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第3章 ろくでなしのフロンティア

「す、すごい闘いですね。おかげで、ボクたちへのイタズラが止まってくれてよかったです。このまま、みんな疲れて倒れてくれるといいんですが」
 神崎輝(かんざき・ひかる)は、十字架にはりつけにされたまま、眼下で行われる荒くれ者たちのケンカを固唾をのんで見守っていた。
 男だとバレる危険は当分の間なくなったが、ケンカの行く末によってはまた襲われるかもしれない。
 そうなる前に、自力で脱出できるか、救助がきてくれるとありがたいのだが。
 もじもじ
 輝は身体をよじらせて拘束からの脱出を試みるが、とても自力ではできそうにもなかった。
 そこに。
「あーあ、十字架をこんな風に使っちゃって。純朴な聖職者がみたら卒倒しちゃいますね」
 坂上来栖(さかがみ・くるす)が、輝がはりつけにされている十字架の下にまでやってきて、呆れたようにため息をついたのである。
(誰でしょうか? 純朴な聖職者がみたら、ってことは、卒倒しないこの人は純朴じゃないんでしょうか?)
 輝は疑問を感じないでもなかったが、それでも藁にもすがりたい心境だったので、この怪しげな聖職者に話しかける決心をした。
「すみません。みてのとおりの状況です。どうか助けて下さい」
「うん?」
 輝の声を聞いた坂上は、やっと、はりつけにされている人間に興味を向けた。
「これはこれは。ハロー、気分はどうです? お嬢さん方」
 おおげさに口を開けて驚いてみせ、おどけた口調で坂上はいった。
 お嬢さんじゃないです、という言葉を輝はのみこんだ。
 もしかしたら、女性じゃないというだけで助けてくれなくなる可能性もあると思えたからだ。
「このままでは、みんな、あの荒くれ者たちの慰みものにされてしまいます。いまなら奴らはケンカしていて、こっちに気を向けていません。お願いですから、解放して下さい」
 輝は哀願するような口調でいった。
 だが、坂上は、笑って首を振るのだった。
「あっはっは、助けませんよ。そういうの、めったに体験できることじゃないと思いますからね。もったいないっていうか。それにほら、もうすぐ誰かが助けてくれますよ」
 坂上は、丘のふもとからのぼってくる一団を指していった。
 だが、輝は、「助けない」という言葉を聞いただけでガッカリしてしまった。
 純朴でないどころか、聖職者かどうかも怪しい相手だとわかってしまったのである。
 そうはいっても、眼下にいるその相手から、常人からは感じることのできない、異様な迫力を持った気が感じられるのは不思議だったが。
 そして。
「ひ、輝。輝じゃないか。何やらド派手なケンカが起きているからきてみれば! どうしてそんな目に!?」
 坂上が指した方からやってきた若松未散(わかまつ・みちる)は、十字架の上の友人の姿を目にして、驚きのあまり身を震わせてしまっていた。
「あっ、未散。よかったー。早く助けてよ」
 輝は、思わぬときにやってきてくれた友人をみて大喜びし、身体をくねらせて、十字架の方にきてくれとせきたてる。
「ゆ、許せない。輝をはりつけにするなんて。クズだ! 人間のクズだ!!」
 未散は、肩をわななかせて怒りを燃え上がらせた。
「怒るのは後でいいから、早く助けてよー」
 輝は、もどかしくなって叫んだ。
「ほっほっほ。美しい友情ですね」
 2人のやりとりをみていた坂上は、楽しそうに笑いだした。
 すると。
「ほう。これは素晴らしい。十字架の上のいけにえとは。絶景かな、ですね」
 未散たちの後から丘をのぼってきたエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が、十字架の下に立ち止まって、はりつけの少女たちを、感心したような様子で眺めだしたのである。
「誰ですか、あなたは?」
 坂上は、うさんくさそうな目で、エッツェルをみていった。
「いえ。ただ、面白そうなものがみえたのできてみたのです。それにしても、荒くれ者のみなさん、ずいぶん激しいケンカをしているんですね。実は私、最近の激戦で身体をかなり消耗していまして。せっかくですから、みなさんの元気をわけて頂きたいですね」
 エッツェルは、極めて邪悪な口調でそういうと、輝の十字架の下でまだ怒りに身を震わせている未散に向かって、つかつかと歩み寄っていった。
「ゆ、許せねえ! うん、誰だおまえ?」
「荒くれ者たちに負けず劣らず、大変元気のある方ですね。あなたのものから頂きましょう」
 そういって、エッツェルは、未散に向かって右手を突き出した。
 次の瞬間、驚くべきことが起こった。
 エッツェルの右手首からみしっと音がしてその部分の皮膚が裂けたかと思うと、先端に鋭いナイフのような刃を生やした、触手のようなものが現れて、未散に襲いかかってきたのだ。
「な!? 野獣どもの仲間か」
 触手のような、その蛇尾刃にからみつかれた未散は、怒りの視線をエッツェルに向けた。
「いえ。ただ、彼らより邪悪ではあります」
 そういって、エッツェルは、異形と化している左腕を露にして、未散から活力を吸い取ろうとした。
 くきゃあ
 異形の左腕が、不気味な口のようなものを開けて、叫ぶ。
 誠にまがまがしい姿であった。
「なっ! ざけんな!! やんのかよ!!」
 未散がくわっと目を見開いて怒鳴ると、未散を拘束している蛇尾刃に不思議な力が作用して、蛇尾刃をたわめて、未散は解放された。
「うん? フラワシですか」
 エッツェルは、淡々とした口調でいう。
「いまのは鉄のフラワシだ。お次は氷像のフラワシをくらえ!! クズがぁ!!」
 未散はフラワシの力で、エッツェルを足元から凍りつかせた。
「どうだ? 冷たいだろう? 怖いだろう?」
「いえ。心地よい力を頂いています」
 エッツェルはすました顔でそういうと、無造作に足を動かした。
 パリン
 エッツェルの足にまつわりついた氷が砕けて、剥片が舞う。
「バカな! 冷たいのが平気なのか? むしろ吸収している? アンデッドか」
 未散は、エッツェルの正体に気づいて愕然とした。
「さあ、もっとおおいなる力を! あなたのその、猛り狂う情念の炎から!!」
 エッツェルの左腕がぐにょりとうごめいて、蛇のように未散に襲いかかっていく。
「う、うおお」
 未散が叫んだとき。
「そこまでです。未散くんには触らせません!!」
 どこかからそんな声があがったかと思うと、エッツェルはすさまじい衝撃を感じて、あとじさった。
「どこですか? 姿を隠していても、これにはわかりますよ」
 エッツェルがそういって、異形と化した左腕を、衝撃がきた方に向けると、左腕はまた、蛇のようにすっと伸びて、何かを噛んで、引き剥がした。
「くっ! バレましたか」
 霧隠れの衣を失ったハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)は舌打ちするも、次の瞬間にはエッツェルには襲いかかっていた。
「あなたは吸血鬼ですね。霧隠れを使っているとはいえ、接近されるまで私があなたの気配に気づかなかったのは、そういうわけがあるからでしょう」
 空高く跳躍してハルの攻撃を避けながら、エッツェルはいった。
「ご名答! では、血を頂きましょう」
「『不死なる混沌』の血を吸いたがるとは、物好きな方だ」
 2人は高速で動きまわってお互いの隙をうかがいながら、常人の目ではとらえることのできない攻撃を放って闘った。
 そうこうするうちに、ケンカに夢中になっていた荒くれ者たちが、エッツェルたちに気づいた。
「おい、何してんだ? まさか、十字架の姉ちゃんたちを横どりするつもりじゃねえだろうな?」
 瞬く間に、荒くれ者たちはエッツェルたちに襲いかかっていく。
「これはこれは。手当たり次第栄養をいただきましょう」
 エッツェルは、攻撃対象をきりかえた。
「くっ! ハル、私たちも野獣どもを駆逐する! 輝をあんなにされて黙っているわけにはいかないぜ!!」
 未散もまた、ハルを促して荒くれ者たちに襲いかかっていった。
 そして。
「お前も死ねよ。偽善者面した聖職者もどきがあ!!」
 荒くれ者たちに肩をつかまれた坂上は、ばしっとその手を払いのけていた。
「な、なに!?」
「ちょっと、汚い手で触らないでもらえますか? ただでさえ、私はここの十字架をみて、神経質になっているんですから。いろいろ複雑な気持ちになるんですよ。異形と化したものや、吸血鬼がこの場で暴れているのをみていると」
 坂上は、荒くれ者をにらみつけた。
「だコラァ! しょせん人間なんてウンコ製造マシーンなんだよぉ!!」
 荒くれ者は、坂上に拳をふるった。
 ばしっ
 その拳を打ち払うと、坂上は荒くれ者の胸ぐらをつかんで、その身体をぎりぎりと持ちあげた。
「お、おお!?」
「うるさいんですよ。私は、そう、吸血鬼とか、そういうのをみてたら、ちょっと、自分もおかしな気分になってくるんですよ。どうしてくれるんですか」
 坂上は、頭がワーンと鳴ったように感じた。
 狂気が、のど元からせりあがってくるように感じる。
「死ね、死ねよ、このゴミクズどもがぁ!!!」
 坂上は、ついに牙を剥いた。
Know your role, and Shut your Mouth!!(身の程を知れ、そして黙れ!)」
 叫びとともに荒くれ者の顔面に拳を叩きこみ、タコ殴りにする坂上。
Get the fuck out of my face. You not understand? Dork boy?(私の前から失せろ、理解できないか? 間抜け野郎)」
 荒くれ者の身体を突き飛ばして、うずくまったところに蹴りを入れる坂上。
 そのまま、坂上は、周囲の荒くれ者たちに対しても、狂ったように攻撃を仕掛けていった。
「おやおや。あの方は、もしかすると」
 エッツェルは、坂上の内部の衝動の正体に見当がついたのか、自分自身も暴れまわりながら、坂上の顔をみてニヤッと笑った。
 そんなエッツェルに、坂上が襲いかかっていった。
「実をいうと、貴様が一番イライラするんだよ!! 変な刺激に満ちあふれててさあ!!」
 坂上は血走った目でエッツェルを睨むと、すさまじい勢いでまわし蹴りを放った。
「認めなさい。そして、解放しなさい」
 攻撃を避けながら、エッツェルは謎めいた言葉を呟いた。
 それを聞いた坂上の顔が、ますますイラついたようになる。
「もういい。面倒だから死ねやー!!!!」
 坂上の絶叫は、周囲の荒くれ者たちまでも圧倒していた。
「……お、おーい、未散! なに熱くなってるの。ケンカはいいから、早く助けてよ、もう!!」
 十字架の上の輝は、騒動をみつめながら、ただただじれったい気持ちでいっぱいだった。
 ところで、瑞樹はいつ来るのだろう?
 輝にとって、その日は、人生で最高にもどかしい気持ちにさせられる日だったのである。

「大変なことになっちゃったね。私たちも闘わないと!!」
 丘のふもとでは、何か騒動が起きているのに気づいて付近から駆けつけた緋柱透乃(ひばしら・とうの)が、闘いに興奮して血を燃やす覚悟をかためたところだった。
 ケンカのそもそもの理由など、透乃にはわからない。
 わかっているのは、そこに闘いがあるということ。
 そこに、自分が参加してもいいんだということ。
 そして。
 この血が闘いを求めて沸騰しようとしていることだった!
「はああああああ」
 透乃がファイティングポーズをとって臨戦態勢に入って、その身体から真っ赤なオーラの炎がたちのぼった。
「さすがですね。透乃ちゃん、燃えてますね」
 緋柱陽子(ひばしら・ようこ)がいった。
「そうね。で、誰から殺そうかしら?」
 月美芽美(つきみ・めいみ)がそう問うたとき。
「フハハハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)なり!! この闘い、我らオリュンポスが制するぞ!!」
 透乃たちのいる丘のふもとに現れたハデスの高らかな笑い声が、灰色の空にどこか白々しく響きわたったのである。
「兄さん、ここはどこですか? とてつもなく物騒ですよ」
 高天原咲耶(たかまがはら・さくや)が、不安そうにきょろきょろしながら、ハデスの後ろについている。
「ハデス様。それでは手筈どおりに!!」
 同じく、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が、ハデスの後ろから現れて、しずしずと歩み出した。
「あっ、あれよ。あれを殺るのよ!!」
 芽美が、突然興奮したような口調で叫んだ。
「うん? あれって、あの女の人?」
 透乃が尋ねる。
「違うわ。あれよ、あの、偉そうに高笑いしている男よ!! あれを殺らないで誰を殺るというのかしら」
 芽美は、なぜか、ハデスをターゲットとして非常に気に入ってしまったようだ。
「うん? 異様な殺気を感じるが。気のせいか」
 ハデスは首筋がムズムズするの感じて首を傾げたが、気にせず作戦を進める。
「兄さん、手筈って、何ですか? こんなところで、下らないケンカに参加するんですか?」
 咲耶は兄に尋ねるが、ハデスは、うんうんとうなずくだけだ。
 そうこうしているうちに、荒くれ者たちに近寄ったアルテミスが、グレートソードを振りあげて叫んだ。
「咲耶お姉さま! 私が敵をひきつけておきますから、その隙にハデス様のご指示どおりに変身を!!」
「え?」
 咲耶はきょとんとした。
「悪漢どもよ! 我が名はオリュンポスの騎士アルテミス!! 咲耶お姉さまのもとへは、誰一人、通しはしません!! 受けて下さい、必殺、斬魔剣!」
 アルテミスは、剣で荒くれ者たちに斬りつけた。
 じゅぶうっ
「ぐわあああ!!」
 血を吹きあげながら倒れる荒くれ者たち。
「兄さん、どういうことですか、変身って? まさか、また私を」
 咲耶はハデスに詰め寄った。
「ククククク。サクヤよ。相変わらず勘がいいことだな。戦士としての本能が覚醒しつつあるということか」
 ハデスは、よくわからないことをいった。
「は? ですから、何を……」
「サクヤよ! いまこそ、お前の真の姿をみせるとき!! さあ、変身アイテムの携帯電話で改造人間に変身するのだ!!」
 ハデスは、ビシッと天を指さしていった。
「兄さん、どこみていってるんですか? それに、また勝手なことを! いい加減、私を改造人間と呼ぶのはやめて下さい!!」
 咲耶の抗議を無視して、ハデスは携帯電話の操作を始めた。
 ピピピピピピ
「コード入力! 3、9、8!! サクヤだ!!」
 ピ、ポ、パ
「ウーーーーーチェックイン。サクヤ、装着開始。ピコピコピコ」
 携帯電話から、怪しい機械音声がもれる。
「ちょ、ちょっと、兄さん!? なに人の携帯を勝手に改造してるんですかっ!!」
 咲耶は膨れ面だが、すぐに異変に気づいた。
「こ、これは!? 変な洋服が発生して、絡みついてくる!!」
 咲耶の顔が真っ赤になった。
 いま、ハデスの怪しい発明の力によって無理やり装着されようとしているその衣服は、あまりにも恥ずかしいものだったからだ。
 ピカァ
 光に包まれた咲耶は、次の瞬間、フリフリのドレスを身にまとった魔法少女の姿で立っていた!!
「も、もう!!」
 咲耶はブツブツいいながらも、迫りくる荒くれ者たちと闘うため、フリフリドレスのまま、臨戦態勢に入った。
 よくみると、ドレスはあちこちがほつれて、糸が垂れさがっている。
 ハデスが一夜漬けで急いでつくったため、かなり出来が粗いのだ。
「では、変身プロセスをもう1度みてみよう!! 咲耶は、変身の呪文を携帯に打ち込むことにより、0.05秒で改造人間に変身するのだ!!」
 ハデスは、突然口調を変えて妙なことを呟いた。
「兄さん、なに、ナレーションまで自分でやってるんですか。それに、改造人間じゃなく魔法少女ですっ!!」
「ククク。改造人間姿のサクヤは、これが初出陣なので、活躍が楽しみだな! フハハハハハハ!」
 ハデスはもとの口調に戻ると、咲耶の言葉を無視して話を進めた。
「咲耶お姉さま、申し訳ありません! 2、3人が、そちらに向かいました!!」
 荒くれ者どもを斬りまくって、返り血で真っ赤になっているアルテミスが、憔悴した声で叫んだ。
「ヒャッハー! いい格好してるじゃねえか。切り刻んで露出多くさせてやるぜー!!」
 荒くれ者たちが、よだれをたらしながら咲耶に襲いかかる。
「ゆけ、サクヤ!!」
「あ、あの、兄さん! これ、変身以外にどんな能力があるんですか?」
 咲耶は、荒くれ者たちから逃げ惑いながら尋ねた。
「試作段階なので、それ以上の仕様はない。あとは、お前の改造人間としての本来の力を駆使して闘うのだ」
 ハデスは、肩をすくめて答えた。
「えーっ? 何ですか、それ? きゃ、きゃあああ」
 思わず声が高くなった咲耶は、腰に荒くれ者が抱きついてきたので、悲鳴をあげた。
「うひゃひゃひゃ!! いいケツしてまんなー!!」
 荒くれ者たちは、咲耶の匂いを鼻腔いっぱいに吸い込みながら、その柔らかなお尻に愛おしそうに頬ずりしてきた。
「い、いやああああ! やめてええええええ!」
 咲耶が身をよじらせて悪漢を引き離すと、悪漢の手に生地を握られていたフリフリドレスが、ビリビリと裂けてしまった。
「や、やだ! みえちゃうじゃないですか」
 パンツが外気にさらされた咲耶は、股間をおさえてうずくまってしまった。
「さ、咲耶お姉さま! きゃああああ!!」
 アルテミスもまた、あまりに多い敵の数に圧倒され、スカートをひっぱられてうずくまってしまった。
「よし、お仕置きだぜ!!! ゲヒヒヒヒ」
 荒くれ者たちは歓声をあげながら、アルテミスの身体にのしかかって、立てた3本の指をスカートの裾の中に潜りこませる。
 そのとき。
「そこまでだよ!!!」
 どごーん
「おわああああ!!!」
 緋柱透乃の、烈火の戦気をまとった拳が、アルテミスの上に乗っていた荒くれ者の顎を砕いていた。
「ありがとうございます」
「御礼はいらないよ。だって、助けるためにやったんじゃないもん! 私はただ闘うためにやってるよ!!」
 透乃は、アルテミスにそういって、ずんずん進んでいく。
 目指すは、ドクター・ハデス。
 芽美のいうとおり、何となく、ラスボスのようなオーラを放っているので気になったのだ。
「透乃ちゃん、気をつけて!! エンドレス・ナイトメア!!」
 緋柱陽子もまた、透乃につき従って、荒くれ者たちの心に不安をうえつけて散らせていく。
「む!? 秘密結社オリュンポスに逆らう不届き者が! サクヤ、かかれ!!」
 透乃の接近に気づいたハデスが、慌てた口調でいった。
「に、兄さん! もう、こんな姿じゃ恥ずかしくてやってられません!!」
 股間をおさえてうずくまっている咲耶がいった。
「な、何ということだ。改造人間サクヤをこうも簡単に倒すとは!!」
 ハデスは、はじめて動揺をみせた。
「なにいってるの? わけわかんないから、とりあえずぶっ飛ばすもん!!」
 透乃は、ハデスに突進した。
 どごーん
「お、おわあああああ!! ハデス死すともオリュンポスは死なず!! ぐふっ」
 透乃に投げ飛ばされたハデスは、そういって、失神したのである。