天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

終点、さばいぶ

リアクション公開中!

終点、さばいぶ

リアクション


chapter.3 二駅目(1) 


 二駅目を通過し、再び300ポイントがそれぞれから引かれた。初期状態のままの者は、残り400ポイント。
 まだ二駅といえど、その命の期限はすぐそこまで迫っている。
「うっし! 腹も膨れたし、そろそろだな!」
 二駅目のホームを電車が発ったと同時にそう言って、すっくと立ち上がったのはラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)。その手には、空の弁当箱があった。
 食事もとり終え、戦う準備は万端、といったところだろうか。
「とりあえず、カードを奪えばいいんだよな」
 確認を兼ねて呟きつつ、ラルクは本格的に活動を始めようと動き出した。
 といっても、こそこそ盗もうとしたり策を練ったりするのは性に合わない。彼は、真っ向からの勝負を望んでいた。
 そんな彼と出会うことになるのは、奇しくもガチンコでこのイベントに参加していたものだった。
「これより、トレインジャックを想定した車両内制圧を開始する」
 迷彩防護服着用に、ムチと手斧装備というなんとも物騒な出で立ちでそう宣言したのは、叶 白竜(よう・ぱいろん)だった。
 その軍隊チックな言動や格好に、周囲の者はやや引いていた。それは、パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)も同じようだった。
「ていうか、どう見てもオレたちの方がトレインジャック犯じゃね?」
 そう茶々を入れつつ、羅儀自身も一応付き合う気はあるようだ。所持しているトラクタービーム発射装置が、それを証明している。
「最大12駅あるということは、3600ゴルダ分の確保が必要だな」
 頭の中で計算をし、白竜が言った。
 予定では最初の駅に到着するまでにふたり分ほどのイクカを稼いでおきたかったが、周囲が彼の本気すぎる軍事ノリに距離を置いたため、接触の機会を失っていたのだ。
 とはいえ、まだ猶予はある。これしきのことで慌てふためいては、軍人の名がすたるというものだ。
 白竜は、現状に少しも動じる様子を見せず、堂々と車内を闊歩する。
 そして、彼は遭遇した。戦う気満々のラルクと。
「お、なんだかすごい格好だな! どんな相手でもかかってこい、って雰囲気してるぜ?」
 車両間のドアを開けた次の瞬間、白竜の目にラルクが飛び込んできた。彼は拳をならし、真っ直ぐ自分を見据えている。
 おそらく、ここを通る者に問答無用で勝負を挑むつもりだったのだろう。
 そしてまさに今、白竜がそこに通りかかったのだ。
「これはまた、高レベルな相手が」
 白竜がラルクの姿を確認し、小さく呟く。しかし相手が誰であろうと関係ない。自分はただ淡々と、今回のミッションをこなすだけだ。
 白竜はニューラル・ウィップを構えた。それを見たラルクも、戦闘態勢に入る。
「修行の成果を見せてやんよ!」
 最初から全力で倒しにかかろうとするラルク。そんな彼は言葉と同時に、七曜拳を放つ。それを白竜は、冷静に対処した。あくまで近距離での戦闘を避け、持っていたムチをサイコキネシスで巧みに操りラルクの拳の範囲外から反撃に出たのだ。
「おっと……! こいつは手強いな! けど負けねぇぜ?」
 ラルクはすっと懐から何かを取り出した。クジで当たったアイテムだ。それは、ちょっといやらしい描写がある本だった。探したら奇跡的にあったのだ。
「ほら、こいつを見てみ……うおっと!?」
 バシン、とハギの……否、ラルクの本は白竜のムチではたかれ床に落ちた。エロで油断させようというラルクの作戦は、お堅く真面目な白竜には通じなかった。
 むしろ、彼はそういった肌を露出している女性を嫌う節すらあった。
「これで隙を作るのは無理か。ま、ハナッからこんなもんに頼る気はないけどな!」
 より一層闘気をたぎらせるラルク。それに呼応するように、白竜も羅儀をサポートに回らせ有利に勝負を展開させようとする。
 その時だった。
「争いは止めてください!」
 突如、彼らの耳にそんな声が届いた。声の方を向いたラルク、白竜、羅儀らの前にいたのは、神代 明日香(かみしろ・あすか)だった。
 彼女は、目に涙を溜めながら、悲しそうな表情で語りかける。
「みんなで生き残る道がきっとあるはずです。まずはそれを考えて、模索してみましょう?」
 胸の前に持ってきた両手は祈るように重ねられており、その様が言葉に力を与えている。明日香はそのままゆっくりと両者の間に割って入るように歩みを進めた。
「お、おい! 今こっち来たら危ないぜ!?」
 反射的に拳を収め、ラルクが言う。
 が、次の瞬間予想外の事態がラルクに襲いかかる。
「とりあえず離れ……がっ!?」
 彼の体を、強烈な電流が駆け巡ったのだ。それは、紛れもなく、目の前の明日香によって放たれた雷だった。
 そう、彼女は、涙を武器に騙し討ちを仕掛けたのだ。
 ちなみに明日香の目からこぼれているそれは、クジで当たった目薬によるものだ。女って怖いよね。
 ラルクのイクカを奪った明日香は、続いて白竜のそれも奪取しようとした……が、彼女の思惑は外れていた。
 白竜は、明日香が放った雷撃を受けていなかったのだ。
 軍事演習と割りきっていた彼にとって、任務以外のことはすべて取り合う必要のないことなのだった。
「!?」
 明日香が危険を感じさっと飛び退いた。さっきまで彼女のいた場所には、白竜のムチによる殴打の跡。
「これは……いけませんね〜」
 明日香はこれ以上の深追いは禁物と察し、その場からの逃走を試みる。白竜は羅儀に阻止を促すが、彼はあっさりと明日香を取り逃がしてしまった。
「悪い、逃がしちゃった」
 そう言って苦笑いを浮かべる羅儀。白竜は別段落胆も激昂もせず、淡々と次の標的を探すのだった。
 だが、この時白竜は気づいていなかった。
 羅儀が明日香とすれ違い様、こっそりとあるものを渡していたことに。それは、羅儀のイクカと連絡先を書いた紙だった。そこには小さくこう書かれていた。
「このイベントの後、デートしない? イクカならあげるから」
 この男、とんだプレイボーイである。
 ただ残念ながら、明日香がそこに連絡することはなかったが。
 ラルクはまだしも、羅儀はなんとも切ない形で脱落することとなった。



 まともな肉弾戦、そして心理戦が行われている一方で、別の車両では久世 沙幸(くぜ・さゆき)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に襲われていた。
「に、二体一だなんて卑怯だよっ!」
 ふたりから逃げまわる沙幸を、美羽とベアトリーチェが追い詰める。
「今回こそ、何が何でもいい結果を残すんだから!」
 どうやら美羽は過去にも同じようなイベントに参加し、その度酷い目に遭わされてきたらしく、かなりの情熱を燃やしているようだ。
 彼女はスキルを駆使し、壁面をせわしなく駆けると、沙幸との間合いを縮めた。それでも逃げ続ける沙幸だったが、それも長くは続かない。
「そっち行ったよ!」
 美羽が言うと、ベアトリーチェが応えるように光術を放つ。
「わっ!?」
 瞼に刺さる光に、沙幸が視界を奪われる。
「美羽さん、今です!」
「オッケー! これでも食らえーっ!!」
 美羽が威勢のよい声と共に放ったのは、カカオ放射器から噴出された液体状のホワイトチョコレートだった。
 なぜこのイベントに際しこの装備を選んだのかは分からない。分からないが、対象が沙幸ということを考えると、彼女の選択を褒めずにはいられない。
「きゃあっ!?」
 頭から思い切り白い液体をかけられた沙幸は、悲鳴を上げた。しかもこのチョコは、さりげなく高温だった。
「や、やだ髪にべっとり……しかもなんだか、熱いなんて……」
 ある意味あられもない状態となった沙幸は、目を潤ませ美羽とベアトリーチェを見た。そのままイクカを奪おうとする彼女らからどうにか逃げようと、沙幸は目の前のドアを開け、隣の車両へと逃げる。
「と、とりあえずここから離れないとっ」
「待てーっ! 逃がさないよっ!!」
 そうはさせまいと追いかける美羽。彼女は「あと一息で仕留められる」と息巻いていたが、この時ベアトリーチェの考えは少し違っていた。
 下手に深追いすれば、追跡途中で他の参加者と鉢合わせて乱戦状態になってしまうかもしれない。
 守りに意識を向けていたベアトリーチェは、その分美羽よりも初動が遅れたのだ。
 そして、一足早く隣の車両へ移った沙幸と美羽は、白竜と遭遇することになる。そう、彼女らが戦っていた車両は、白竜のいた隣の車両だったのだ。
「……」
 白竜は無言で彼女たちを見た。正確には、目の前の状況を把握することに精一杯で言葉を失っていた。
 突然ドアの向こうから白い液体に塗れた少女とそれを追いかけるカカオ放射器を抱えた少女がなだれ込んできたのだ。当然である。
 僅かな時間で白竜が思い至ったこと。それは、眼前にいる少女の格好は、実にけしからんということだった。見れば沙幸の衣服は、これでもかと脚を露出させたマイクロミニのスカートだ。そこに白濁液がかかっているのだから、実にけしからん。
 さらに、その後ろにいる美羽も、沙幸に負けず劣らずのスカート丈である。このふたり、もはや進んでパンチラしようとしているようにしか思えない。
 白竜は眉をしかめた。これはどうにかしなければならない。服装の乱れは風紀の乱れである。幸い、彼はクジでスウェットを引き当てていた。
 これをはかせよう。無理矢理にでも。
 そこだけ聞くと新手のプレイに思えなくもないが、本人はいたって真面目である。
「そんな格好をせず、これを……」
 ふたりの少女に近寄り、スウェットを渡そうとする白竜。が、ふたりはそれどころではなかった。
「わわっ、ちょ、ちょっとどいてっ!」
「えーい、とどめっ!」
 ブシュウ、と美羽が再びカカオ放射器でチョコを放つ。沙幸はそれを回避しようとして、白竜と衝突してしまった。
「っ!」
 結果、攻撃は回避できたものの、白竜が代わりに放射器の餌食となってしまった。
「……」
 白い液体が付着した衣服を見て小さく溜め息を吐く白竜。無論それは、さらなるハプニングを期待していた男性諸君も同様だろう。
 だがこの状態になってなお、白竜の信念は折れなかった。
「……さあ、このスウェットを」
 白竜が、美羽にすっと差し出す。美羽は一瞬首を傾げた後、察した。
 ムチを持った白濁塗れの男性。そして執拗に着せ替えを要求してくるその姿勢。
「わ、わたしそういうのなんて言うか知ってるよっ! 変態でしょさては!!」
「な……」
 呆然とする白竜。しかし美羽は結論を変えない。
「この変態めーっ!」
 もう一度カカオ放射器を構える美羽。白竜もそれを見て悟った。
 今この状況で誤解を解くことは不可能だと。
 というか、誤解も何も、ムチはともかく白い液体はお前がかけたんじゃねーかって話だけれども。
 そして白竜は美羽にスウェットを着せるべく、また美羽は白竜を倒すべく戦いが始まった。

「美羽さん……!?」
 美羽が隣の車両に移ってから十数秒。美羽が戻ってこないことを心配したベアトリーチェがドアを開け隣の車両へ足を踏み入れた時、既に両者の決着は着いていた。
 そこには、揃って地面に伏している白竜と美羽がいた。どうやら双方とも、全力での連戦がたたり力尽きたらしい。沙幸も、どさくさに紛れさらに奥の車両へと逃げたようだ。
 ちなみに美羽のイクカは、「これだけヘンなことされたんだからいいよね」と沙幸が持っていってしまっていた。ベアトリーチェは残っていた白竜のイクカに目をやる。
「こうなったら、私だけでも残るしか……」
 そしてベアトリーチェは、心の中で謝りながら、白竜のイクカをそっと回収する。
 ラルクと羅儀に続き、ここで白竜と美羽も脱落となった。
【残り 74名】