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ジューンブライダル2021。

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ジューンブライダル2021。
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リアクション



10


 ジューンブライドキャンペーンをやっているらしく、茅野 菫(ちの・すみれ)の友人らも結婚式や模擬結婚式を挙げることになった。
 参列してくれないかと誘われて、パビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)と一緒に空京まで来たはいいけれど。
「式までまだ時間があるわね」
 だいぶ早めに着いてしまった。式場を見回すと、オープンテラスのカフェがあったので向かおうとして。
「珍しい人も居るものねー」
 レアキャラ、もといリンスに出会った。
「……茅野、結婚? まだ早くない?」
「あたし結婚しないもん」
「フィヴラーリ?」
「も、違うわよ。友人が式を挙げるの。あなたは? まさか結婚?」
「誰とするのさ。PV撮影に協力してきたところだよ」
「PV?」
「詳しいことは聞かないで」
 疲れたように言われたので、それ以上追求することはやめた。代わりにテラスを指差して、
「お茶しない? 暇なの」
 誘うことにした。
 六月とはいえ気温は高いので、全員揃ってアイスティーやアイスコーヒーなど冷たい飲み物を注文し、テラスの椅子に座る。
「体調とかどうなの? 退院したあと具合悪くなったりしてない?」
「大丈夫。仕事も出来てるよ」
「あんたの場合、その仕事やりすぎで倒れるからなー」
「もうないって、そんなこと」
 どうだか、と言いながら視線を外に向ける。と、結婚式を終えたらしい見知らぬ二人が通り過ぎていった。純白のタキシード。純白のウエディングドレス。缶を引いた車に乗って、幸せそうな笑顔で。
 思わず拍手した。
 お幸せに。パビェーダが呟くように言葉を漏らす。
「いいな、ドレス。綺麗よね」
「女の子の憧れね」
 菫とパビェーダのやり取りに、リンスがそうなの? と言いたげな目を向けてきたので頷く。
「憧れよ。ウェディングドレスも結婚式も」
「ふうん」
「ああいうの、素敵だと思うわ」
 パビェーダがほうっとした声で言った。
「着たいの? ドレス」
「私だって女の子だもの。やっぱり着てみたいわ、あなたの隣で……」
「俺の隣?」
 無意識だったのだろう。はっとしたパビェーダの顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「あ、っ。違うの、間違えたの。言い間違いよ。あなたが仕立てたドレスを着たいって言いたかったの」
 散々な誤魔化しだなぁと菫は思うが、
「俺、人形の服なら作れるけど人間の服は作ったことないよ」
 馬鹿なのか素直なのか天然なのか、リンスは何事も無かったように会話を続けた。
「でも人形の服が作れるなら人間の服も作れるんじゃないの? クロエサイズの服、作れるんでしょ?」
 フォローというわけではないけれど、その話を繋げてみる。少し気になったし。
「作ってみたら、ウェディングドレス。パビェーダに」
「やってできないことはないかもしれないけど。作るの?」
 どうする、とリンスがパビェーダを見た。赤い顔のままアイスコーヒーを飲んでいたパビェーダが、「ふぇ」と素っ頓狂な声を出した。さっきの無意識の発言といい、今日のパビェーダは面白い。
 ――ていうか、最近ずっと、かしら。
 ――なんか取られちゃったようで、ヤだなぁ。
「茅野、睨まないで怖い」
「睨んでないもん」
「あ、そ」
 会話が途切れたと同時に、リンスを呼ぶクロエの声が聞こえてきた。
「俺、行かなきゃ」
「帰るの?」
「友達の結婚式。お祝いしてくるよ」
 リンスが席を立って、クロエの姿を探す。
 パビェーダのわき腹をつついた。帰っちゃうみたいよ、と。
「リンス」
「ん?」
「……またね」
「うん、またね」
 けれど、何を言うでもなかったらしい。
 ただ別れの挨拶をして、それでばいばい。
 それでも、幸せそうに微笑んでいて。
 ――パビェーダがいいなら、まあ、いいわ。


*...***...*


 結婚式場で模擬結婚式の参加者を募集していたので、秋月 葵(あきづき・あおい)エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)を誘って参加することにした。
 結婚式自体は去年もやったけれど、思い出を作って悪いなんてこともないはずだし。
 それはエレンディラも同じらしく、「今年はどうしましょうね」と笑って言った。
「去年は私が新婦だったし……今年は逆転する?」
「いいえ。可愛らしい葵ちゃんの花嫁姿が見たいです。だって本番は私が花嫁ですから見れませんし」
「でもあたしもエレンの花嫁姿見たいなぁ」
「なら、二人で花嫁になりませんか? 模擬ですもの」
 確かに。模擬なのだから、ある程度融通は利かせてくれるはずだ。
 そうと決まれば衣装選びである。どのドレスがいいかとか、これが似合うこれもいい、とかしましく衣裳部屋にこもること小一時間。
「エレン似合ってる〜♪」
 プリンセスラインのウェディングドレスを着たエレンディラを見て、葵は思わず声を上げた。
 ドレスの色は薄いピンク。デザインは薔薇をあしらったもので、各所に盛り込まれたフリルやレースが華やかさを出していた。
「葵ちゃんもお似合いです。とっても可愛い」
 エレンディラに褒められ、葵ははにかんだ。ドレスはエレンディラが着ているものと同じデザインで、色が違うだけのものである。色は薄いブルーで、対比がくっきりとしていた。
「そろそろ開場だね」
「ええ。式場に向かいましょう」
 ゴンドラでの入場が予定されていたのだが、ドレス選びからして気分はずっと高まっていた。そんな大人しい入場だけじゃ、つまらない。
 派手な演出で大いに盛り上がり、見ている人も幸せを感じるような式にしたい。
 葵の中にはそんな想いが強くあった。
 なので、直前ではあるがゴンドラを使うことを止めた。代わりに空飛ぶ魔法で浮かび上がる。羽が舞う中を、エレンディラと一緒に降りていく。
「てんしみたいできれい」
 誰かが言ったのが聞こえた。クロエの声だったように思える。
 この後に待っているのは、誓いの言葉と指輪交換、それから誓いのキス。
 誓いの言葉はそつなく行えた。指輪交換だって、予行演習だから婚約指輪をそのまま使ったが問題なくこなした。
「少し、恥ずかしいですね」
 誓いのキスは、人前で行うものだから。
「ね。ちょっと恥ずかしい」
 ねー、と二人で笑い合う。
 ――でも頑張ろう。いい式にしたいもん。
 そう決めて、葵は深呼吸をした。エレンディラも察したらしく、静かに目を閉じる。
 唇と唇が触れ合うだけのキスをして、目を開けた。
「えへへ」
「……ふふ」
 照れ隠しに笑ってから、ぎゅーっと抱きついた。
「エレン、大好き!」
「私もです、葵ちゃん」


「きれいだったわ、ぜんぶぜんぶ!」
 クロエがはしゃぐ姿を見て、葵は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとー。演出考えたから、そう言ってもらえると嬉しいな」
「キスもきれいだったの。ううん、しあわせそう、だったわ。すてき!」
 キス、という単語にエレンディラの顔が赤くなった。あの時は雰囲気でできたのだろうけれど、今改めて言われると恥ずかしいのだろう。そういえばクロエには以前見られたことがあったっけ、なんて連鎖的に思い出す。
「赤面するエレンディラさんも綺麗っスねー」
「紺侍さんっ、そんなところまで撮らないでくださいっ……」
「あ、紺侍ちゃん」
「ちわ。撮れてますよ、イイの」
 カメラマンとして呼んだ紺侍は、きっといい仕事をしてくれているだろう。
 後になって思い出として今日の写真を見て、いろいろと思い出すのだろう。
 本番のことを考えたりもして、また楽しい気分になるのだろう。
 こうしてエレンディラと思い出を作っていけることが幸せだなぁと、葵は改めて実感した。