リアクション
○ ○ ○ 「パンパーティーと言うから、準備してあげたワヨ」 スワンボートの中で、キャンディスは、道具袋の中から、パンを三つ(あんパン、ねこパンち、パンぷきんへっど)を取り出した。 「これ……可愛いです」 アレナはねこパンちに興味を示して、ちょんちょんと触れて感触を楽しむ。 「アレナさんは、ネコミミとかもに似合いそうヨネ」 「そうでしょうか。あ、回収した衣服の中に、うさみみがあったんですよ。キャンディスさんに似合うかもしれませんよ!」 「アレナさんがそう言うのなら、つけてみるヨー。衣装は伸びるカシラ?」 「網のような衣装だったので、伸びると思います。じゃ、キャンディスさんに差し上げますね」 アレナは純粋に微笑んだ。そのうさみみとは、バニーガールの衣装なわけだが。 「アレナ様は、その格好やっぱりよくお似合いですよ」 隣に座っているユニコルノが微笑んだ。 アレナはユニコルノが用意した沢山のフリルがついた薄桃色のワンピースに、黄色と赤の大きな花の髪飾りをつけていた。 「はい……」 アレナはちょっと赤くなって頷いた。 「優子様もきっと喜ばれますよ」 「あの……ユニコルノさんも、おめかししませんか? ……同じ、がいいです」 こくんと頷いた後、アレナはそう言った。 「私もですか? ええ、アレナ様が望まれるのでしたら」 「はいっ。お礼のパーティも楽しんでいただけたら、嬉しいです」 「ええ」 アレナとユニコルノは穏やかに優しく微笑み合う。 「あの……」 それからユニコルノは、アレナにこう尋ねた。 「アレナさん、とお呼びしても良いですか?」 「は、はい。ダメな理由ないです。呼び捨てでいいですよ?」 「ありがとうございます。よかった」 ユニコルノはほっと息をつく。 「ソウソウ」 パン…類を装備しながら、キャンディスが尋ねる。 「優子さんの故郷の日本では、引っ越したら近所に住んでる人に引越し蕎麦を配るノヨ。準備シテル?」 「どうでしょう?」 「アレナさんは蕎麦の代わりにパン…を配るのカシラ?」 「パン…でよければ、配ります」 「その時は、ミーも頂くワヨ」 高額で売れるという噂だ。くれるものなら貰っておくに限る。キャンディスはそう思う。 「もちろんです。……あっ」 中型の船が通過したことで、ボートがゆらゆらと揺れた。 「落ちないように気をつけてくださいね。……変態方は喜ぶと思いますけれど」 小夜子は、手を伸ばしてアレナの体を落ちないように押さえた。 アレナはありがとうございますとお礼を言う。 「濡らさないようにいたしませんと」 エノンはそっと足元においてあったスーツケースを押さえる。 「しかし、下着が趣味とは変わった性癖の人もいるのですね」 エノンにはその気持ちは理解は出来ないが、そういう人がいるということだけは理解した。 波が静まり、皆がほっと息をついたその時だった。 「荷物と救世主を置いていってもらおうか」 スピードを上げた小型船が急接近。 甲板にいる者達の姿に、皆の顔が固まった。 全員、パンツに似た形状のマスクを被っている……。彼らの目と頬は露になっており、鼻と口は布で覆われている。 「どちら様ですか? 聖女さんという方は、このボートには乗っていませんよ?」 「アレナ様……多分、彼らは変態商会の一味です」 「そうなのですか?」 「変態ではない、白百合商会だ! 白百合団に制服を提供している会社だぞ、採寸するからさあおいで〜」 えへらえへらと笑いながら、パンツマスクを被った男達はアレナに手招きをする。 「代わりにミーが採寸を! お礼は白百合団の制服でいいワヨ」 それを纏えば、堂々と百合園に入れるかもしれないと、キャンディスが身を乗り出す。 船がぐらりと揺れた。 「転覆したら大変です。河原に下りましょう」 「皆さん、捕まっていてください!」 小夜子とエノンが壊れるほどの勢いでボートを漕ぎ、河原へとつける。 「アレナ、こっちだ」 少し離れて、河原からをボート護衛していた呼雪が、アレナの手を引っ張って船から降ろし、自分の後方へと下がらせる。 「荷物は任せてください……呼雪?」 呼雪は荷物を降ろそうとするユニコルノの側に踏み込んで、そのままジャンプして変態船に飛び乗った。 「衣服だけではなく、やはり本人までも……っ」 呼雪は冷ややかながらも、瞳に憎悪の炎を浮かべながら、レーザーガトリングを船の中で乱射。 「ひっ」 「ひぎゃーっ」 「救世主様、お助けを」 「ヴァイシャリーの民を守ってください!」 男達の命乞いの言葉に、呼雪は更なる憎悪を膨らませる。 「勝手なことを……! アレナがどんな想いでいたか、何一つ知りもしない貴様らには、近づく資格も名を呼ぶ資格さえもありはしない」 「お許しを、お許しを。ああ、素敵なお足〜」 呼雪に踏まれながら、男達は彼の太ももに手を伸ばしてくる。 相当飢えているようだ。 「この変態が」 呼雪は容赦ない攻撃を浴びせて、男達を沈黙させていく。 そして、思い出したかのように、別の会員から回収した救世主のパンツと称されていたショーツを取り上げて、ジト目で形状を確かめる。 「アレナがこんなモノ穿くか!」 木箱の後ろに隠れていた男にショーツを投げつけて、木箱ごと……寧ろ船ごと呼雪は破壊していく。 「全て、消す……!」 アレナに纏わりつく者を全て抹殺するかのような、勢いだった。 「なるほど……変態さんへはああして対処すれば良いのですね」 河原に下りて、荷物を守りながら、ユニコルノは変態への対処法を学習していた。 「呼雪さん……?」 人が変わったかのような呼雪の姿に、アレナは驚いているようだった。 「呼雪ー呼雪ー。それ以上やったら、変態さん本当に死んじゃうよー?」 魔法と子守唄でサポートをしていたヘルは、さすがに殺してはまずいだろうと思い、止めに入る。 「まだだ、まだ残っている」 「これだけやれば、もう近づかないって」 空飛ぶ箒ファルケで呼雪の元まで飛んで、ヘルは呼雪を抱えて浮かび上がる。 その直後に。 ドドドドドド…… 「ギャー!」 小型船のデッキに水が流れ込み、船は変態達と共に運河の中に消えていった。 ヘルと共に、河原に戻った呼雪ははあはあと荒い呼吸を繰り返している。 「もう、アレナちゃんの事となると目の色変わっちゃうんだから……」 ヘルはちょっといじけながら、運河の方に目を向けた。 「放置しておいたら、ホント死んじゃうと思うし。引っ張りあげて役所に連れてく?」 「……」 呼雪は即答できなかった。このまま沈めておきたいと思ってしまって。 「そうですね。役所に連れて行きましょう……」 小夜子がそう答えて、おぼれている男達を引っ張りあげていく。 「更生プログラムは朝の早いパン…工場でパン…作りの奉仕活動とか?」 「そうですね。そこまで罪深い人達ではないでしょうから。それくらいが丁度いいのかもしれません」 ヘルの提案に小夜子が頷いた。 「もっと他の奉仕がー」 そんな小夜子の白い足に、変態がにゅるにゅるっと絡みついてきた。 「触らないで下さい……っ」 ぴしぴしぴしっと、小夜子は鞭で男の背を叩く。 「あうっ、痛い痛いです。イイ! もっと、もっと叩いてください、女王様……」 「!? 痛いのが良いのですか? この変態っ!」 ぴしっぴしっぴしっ。 「ああ、ああう、あうあう……」 恍惚の笑みを浮かべて、男は意識を失った。 「はあ、はあ、はあ……こ、これはなんだか戦うより、助け出す方が消耗しそうですわ」 小夜子はゾクゾクと不思議な感覚を受けながら、救出作業を続ける。 しかしそれだけで事態は治まらなかった。 救出された変態の一人が、なんと防水携帯電話を持っていたのだ! 「あ、あれ? 変なマスク被った人が沢山……!」 アレナが不安そうな顔をする。 そう、連絡を受けた仲間達がぞろぞろ河原に集いつつあった。 「さすがにこれは……手加減はできないな」 「してなかったと思うけどっ」 真剣な表情で銃を構える呼雪に、ヘルがつっこんだ。 「荷物とアレナさ…んを宿舎にお送りすることを一番に考えましょう」 ユニコルノが船に積んであった乗り物を下ろして、荷物を積み、アレナにも乗るようにと勧めていく。 「ほら呼雪、僕達も行くよ。アレナちゃんを無事届けないとね」 「ああ……」 ヘルは空飛ぶ箒ファルケで呼雪と一緒に浮かび上がる。 「こちらは任せてください」 「数百……でしょうか、でも、負けませんわ」 小夜子とエノンがガードラインでアレナ達を背に庇い、変態軍団に立ち向かう。 「ここは任せろォ! 優子の所に先に行ってろ」 頼もしい助っ人がバイクで訪れる。竜司と、若葉分校生達だ。 「お願いしますっ、番長さん、皆さん!」 ユニコルノと一緒に、サンタのトナカイで飛び立ちながら、アレナは大声をあげる。 「救世主がお逃げになるぞ!」 「どうかお慈悲をー」 「着用中の下着を落としてくれれば、もう追わないぜ〜」 変態達がわらわらアレナ達を追おうとする。 「任せておけェ、優子のものは俺のものだからなァ。いくぜ!」 竜司が分校生を引き連れて、変態達の前に回り込んだ。 「くっ……人数が多いですわ。お下がりなさい!」 小夜子は敬愛する御姉様、もとい亜璃珠に倣って鞭をぴしぴしと叩きつけるが、叩かれた男達はなんだか皆嬉しそうだった。 「はう……アレナさんに手は出させませんっ」 ぴしぴし、鞭を振るっていると、なぜか体がゾクゾクしてくる。 「まるで、湧いてくるかのように……はあっ!」 エノンは向かってくる男を槍で殴りつけた。 「助けてくれ、命だけは……」 倒れた男は、命乞いをしながら、エノンの足を掴む。 「命まで奪おうとはおもっていませ……………」 「ふげへへへ」 男は仰向けになり、エノンのスカートの中身を見て涎でパンツマスクに滲みを作っていた。 「……こぉの変態っ!」 蹴り上げた後、盾でシールドタックル。 男の息の根……は止めなかったが、意識を奪いとった。 「ぐっぎゃーーーーー」 「ぐごほっ……」 一方、竜司の攻撃は男達の精神に大きなダメージを与えていた。 「う゛う゛ーん。う゛う゛う゛ーん……」 その身を蝕む妄執で、男もののパンツをゲットした幻影を見せらた者は、うめき声を上げて蹲っている。 「若葉分校の番長と知っての狼藉かァ?」 「めっそうもない」 適者生存により、変態達は竜司に跪く者もいた。 「従います。従いますので、総長のパートナーの所有物を」 「ご本人を組織に!」 「アレナは優子のもの。優子のものはオレのもの。そんなにオレのものが欲しけりゃ、くれてやるぜー」 竜司は用意してきた段ボール箱を開いた。 中に入っていたのは、大量のパンツ。……ただし、自分の。 なんと、さっき脱いだばかりのホヤホヤのまである! 「コイツで勘弁しろやコラァ」 そういって、パンツをばら撒くと、若葉分校生達と撤退していく。 アレナを乗せたソリは既に見えなくなっていた。 「はあ……ううっ。こ、これ以上構っていられませんわ」 「ええ、行きましょう」 小夜子とエノンも地上からの護衛を続けるために、宿舎の方へと急ぐ。 「ふぎゃーっ」 「ぐはっ」 「うごほっ、ごほっ」 竜司のパンツ攻撃に、男達はのた打ち回って苦しみ続け、その多くは通報を受けて駆けつけたヴァイシャリー軍人に捕縛されたのだった。 「あれ、そういえばキャンディスさんは……?」 ソリの上で、アレナはキャンディスの姿がないことに、気付く。 河原でも姿を見かけなかった。 「えっと……大丈夫だよ、直ぐに宿舎に来るよ、きっと」 ヘルは目を逸らしながらそう言う。 彼は見ていた。 呼雪が小型船に飛び乗る時に、無意識にキャンディスを踏み台にし、運河に落としていたことを。 そういうわけで、キャンディスは男達と一緒にヴァイシャリー軍に拘束された。 頑張ったのに、宿舎に入ることも、試着会への出席も、パーティ出席も叶わなかったけれど! 留置場での白百合商会との商談は進んだらしい。 |
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