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2023年ジューンブライド

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 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は、とある結婚式場でぼんやりと空を眺めていた。
 竜斗は、二年前にもこの結婚式場に来たことがある。ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)と模擬結婚式を行った時に使った式場だ。
 今日は、模擬結婚式をするつもりでここにいるのではない。--ユリナに、プロポーズをするのだ。

 少し前、竜斗が今日の計画をミリーネ・セレスティア(みりーね・せれすてぃあ)に相談したところ、
「ふむ、プロポーズはまだなのですな。女性はロマンチックな情景に憧れるもの。主殿は先に式場で待っていて下され! 私がユリナ殿をお連れいたします!」
 そう言い残して、ミリーネは黒崎 麗(くろさき・れい)と共にユリナを買い物に連れ出した。
 二人が上手くユリナを連れてきてくれるよう、澄み切った空を見上げて竜斗は物思いに耽っていた。


 どれくらいの時間が経っただろうか。式場に、ミリーネと麗に連れられてユリナがやってきた。
「……結婚式場? ここって以前に竜斗さんと模擬結婚式をしたとこですよね」
 不思議そうにユリナが辺りを見回す。--と、ユリナは式場の前で空を見上げている竜斗の姿に気付いた。
「あれ? 竜斗さん? まさかまた模擬結婚式をするんですか?」
 竜斗の元に駆け寄って来たユリナが、首を傾げる。
「あー、えっとだな、今日は模擬結婚式じゃなくてさ、本当の結婚式をしたいんだ」
「本当の、結婚式?」
 まだ上手く意味が理解できていないのか、おうむ返しをするユリナの手を、竜斗は両手で包み込んだ。
「今までユリナには何度も助けられてきた。何度も支えてもらった。だから、これからは妻として俺の隣にいてくれないか?」
 そこまで言って、一息吸う。

「ユリナ、俺と結婚してくれ」

 竜斗のプロポーズを受けて、ユリナは真っ赤になって狼狽えた。
「そんな……私、何のお役にも立てないし、何の魅力もないし、一緒にいてもらえるだけでももったいないくらいなのに……」
「ユリナは俺の為にいつも頑張ってくれてるし、すごく魅力的だよ」
 瞳を潤ませて、ユリナが竜斗を見上げる。
「本当に、私でいいんですか?」
「そんなに自分を卑下するなよ。お前『で』いいんじゃなくて、お前『が』いいんだよ、俺は」
 ユリナの頬を、涙が流れ落ちた。
「……嬉しい、です。私なんかを選んでもらえて……。嬉しいのに、涙が止まらないですぅ……」
 竜斗は思わずユリナを抱きしめた。そんな二人を見て、ミリーネと麗は目配せをし、微笑んだ。


 結婚式は、すぐに執り行われることとなった。竜斗は黒のタキシード、ユリナは純白のドレスに着替えを済ませ、挙式直前にミリーネと麗と話をしていた。
「主殿もユリナ殿も、とても似合っておりますぞ!」
「お父さんもかっこいいし、お母さんも綺麗です! 両親の結婚式を見られるのは未来人の特権ですね♪」
 ミリーネと麗の言葉を受けて、どちらともなく竜斗とユリナはお互いを見つめ合う。
「竜斗さん」
 ユリナが、口を開いた。
「えっと、あの、ふつつか者でしゅが……あう、噛んじゃいました」
 さっ、と頬を赤く染めるユリナ。
「ふつつか者ですが、末長くよろしくお願いします」
 恥ずかしそうに見上げるユリナを、竜斗は抱きしめた。
「お父さん、お母さん、これからもよろしくね!」
 竜斗とユリナの様子を見て少し潤んだ瞳を向ける麗に、二人は微笑み返した。

 厳かに、教会の鐘が鳴る。二人の結婚式が始まろうとしていた。