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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)

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Perfect DIVA-悪神の軍団-(第1回/全3回)
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●遺跡〜内部

 遺跡の屋上付近へ下り立ったはすぐさま携帯を鳴らした。
「外部からは駄目でも、なかへ入ったなら通じるかも…」
 祈るような思いで待つ。
「よし、つながった!」
 陣の快哉の声に、敵を警戒していたリネンたちの視線が一斉に集中した。
「どこ?」
「……ああ、ああ、分かった。……よし。待ってろ、すぐ行く」最低限の会話で終わらせると、ぱちんと携帯を閉じる。「赤嶺たちは2階だ」
「そこに全員いるの? 加夜さんやリーレンも?」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)の質問に、陣は眉をしかめた。
「いや、彼女たちはいないそうだ。動けない健流やパートナーたちのために赤嶺は籠城してるらしい」
「どうして彼女たちは一緒にいないんだよ!?」
「あーあー、ウッセーな! 知りたきゃ自分で捜せ!」
 怒鳴り返したあと、やりきれないように頭を掻いた。
「くそ」
 陣とて彼女たちが心配でないわけではないが、物事には優先順位がある。まずは居場所の分かっている者たちとの合流が先だ。そこには重度の持病をかかえていて危険な状態にある健流もいる。
「私たちも2階へ行くわ。ハーティオンから薬を預かっているから、これを届けないと」
「じゃあ僕たちは念のため、上から順に見て行くことにする。2階で合流しよう」
 エースの提案に、全員がうなずこうとしたときだった。
「だめ! 4階は絶対にだめよ!」
 オルベールがあわて気味に口をはさんだ。
「4階には彼女たちは絶対いないから、行っちゃだめ!」
「オルベールさん…?」
 エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が彼女の方を向く。
 彼をはじめとして、なぜそんなことを言い出すのか、不思議を通り越してうさんくさそうに見る全員の視線を受けて、オルベールはうっとのどを詰まらせる。どう説明すべきか……視線から逃れるように目を伏せた彼女のフォローを入れたのは、意外にも普段彼女とは犬猿の仲のだった。
「おまえたちが不審に思うのも分かるが、ここはひとまずこいつの言うとおりにしてやってくれ。それに、今は詳しく言い合ってる時間ないだろ」
 そのとおりだった。こちらへ駆けつけてくる者たちの気配がしている。
「行くぞ!」
「あっ、階段は左手のつきあたりを右に行った先にあるはずだから!」
 わけが分からないままに、オルベールの言葉に従うことにしたらしい。ドアを抜けた彼らの足音は左方向へ消えて行った。数分遅れて、彼らを追う足音がドア前をとおりすぎていく。どうやら室内で息をひそめていた彼女たちには気付かなかったらしい。
「――で。4階には何があるって?」
「知らない。でも、絶対近付いちゃだめなの。『繭』にはだれも入れない、恐ろしいことが起きる、って」
「はぁ!? おまえ、ここのこと知ってるんじゃなかったのか?」
「うっさいわね! ベルだってね、なんでもかんでも知ってるわけじゃないのよ!! シャミが怖がって教えてくれないんだもん、しかたないじゃない!!」
 早くも半泣きになっているオルベールの顔を見て、鴉は言い返そうと開いた口をそのまま閉じた。
 ふーっと言葉をため息に変え、吐き出す。
「わーった。4階は避ける。で、俺たちはどこへ行くんだ?」
「……3階」
 オルベールは目じりから涙を拭き取り、ぽつっとつぶやいた。



*            *            *



「ね。なんで4階はだめなのかしらね?」
 階段を駆け下りながら、ユピリアは訊いた。
 ちょうど4階に差しかかったときで、好奇心から横目でフロアを覗き見る。ただのひと気のない通路に見えるが…?
「やめとけ。好奇心は猫も殺すって言うぞ」
 陣はすでに3階へ通じる階段の踊り場に立っていたが、それでもユピリアが何をしようとしているかはお見通しだ。ぎくりとして、ユピリアは踏み出していた足の下ろし場所を90度変えた。
「でも、なーんか私のトレジャーセンスにひっかかるものがあるのよねー」
「いいからあとにしろ」
 おまえの役に立つかどうかも分からねぇトレジャーセンスなんかアテにしてるヒマねーんだよ、というのがありありと分かる視線で一顧だにしない。
「それより先頭に立て」
「はぁーい」
 素直に返事をして、ユピリアは陣を追い越して行く。
 2人が気付きもせずとおり過ぎた踊り場の石くれの前に、ティエンは立った。
 崩れたアリ塚か何かのような塊。長く緑に埋もれていた遺跡らしく、いたる所から緑のつるが入り込んでいることもあって、一見これもただの土の塊にしか見えない。ただ……ドゥルジや、その身を構成していた石のことを思い出すと、これもまた、そういうモノではないかと思えてくる。
(触れてみるべき? でも……もしこれがあの石と同じ物で、操られることになったら? そうなったら僕、お兄ちゃんたちを襲うことになっちゃうの?)
「ティエンー? どうした?」
 立ち止まったまま、いつまでも降りてこないのを不審に思った陣が呼ぶ。
「あ、はーーい」
「どうした?」
 あわてて駆け寄った自分を心配げに見下ろす陣に、ティエンは笑顔で首を振って見せた。
「ううん。なんでもない」
「そうか? 何かあったらすぐ大声で呼ぶんだぞ? ここはかなりヤバそうだからな」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
 そうして見た2階の通路にも、やはり点々とあのアリ塚のような石山があった。まるで、壁に背をつけてうずくまっているかのようにも見える石たち…。
(ここで何があったの?
 たとえ操られることになっても……触れてみたら、分かる…?)
 ごくりと唾を飲んで、おそるおそる石山の1つに手を伸ばす。しかしそれは、ただの石でしかなかった。ちょっとつまんだ指先に力を入れただけで簡単に崩れて砂へと変わる。何も、自分を操ろうとするものが流入してくるような感覚はない。耳をすましてみたが、誘惑の幻聴も聞こえなかった。
 気負っていた分反動の脱力が大きくて、ティエンはへなへなとその場にしゃがみ込む。
「やっぱり……死んじゃってるのかなぁ…」
 石に向かって「死んでいる」というのはおかしな話だけど。
「立たなくちゃ……お兄ちゃん、また心配させちゃう…」
(ああでも、ずっと走りとおしで……なんか、すごく疲れちゃったな…)
 ちょっとだけ。ちょっとだけ休んだら、すぐ立つから。
 そう思って、目を閉じようとしたとき。石山がエネルギー弾の直撃を受けて吹き飛んだ。
 直後、風とともに黒い翼がティエンをかすめ、床を転がっていく。腕の反動ですぐさま跳び起きたのは、しんがりを務めていたフェイミィだった。
「くそったれが!!」
 怒声を上げ、切れた口元をぬぐう間もあらばこそ。一気に距離を詰めた銀髪の少年の繰り出すこぶしを両腕でガードする。2人はすぐにまた高速の打ち合いへ入った。
「フェイミィ、無事!?」
 同じくしんがりを務めていたリネンが声を張り上げた。こぶしはまともにフェイミィの顔に入った。自分の目でけがの程度を確認したいが、敵と切り結んでいる今の彼女には振り返る余裕もない。
 写真には写っていなかった白金の髪の少女。ほおに刻まれた「D」の縦のラインに沿って小さく「H00087」という数字が入っている。まるで箸より重い物は持ったことありません、というような気品ある容姿で、彼女はバスタードソードを片手剣のように軽々と振り回していた。しかも速い。リネンの剣技をことごとく受け止め、さらに攻撃の隙をついて反撃をかけてくる。
「……くっ!」
 のど目がけて突き込まれた剣を紙一重で避けたリネンの首に、赤い血の筋が垂れる。
 彼女の横をフェイミィと戦っていた少年がはじき飛ばされて、通路を滑って止まった。
「リネン、そこをどけ!!」
 剣を振り切り、少女が距離をとるのに合わせてパッと跳び退いた直後。リネンがいた場所から赤い溶岩が噴き上がる。
「てめーらしつけぇんだよ!!」
 恵みの雨をたたきつけると、思ったとおり高温の蒸気がカーテンのように通路を覆った。
「これでしばらくは稼げるはずだぜ。
 今のうちだ!」
 きびすを返すリネン。
「おまえもさっさと来い!」
 床にへたり込んだままのティエンの腕をぐいと引っ張って、その腕の熱さにフェイミィははっとなった。
「おまえもか?」
「……おねえちゃんも?」
 高熱で少し潤んだ目がフェイミィを見上げる。
「お願い……お兄ちゃんとお姉ちゃんには、内緒にして…」
 心配かけたくないの。
「……分かった。だが、それならしゃんとしろ。いつも以上に気張れ。ここは敵地なんだからな。
 さあ来い!」
「うんっ」
 フェイミィに引っ張ってもらうかたちで、ティエンは走り出した。