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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
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 第35章 ひとつ屋根の下2 〜プライベート・ルーム〜

 空は朱に染まり、少し早いけどそろそろ、夕餉の時刻。
 自宅のリビング、2人だけのプライベートな空間で、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)は向き合って食事していた。真っ白なクロスのかかったテーブルの上には、細い花瓶に活けられた数本の花とキツネ色のパンが載った皿、そしてサラダボウルが置いてある。
 メインディッシュは博季お手製のビーフシチューで、リンネは、それを美味しそうに口に運ぶ。 外食に負けないよう朝から仕込みをして、博季が腕によりをかけて作ったビーフシチュー。流石にずっと台所にいたわけじゃないけれど、時間は相当に掛かっている代物だ。
 感想は、聞かなくても彼女の表情が物語っていた。
「お家でこんなに美味しいシチューが食べられるなんて、幸せだなー。博季くんは、料理ほんと上手だよね!」
「こういうのは慣れですから。リンネさんも、作っているうちにもっと上手になりますよ」
 それに、彼女の料理はそこまでひどい、というわけじゃないし。博季はふと、去年もらったホワイトデーのクッキーを思い出す。
「え、え? じゃあ、もうちょっとがんばっちゃおうかなー」
 リンネは照れながら、ビーフシチューをスプーンで掬う。
 結婚して初めてのバレンタイン。外に行くのもいいけれど、たまには家でまったり過ごすのもいいもので。
 のんびりとゆるやかに、それでいて、楽しいから時が経つのも早く。
 夕食が終わった頃には夜も深く、窓の外には小さく雪がちらついていた。
「ど、どうかな、博季くん」
 ふかふかのソファーに並んで座って、お互いに手作りのチョコレートを交換する。といっても、リンネのチョコは博季が途中まで工程を教えながら作ったものだ。彼女が膝に乗って甘えてきたりして、その過程も楽しかった。
 一緒に作っていても、それでもどんな味がするのか楽しみで、彼はわくわくしながらチョコを食べた。
 味は……うん、想像していたよりも。
「美味しいですよ、リンネさん」
「本当!? 良かったあーーーー!」
 微笑んで2つ目を口に入れると、リンネは心底安心した声を出した。どこか、不安があったらしい。
 でも実際に、彼女の作ったチョコは想像していたよりも美味しかった。
 料理が苦手なのに、自分のために一生懸命作ってくれた。それだけで幸せだから、どんな味でも伝える言葉は決めていたけれど。結果としてそれは、真実に近い感想になった。
「博季くんのは、1つだけ色が違うね」
 安心してリラックスした様子のリンネは、博季から受け取ったチョコレートを見て首を傾げる。一口サイズに分けてラッピングしてあるチョコレート。その中に、金色のラッピングが1つだけある。
「何だと思いますか? 食べてみてください」
「う? うん」
 柔らかい博季の微笑みを受け、リンネは戸惑いを見せながらも金の紙をはがした。小さなチョコを、ぱくりと口に。溶けていくチョコレートの中、最後に残ったのは。
「?? なんだろう? 何か、硬くて輪みたいな……あっ!」
 手の平に乗せてみて、彼女は驚きの声を上げた。それは、ガーネットがあしらわれたピンクゴールドのリング。
「これ……!」
「プレゼントがチョコだけなのは寂しいかなって思って。びっくりした?」
「びっくり……、うん、びっくりしたよ!」
 目を丸くして、リンネは指輪を見つめている。
「折角お嫁さんになってくれたリンネさんだから。世界中で誰よりも幸せにしてあげたいから。だから、その一歩として、プレゼントです」
 話しているうちに、まんまるだった彼女の目は心地良さそうに、幸せそうに細められる。
「かわいい……、ありがとう、博季くん」

 改めて指輪を嵌め、残りのチョコレートをのんびりと食べる。
(どうかなぁ? 僕のチョコ、美味しく作れてるかなぁ……)
 リンネはチョコを指先でつまみ、あーん、とそれを口に入れる。その様子を見ながら、博季はちょっと不安になって彼女に言った。
「味、大丈夫かな? 1つ頂戴?」
「ん? んー……」
 もぐもぐしている彼女の隣で、テーブルの上のチョコレートに手を伸ばす。視界が遮られたのは、指が包装紙に触れる直前。
(わわ、口移しっ?)
 口の中にチョコレートの甘みが広がる。それと同時に、唇の柔らかさと暖かさが伝わってくる。目を開ければ、近すぎる程に近い距離に、リンネの顔。
 ――……そっか。
 驚きは束の間、博季は彼女を受け入れる。流れ込んでくる甘い香りに、身を任せる。背をソファーに預けて、彼は沈み込むように。口を離した彼女の笑顔が、天井の照明を遮った。
「そうだよね、折角お家でゆっくりしてるんだもん。人目なんか気にしなくていいんだ。……お互い、思い切り甘えられますよね。2人きりなんだし……」
「……うん、外じゃ恥ずかしい事もあるからね」
「あはは、ごめんなさいよくお外でキスしたりして。リンネさん、恥ずかしかったりしたよね。我慢出来なくて」
 そして、彼はリンネを抱きしめる。想いを込めて。
 やっぱり、言葉だけじゃ伝えきれないから。
 思い切り全身全霊で伝えようとしても、伝わりきらないから。
 だから今は、思う存分に抱きしめたり、キスしたりしよう。
 ――世界で一番の愛をリンネさんに。
 ――僕の一生をかけて、貴方に伝えたい。
 








                                 (END)
 

担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

大変お待たせいたしました。宣言期日に出せないとか……、またもやご心配とご迷惑をおかけする結果になり、本当に本当に、大変申し訳ありませんでした。

遅くなってしまいましたが、バレンタインシナリオをお届けいたします。執筆自体は、それぞれとても楽しくさせていただきました。ありがとうございます。
今回、個別コメントが全員に送れなく、申し訳ありません! いつも送ってる方でも白紙、という場合がございます。本当にすみません。

それでは、またシナリオを出す機会に恵まれましたら、よろしくお願いいたします。

(沢樹一海)