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ユールの祭日

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●●● キング・アーサー

アルバ・フレスカ(あるば・ふれすか)
百合園の英霊なのだが、その正体は十常侍/十嬢侍(じゅうじょうじ)のリーダー張譲という、なんだかややこしい人物である。

この『じゅうじょうじ』、若干ややこしいので簡単におさらいしておこう。

まず史実では宦官集団として権勢を誇った。これが「十常侍」である。
ちなみに勘違いしやすいが12人いた(!)。

三国志演義ではこれが悪役として取り上げられる。
張譲がリーダーとなったのはここからだ。
ここでは史実と異なり10人になっている。

百合園にいる『十嬢侍』はこれらに倣ったもので、ラズィーヤ・ヴァイシャリーが手下として地球各地で訓練させた凄腕の宦官にしてサムライ、10人集である。

アルバ・フレスカはカニのハサミから造った戦闘用オオバサミで武装していた。



このサムライと戦うことになったのは、アーサー・ペンドラゴン(あーさー・ぺんどらごん)である。
これは大変に不幸な経緯であった。

アーサー王は当然ながら男性の英霊であったが、このアーサーは女性として英霊になっていた。

「最強の英霊はアーサーだけど、他の英霊達がどんな戦いをするのか見るのも面白そうね」

近衛シェリンフォード ヴィクトリカ(このえしぇりんふぉーど・う゛ぃくとりか)はアーサーのパートナーとして、見物にやってきたのである。
アーサー本人はあまり戦うつもりもなく、付き添いであった。

とまあ、ここまではよかった。
問題は先の試合で同じくアーサー王の分霊、アネイリン・ゴドディン(あねいりん・ごどでぃん)が敗北したことである。

「おいおい、アーサー王が倒されたぜ」
「いうほど大した英霊でもないな。最弱の英霊なんじゃないのか?」
「ちげえねえや、ハハハ!」

とまあ、そんな評価がされている。
アーサー本人は不愉快に思えど黙っていたが、ヴィクトリカはそうもいかなかった。

いきなり拳銃を抜くと、アーサー王を侮辱した連中にぶっ放したのだ!

「てめえ、何しやがる!?」
「偉大なる王を愚弄した報いよ! 死ぬがいいわ!」
「抜かせ! 俺もかつては王だ、糞アマが!!」

どこの馬の骨とも知れない野良英霊が数人、剣や斧を構える。

「よさないか、ヴィクトリカ!」
アーサーが割って入る。

「だってこいつらはアーサー王を侮辱したのよ!
 許されるはずがないわ!」
「歴史の残れば強い面も語られるし、滑稽な面も語られるものだ。
 彼らのいうアーサーは弱かった、それだけのことじゃないか」

アーサーは気短なパートナーをなだめようと必死だ。
相手は野良英霊だとしても、今日この日に挑発すれば、ヴィクトリカの身が危ない。

この様子が、たまたまアルバ・フレスカの目に止まった。

「アーサー王!
 やはりあなたも『男の娘』だったのですね!」
「違う」
「ご謙遜を!
 あなたほどの徳を持った王ならば、完璧な『男の娘』となり、ひいては宦官となるにふさわしい!
 いや、歴史上宦官であったからこそ今の姿で英霊となったに違いありません!!」
「お嬢さん、申し訳ないが完全な誤解だ。
 今の私がこのような身であるのは、決して宦官だったからではない」


念のため申し上げておくが、
「歴史上宦官だったので女性化した英霊」
は存在してもいいが、
「女性化した英霊は全員宦官」
などということはない。決して。


このやりとりで先ほどまで険悪な空気だった英霊たちは怒りを忘れ、むしろニヤニヤと笑ってみるようになった。
ヴィクトリカの怒りは二倍どころか二乗である。

アーサーは仕方なく、この場を収めるために芝居を打つことにした。

「この私を愚弄するなよ、小娘が!
 貴様に決闘を申し込む!」


こうしてアーサーとアルバ・フレスカ(張譲)は一戦交えることとなった。

「ヴィクトリカ、あなたにはこの剣を預けたい。
 これは私にとって大切なものです。
 あなたにだからこそ預けられる。よろしいですか」

アーサーはそういって予備の剣と鞘をヴィクトリカに渡した。
大事な剣だからといって渡しておけば、短気なヴィクトリカでも不用意な行いはするまいというアーサーの配慮である。

アルバ・フレスカはハサミを手にし、チョキンチョキンと刃を鳴らせている。

しかし張譲は専横を極めたと聞いてはいるものの、どのような技を繰り出すというのだろう?

「この張譲って人はどんな能力なんですか? 強いんですか?」
という瑠璃華・シャトナー(るりか・しゃとなー)の問いに、珠代はにやあっと笑って
「『弔いの鐘のアルバ・フレスカ』と呼ばれている最強の英霊よ!
 手にした鐘を鳴らすと、その音を聞いた人間は誰かれ構わず死んじゃうの!」
などと適当なこといって聞かせた。


「それでは存分に行きますよ。皆の者!」
アルバ・フレスカが声を上げると、客席から円卓の騎士が雪崩のようにつめかけてきた。
「どういうことだ!?
 モルドレッド! アグラヴェイン! エクター・ド・マリス! パロミデス!」

「我々はその張譲様と手を結ぶことにしたのですよ」
モルドレットが毒々しく言い放つと、反逆の騎士たちは黄色の頭巾をかぶった。
黄巾党である。

黄巾党は漢王朝末期に現れた集団で、三国志の主な英雄はこの黄巾党討伐で名を上げている。
十常侍は王朝に仕える身であったが、実際にはこの黄巾党と裏で通じていたのだ!

「そうか……内通者によって敵を倒す、それが貴様の策略なのだな、張譲!」

冷静を保ってきたアーサーであるが、再びこのような思いをさせられては黙っておれぬ。
剣を抜き放ち、黄巾党となった叛徒どもを次から次へと切り伏せる。
『ブリタニア列王史』によれば、アーサー王はカリブルヌス(後にカリバーン)という剣にて470ものサクソン人を切り倒したという。
賊ごとき、100や200は恐るに足らぬ。

色黒のパロミデスを袈裟懸けにし、伊達男のマリスに突きをくれる。
アグラヴェインの厳しい顔が、苦痛で醜く歪む。

そこまでだった。
背中に激しい痛みを覚え振り向くと、そこには悪夢じみたモルドレットの顔があった。

アーサーは最後の力でモルドレットに止めを刺すが、そこで意識を失った。

「アーサー!」
と叫び、ヴィクトリカはアーサーの元へと駆けつける。
アルバ・フレスカはこれ以上この場に留まる理由もなく、ヴィクトリカを置いてその場を去った。