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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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KICK THE CAN3! ~Final Edition~

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(さて、いい具合に守備の人達がバラけてきたね)
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、爆風で砂埃が吹き荒れる中、空飛ぶ箒シーニュに跨って缶を目指していた。
 サンドゴーグルで目を、霊獣のストールで口を覆い、行動に差し支えないようにしている。
 今回のポイントは、姿が見つからないことではなく、いかに「タッチされない」ようにするかである。
(この近くだと、おそらくトラックの運転席にも一人いるものとして見張りが二人。遊撃のために動き回っている人が三人。そしてどこかに姿を隠して潜んでいる狙撃手が一人。最後のが一番厄介だね)
 おそらく、光学迷彩で姿を消しているのだろう。直接攻撃側の参加者を狙撃すると、誤射だと言い訳しても逃れるのは難しいが、トラップを狙撃して起動させての妨害なら、攻撃扱いにはならない。
 なかなか状況を生かしている、と言えるだろう。
 終夏は香辛料の小瓶を取り出し、その蓋を開けた。
(姿が見えなくても、これならどうかな?)
 瓶の中身を地面に撒いた。
 至る所で爆発が起こり始めていることもあり、風向きには注意する。
「風に変なものが混ざっていても、呼吸するために吸い込んじゃうのは不可抗力だよね……ってのは屁理屈かな」
 と呟きつつも、過去の缶蹴りでのことを考えればこの程度は問題ないだろう。しびれ粉を散布した人もいたというくらいだから。
 芭蕉扇で地面ごと扇ぎ、砂煙を起こす。その中には先程撒いた香辛料が混ざっている。
「みなみか〜ぜよ〜つたえてよ〜あ〜うれるすなを〜あの缶のところまで〜……っと」
 実際東西南北がよく分からないが、とりあえず風を起こし続ける。
 芭蕉扇の風だけではなく、爆風は付近に吹いているので広がるのは早かった。
「よし、行くかな」
 風の鎧を纏い、箒に跨ったまま間合いを詰めていく。
(さすがに、風程度では缶が飛んだりしない仕様になってるみたいだね)
 毎度お馴染みの「缶に細工できない」というのは、主催者側が缶に何らかの術式を施しているからなのだろう。
 しかし、接近するに従って同じ缶が複数あるのが見てとれた。
(本物は「ブレない」……あれだね)
 芭蕉扇を思いっきり振ることで強風を起こすことで、どれが本物かを確かめる。あとはそれに向かって進みのみだ。

 終夏が缶へ向かうのとほぼ同じタイミングで勝負に出たのは、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だ。
 缶の一キロ圏内は非常に危険な状態であるため、ダッシュローラーでその外側を走りながら様子を見ていた。地面にはトラップがあるため、守備から見える位置にいながら近づけないのは、飛ぶことが出来ない。
 と、思わせることが出来ていれば、自分達を捕まえる優先度は低くなっているはずだろう。
(だけど、飛べるからって安全とは限らないよね)
 どこからか攻撃側の動きを阻害することに専念する者がいることは分かっている。また、防衛側はほぼ全員が隠れ身を看破出来る状態にあると見た方がいい。
 ならば、それを逆手に取る。
「では、始めますわよ」
 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が隠れ身で気配を絶ち、小型飛空艇ヘリファルテに乗った状態で、缶の前に停まっているトラックへと進んでいく。
 トラック上で周囲の警戒に当たっていた鉄 九頭切丸が、彼女の方へ視線を向けた。そのタイミングでライド・オブ・ヴァルキリーで加速する。そして、気付かれているにも関わらず一直線に缶――ではなくトラックへそのまま突っ込んだ。どう見ても特攻でしかないが、それがメンタルアサルトによる撹乱である。
「青白磁さん、詩穂達のターンですよ」
「そいじゃ、行くけん」
 清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)と共に、セルフィーナとは別方向からになるよう迂回した上で、缶へと向かう。
 なお、二人の距離はある程度維持する。そうしないと、「作戦」に支障を来たすからだ。
「来おったわい」
 カタクリズムが繰り出され、念力が荒野に吹き荒れた。
 ローザ・オン・ブラの姿が詩穂の視界に入る。が、それは一つではない。
(本物は……どっち?)
 ミラージュをこんな風に使ってくるとは。こちらが青白磁と距離が取れない以上、ミラージュの展開範囲の外に出るのは難しい。
 ならば、距離を保ったまま「二人の」体力を削るように動く。
 歴戦の立ち回りとダッシュローラーで、常にこちらが先手に回る。青白磁も歴戦の立ち回りを心得ており、それに合わせて神速と軽身功、さらに先の先で守備側を翻弄した。
「私の体力を削ぐつもりなら、無駄でございますよ」
 ローザが炎を展開した。
 そうして完全に詩穂達を捕らえる態勢に入った時、終夏と朝霧 垂が動いた。
 垂がタービュランスで乱気流を起こし、メモリープロジェクターの映像をかき乱し、本物の缶を明らかにする。
 その上で、終夏とはわずかにタイミングがずれるようにして風の中へ飛び込み、缶へ龍飛翔突を繰り出そうとした。
 仮に妨害が入ったところで、次が控えている。
 だが、
「そう簡単には蹴らせぬよ」
 ファタ・オルガナが缶へ戻っていくのが見えた。魔法の懐中時計と封印解凍によって速度を底上げしているのだろう。
 そして、ファタが蒼き水晶の杖の力を解放した。
 垂は龍飛衝突の勢いを削がれた上で、終夏は風の鎧の効力を失ったことで、先に垂が起こしていた乱気流によって遠くへ吹き飛ばされてしまった。
 詩穂もまた、捕まりかけていたが――。
「青白磁さん!」
 タッチされそうになった瞬間、魔鎧である青白磁を瞬時に纏い、軽身功で跳躍する。そのまま空飛ぶ魔法と神速で炎を飛び越えた。
 視界にはダミー映像が消え、残された本物の缶が映る。
 蹴りの態勢を整えたところで、アクセルギアを最大である三十倍の加速で起動。
 そこから龍飛翔突を行う。
「誰よりも神よりも速く! 高速を超えた光速! 缶蹴りキック☆」
 周りの様子が、スーパースローカメラで撮影したかのようにゆっくり流れていく。おそらく、彼女の台詞は聞き取れていないだろう。
 詩穂の蹴りが直撃すると、缶は勢いよく水平に飛んでいった。
 おそらく、周囲には詩穂が瞬間移動して缶を蹴ったように見えている……はずだ。
「やった!」
 缶からそこそこ離れたところまで戻り、アクセルギアのスイッチを切る。
 この間、現実時間に換算してわずか一.五秒。
 まだ五秒経っていないが、時間を使い切ってしまうと動けなくなってしまうからだ。そうでなくとも、かなり身体を酷使した。
 とはいえ、缶を蹴れたからひとまずは満足である。ここで捕まったとしても悔いはない。

(馬鹿な……。あの完璧な布陣を突破して缶を蹴るとは。それも、一瞬で)
 そして、蹴ったと思しき少女が瞬きの速さで自分の近くへ現れた。これには、ロイ・グラードもさすがに目を見開かざるを得ない。
 「缶を死守する」という依頼を達成出来なかった。これは、大きな失態だ。
 ロイの人生に、敗北や失敗という事実があってはならない。たとえそれが、遊びであったとしても。常に勝者でなければならないのだ。
 ならば、缶を蹴った者を消して「蹴られた」という事実を隠蔽する必要がある。しかし、いつ蹴ったのかが認識出来なかった以上、まともに挑んでも勝ち目は薄い。
 残された方法はただ一つ。
(ここなら爆発の範囲内だ。このまま姿を隠したままなら……巻き添えに出来るかもしれん)
 機晶爆弾をセットする。
 腕のついでかつて失われた局部も再生してもらおうとしたが、「『存在』が死んでなかったことになったものヲ、どうやって治せというんダ?」と断られた。
 もはや概念レベルでの喪失であるため、ナラカに行って「局部の存在」を取り戻さなければならないということらしい。
 死ぬにはちょうどいい機会だ。

 ドガァン!!

 爆発音が荒野に響いた。
(あ、危なかった……咄嗟にアクセルギアを起動してなかったら、詩穂も巻き込まれてました……)
 超感覚で聴覚を研ぎ澄ましていたため、何とか反応出来た。
 が、さすがに三十倍の連続使用はこたえる。
 あとの二つは他の攻撃側参加者に任せることにして、一休みすることにした。