大きく息をついて、サンドイッチに手を伸ばした。
 もぐもぐツナサンドを食べていきながら「実はこの後会うのよねー……」と、フリューネは言葉を漏らした。
「ん? 誰と」
「キミが覗き見をしたあの人と」
「覗き見なんてしてないよ! って、レンくん?」
 鳳明の言葉に、フリューネは首を縦に振る。
「普通に友人として付き合えているのなら、いいのかもしれないけれど……」
 大きなため息をついて、鳳明は思いを寄せる人と、答えを思い出して遠くを見るような目をする。
「お互い、ちゃんと何かしら答えを出さないといけないね」
 サンドイッチを食べながら、フリューネは「うん」と頷いた。
 その直後。
「ああっ! 卵サンドがない!?」
 鳳明は自分の皿のサンドイッチが一つ足りないことに気付く。
「ごめーん、美味しそうだったから。もぐもぐ」
 卵サンドは既にフリューネの口の中だった。
「代わりにこれあげるね」
 言いながら、フリューネはガムシロップを鳳明のジュースの中に入れる。
「ああーっ! もう、何するの〜っ」
 鳳明は笑いながら、ジュースをかき混ぜて飲んでみる。
 とっても甘かった。
 重くなった空気を和らげようとして、フリューネはこんな悪戯をしたのか、それとも照れ隠しか。
 多分両方だろうなと思いながら、「甘いよフリューネ、甘すぎるよフリューネ」と笑って、ジュースを飲んでいく。