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自然公園に行きませんか?

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自然公園に行きませんか?
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12


 手が足りなくなるかもだからさ、その時は手伝ってよー。
 そう、フィルに言われたので様子見がてら空京の自然公園に来てみると、
「オープンカフェ……?」
 どうやら、カフェのアルバイトとして呼ばれたらしい。
「仕事は仕事でもカフェのお手伝い。たまにはこういう表の仕事もいいかもね」
 拍子抜けしている佐野 和輝(さの・かずき)に声をかけたのは、スノー・クライム(すのー・くらいむ)だった。
「ふえ? カフェのお仕事〜?」
 スノーの言葉を受けて、アニス・パラス(あにす・ぱらす)がきょとんとした声で和輝に尋ねる。
「そうらしい」
「手伝うの?」
「まあここまで来てしまったしな。できることくらいはやっていくよ」
 肯定の返事に、
「こういうことなら私も参加しますよ〜」
 和輝の肩に乗っていたルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)が楽しそうな声を上げた。
 じゃあやるか、とフィルに向けて軽く手を挙げる。
「あー。来てくれたんだー」
「口約束でも約束は約束だ」
「義理堅いねー。じゃ、これ制服ー。ケーキと飲み物を運ぶだけの簡単なお仕事です♪」
 渡された制服に着替え、メニューを見る。普段店で出している品数の半分ほどだ。これなら覚えるのにもさほど苦労しないだろう。
 覚えている間に、アニスとフィルの会話が聞こえてきた。
「接客は怖いから、裏で料理を作ってるね♪」
「じゃあ、お出しするケーキのお皿にデコレーションしてもらおうねー。これがアングレーズで、これがチョコソースで……」
 人見知りのアニスは、裏方に回るようだ。フィルからの説明を一生懸命聞いている。
 和輝はルナと接客に出るつもりでいた。面白いことを思いついたから、実行しようと思って。
 ただそうすると、アニスを一人残していくことになるわけで。
 ――心配だな……。
 どうしたものかと考えていたら、
「私はアニスの傍にいるわね」
 思考を読んだようにスノーが言った。
「アニスを一人にするわけにもいかないし、ね。可能な限りフォローするわ」
「スノーが一緒に居てくれるなら安心できるな」
「ええ。安心して接客してらっしゃい」
「そうする。行くぞ、ルナ」
「手のひらサイズの私に何かできるんですか〜?」
 ルナに呼びかけると、彼女は自分にもできることがありそうだと知って声を弾ませた。
 思いついたことは、ちょっとした『遊び』。
 ――普段のフィルなら許してくれないかもしれないが。
 今日は、急に呼ばれたのだからこれくらいさせてもらおう。
 まずは、ルナに肩の上で歌を歌ってもらう。幸せの歌だ。ケーキと相俟って、お客さんを幸せな気持ちにさせるだろう。
 それから、いくらこのオープンカフェが木陰にあるといっても場所によってはやや暑いので。
「おまたせいたしました、季節のケーキでございます」
 ケーキと飲み物を届ける際に、ちょっとした清涼イベントとして雪の結晶をケーキやジュースの周りに舞わせて驚かす。これは、ルナが氷結妖精だからできることだ。お客さんも楽しんでいってくれたらしい。笑っていた。
 大成功、とルナに笑いかける。ルナも嬉しそうに微笑み返した。


*...***...*


「周りに甘えて自分では何もしないのは良くない」
 と、ユウ・アルタヴィスタ(ゆう・あるたう゛ぃすた)が言った。その言葉は、皆川 陽(みなかわ・よう)の心にさっくりと刺さった。
 言われて考えてみれば、確かにそうかもしれない。
 ――甘えてる、かな。甘えてる、かも。
 ――全然自立できてないよなー。
 気付いてしまって放っておくのもまた甘えだと思ったので、陽は立ち上がった。


 しかしそれで来たのがどうして自然公園なのだろう。
 ――……現実逃避かな?
 ほとほと嫌になりかけたとき、人だかりを見つけた。何があるのか少し気になり、近付く。と、カフェがあった。オープンカフェだ。数えるほどだけど食べに行ったことのある店。
 偶然だけど、チャンスか。
「あ、あの」
 陽は、くるくると立ち回るフィルに話しかけた。
「バイト、させてもらえませんか?」
 ウェイターとして。
 ついてきたユウも、やる気なのかはいはいと挙手をしてアピールしていた。


「いらっしゃいませ!」
 笑顔を心がけて、声も明るく大きなものを意識して。
 失敗しないように所作に気をつけ、振られた世間話をなんとかこなし。
 ――働くって大変だな……!
 と、実感していた。知らない人と喋るのが、怖い。どうして初対面なのににこやかに話しかけてくるのだ。特にご年配の方々よ。合わせるべき話題も見つからず、笑顔で頷くしかできていないけれどそれで大丈夫なのか。
 恐怖や不安もあったけれど、
「あ。これ美味しいねえ」
「こっちもいけるよ。チョコの甘さが丁度いいの〜」
 なんて、喜んでいるお客さんを見ているのは、ちょっと嬉しい。
 ――ボクにも、できるんだ。
 美味しいケーキを食べて、幸せなひとときを過ごすお手伝いが。
 それは、想像していた以上に素敵なことで。
「あ、いい笑顔ー」
 無意識に笑っていたらしく、通りがかったフィルに言われた。驚いて何も言えないでいると、フィルはにこりと微笑んでから接客に行ってしまった。少し、頑張ろうという気をもらった、気がした。
 が、丁度客足は落ち着いて。
 ユウの接客だけでも十分店が回るようになった。ユウは、女性用の制服であるエプロンドレスを見事に着こなし少女となって、可愛らしく接客している。ちょっとクネクネしすぎだと思うが。
「…………」
「どうしたの、ぼーっとしてるよ?」
 ユウの姿を見ていたら、フィルに声をかけられた。「あ」と間の抜けた声が出る。ん? とフィルが首を傾げた。
「あの。服装で、そんなに気持ちまで変わるものなんでしょうか」
「一般的には変わるってされてるよねー。お洒落な格好してるとさ、自信持てたり」
「フィルさんは?」
「俺はしたい格好してるだけー。女装も男装も化粧も趣味だよ」
 趣味なのか。頭の中で繰り返す。フィルは、「ふふ」と意味ありげに笑っていた。
 ――この人も変態なのかなぁ。
 相変わらずクネクネと接客しているユウを見て、同じなのかな、なんて思った。