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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!? 【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

リアクション

 とある高級ブティックに足を運んだのは、黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)、そして叶 白竜(よう・ぱいろん)世 羅儀(せい・らぎ)であった。
 天音と白竜は、今朝、ホテルで朝食を食べている時に、目的地が同じである事に気付いたのだ。
 パラミタでは手頃な革靴が手に入らないので、オーダーメイドの革靴を注文したいと考えていた白竜は、イタリアで良い革靴の職人を探したいと思い、地球に入った時からノートパソコンを使い、ネットで色々と情報を収集していた。
 白竜が吟味した結果決めた職人が居る靴屋には、前もって連絡も入れてある。
 その当日の朝、ホテルでの朝食時にテーブルでもう一度ノートパソコンを開き、革靴の店のサイトを見ていた白竜に、朝食の載ったトレイを持った天音が声をかける。
「こんな所まで来ても仕事かい?」
 流石に軍服は着ていないものの、落ち着いた色のスーツを着てコートを隣に置いた白竜はビジネスマンに見える。
「いえ、イタリアに来たのですから、革靴を作りに行きたいと思いましてね」
 苦笑する白竜の傍に天音が座る。
 見ると、白竜のパソコンの画面には、靴のサンプルが沢山見える。
「へぇ、下調べ万全だねぇ……その店はなかなか良い店だよ」
 天音の言葉に白竜が驚く。
「ご存知なのですか?」
「僕も今日その店まで足を伸ばそうと思っていたんだよ」
「黒崎さんが知っているお店であるなら、ぜひ一緒に行ってもらえませんか?」
「そうだねぇ、じゃあ一緒に行こうか」
 二人の会話を朝食を取りつつ聞いていた白竜と同じくスーツ姿の羅儀が、「へぇ」と思う。
 羅儀にとっては、白竜が天音に同行を頼む様子は驚きであった。白竜は買い物を誰かと楽しむようなタイプではないからだ。
 因みに、羅儀は、革靴のことしか頭にない様子の白竜と違ってあれこれ買い込む予定であった。
 尚、天音から白竜と共に買い物に行くと言われたブルーズも羅儀と同じ様な反応を示したらしい。

「僕は、前に注文していたシャツと冬物のコートを受け取りに、別のショップに行きたいんだけど先にそちらに付き合って貰っても良いかな?」
 天音の言葉に白竜は「構いません」と言い、「同行を申し出たのは私なのですから」と付け加える。
 天音に連れられた白竜が店に入ると、そこには……。
「そこの服、全部見せてくれないか?」
「はい、ジェイダス様」
 店員に指示する頭の横で一本に束ねた青い髪を持つ小柄な少年がいた。
 その背中が放つ威厳に天音に続いた白竜の足が止まる。
「理事長もこちらでお買い物ですか?」
「ん?」
 天音の言葉に振り返ったのは、ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)であった。
「ああ、天音か。偶然だな」
「そうですね」
 短くジェイダスと会話する天音に、背後に立つ白竜の緊張が伝わってくる。
 この店はイタリアでのジェイダスの行きつけの店の一つであり、そこで会うだろう事は天音には予想済みであった。
「後ろのおまえ達は誰だ?」
 ジェイダスが白竜と羅儀に目をやる。
「ああ、こちらは叶さんと世さんです」
 天音が軽く紹介する。
「初めまして……」
 白竜が敬礼をし、軽く頭を下げる。羅儀も白竜に合わせて軽く頭を下げる。
「おまえ達も私のファッションに憧れてこの店に来たのか?」
「理事長、叶さんと世さんは、僕がこの店に受け取りに来たのに付き合ってくれたんです」
「そうか。友人……というには、お互いの持つ空気感が違うのが気になるな?」
「なかなかガードが固くて……」
 天音がジェイダスの問いかけに冗談めかして答える。
「理事長はこの店で何をお買い上げに?」
「私が選んだのは、これだ」
 ジェイダスが見せたのは、一見、何の変哲もない白いドレスシャツであった。
「良い生地ですね」
「ああ、このシャツは私の体に完全に合うように作られているのだ。天音、服のサイズ感という言葉を聞いた事はあるか?」
「着る人にとってよく見えるシルエット、という事でしょうか?」
「そうだ。近年、流行の細身を着る者が多いが、実は体に対して服が小さいと逆に大きく見えてしまう。挙句にインナーを着る愚か者もいる」
「着てはいけないのでしょうか?」
「シャツは素肌に直に着るに限る!」
 二人が熱くファッション談義する間、ブルーズは、天音が注文していた衣服の入った袋を受け取っていた。
「……と、いうわけでこの店はパラミタには無いモノが多い。だが、ついつい買い過ぎてしまう事を恐れるな。金を払うという行為はその国の経済にも良いし、こちらも好きなモノが手に入るのだしな」
「はい、ありがとうございます」
 天音と親しく話すジェイダスにも、距離を保ち礼節を持つ白竜。今はジェイダスが少年の外見とはいえ、その言葉や出で立ちからやはり威厳のある存在だと感じる。
 羅儀はそんな白竜とジェイダスを見比べて「ああ、なるほどね」と納得していた。
「(新エネルギー開発局局長殿だからねえ……)」
 あくまで打算的なものしかないのか、それともそれ以外の部分が白竜にあるのかは分からない。羅儀が見たところ、天音側にも何か意図があるようだが、それもよくわからない。
「似てるのかねえ、あの二人」
 羅儀は白竜と天音を見て小声で呟く。
 ブルーズは「(世とは話が合うだろうか……)」とチラ見した所で聞こえた、そんな羅儀の声に、
「油断のならない所はな」
 ボソリと呟くブルーズと羅儀の目が合う。


「これでは、旅行ではなく荷物持ちに来た様なものだぞ」
 先ほどの店での天音の買い物荷物を両手に提げてブツブツ言うブルーズと、煙草を吸いたくて喫煙場所を街中に探す羅儀を後ろに従えた、天音と白竜が本来の目的の靴屋を目指して歩いている。
 尚、ブルーズの持つ大量の荷物には、街中を歩くうちに面白そうな土産物に気を惹かれ、つい友人達への土産として買ったブルーズ自身の荷物も含まれている。
 天音と白竜は、ジェイダスの話をしていた。
「現タシガン駐留武官で、元校長のイエニチェリだった君とジェイダス理事長の会話に加わる事など、私には難しいですよ。今回はお目にかかれて、自己紹介しただけでも満足です」
「へぇ……では叶さんは理事長に挨拶はしたかった……て事でいいのかい?」
 天音の問いかけに、白竜が暫し考えた後、真一文字に結んでいた口を開く。
「私も黒崎氏に尋ねたい事がありました」
「何ですか?」
「あの店がジェイダス理事長の行きつけの店であり、そこを君が知っていると言うのは理解できます……が、ジェイダス理事長はいつも取り巻きを連れているのに、あの場所、あの時だけは誰もいなかった。これも偶然ですか?」
「偶然ですよ。それに、そちらの方が叶さんにとっても好都合だったんじゃないかな」
 問い詰めるような白竜の視線を、天音が涼しい顔で見返す。
 荷物運びに必死なブルーズはともかく、羅儀は咥えた火の付いていない煙草を噛みながら、そんな天音と白竜の会話に「(まるで狐と狸の化かし合いだな)」と思うのであった。

 そんな会話をしながら目的の靴屋へ着いた一行。
 黒革のダブルモンクストラップのデザインの革靴を希望していた白竜は、職人に採寸をお願いし、パラミタで受け取るための打ち合わせをする。
 しかし、白竜は、あまり普段も買い物時に店員と何かを会話する事がないーーというか買い物すること自体が少ないため、店員に何かを言われても「ああ」とか「そうか」くらいしか返事ができない。
 完全オーダーの革靴を買う客と言うのは、本来とてつもなく注文が多い。そもそも既製品に飽きた者が、大枚をはたいて買うシロモノであるからである。
 白竜の様な口数の少ない客に、店員も少し困った表情を浮かべる。何せ白竜が自分の注文として語ったのは「雨にも強い革靴が欲しかったので……」という一言だけだったのだ。
 見かねた天音は、予め頼んでいた靴の微調整をして貰い、余った時間で白竜の靴の採寸を眺めつつ、職人の邪魔にならない程度に、革のぶつ切りで困っている所があればフォローしていた。
「濡れても大丈夫なのが良いんだ?」
「ああ……」
「形は色々あるけれど、つま先はこのタイプが足が疲れないかもね?」
「そうか……」
「踵の高さはこの見本が丁度いいくらい?」
「出来ればもう少しだけ低くして欲しい」
「……と、いうオーダーだって?」
 天音の協力により、店員も白竜のオーダーをようやく理解したらしい。
「黒崎氏が居てくれたおかげでスムーズに細かいところも確認することができた。感謝します」
「いいよ、僕はもう暇だったから」
「ところで君の靴はいいのか?」
「オーダーメイドの革靴は、作成に一ヶ月前後かかるから、僕のは既に注文済みで、微調整だけが目的だったから」
 天音が買ったホールカットの靴は、既にブルーズが持つ荷物の一つとして収まっていた。
「ああ、先程履いていたのが……」
「そう。僕の靴さ」
 白竜が思い出すのは、黒の一枚革で作られた、ホールカットの革靴を履く天音の姿。
 椅子に腰を下ろし、慣れた手つきで靴紐を結んでいく。
 エナメルでもないのに、鏡のように天音の指が映りそうな光沢を放つ黒革の靴。
 細く長い天音の指が、壊れやすいモノをそっと摘む様に、でも、しっかりと結びつける様に結んでいく光景。
 天音の指先の色っぽさだけが、白竜の脳内に残っていた。
「どうかしたのかい?」
「……ああ、いや」
 白竜が頭を振り、天音に向き直る。無事に靴を注文できたお礼をしたいと考え、
「このあとでお茶でもご一緒に。靴の買い物に付き合って頂いたお礼に……」
 真面目な白竜の誘い方にクスリと笑った天音が、彼の言葉を遮り、
「今日は僕がご馳走するよ。昇進祝いにね、叶中尉」
 天音の言葉に、白竜は、自分がジェイダス理事長への顔つなぎを黒崎氏に期待して一緒に行動していた事が見透かされていると気付く。そして、その対価を天音が求めている事にも……。
「……この埋め合わせは必ずします」
「……楽しみだよ」
 天音は、真面目な性格の白竜が、ギブ・アンド・テイクの関係を忘れるハズはない、と踏んでいた。
 そして、案の定、天音が望む事を行うと約束してくれた白竜に、この日一番の笑顔を見せる。
 それぞれの高級革靴と共に、形の無い何かを手に入れた天音と白竜であった。