なし

リアクション

　月が上空に綺麗に浮かびあがった、ニルヴァーナ創世学園。
　お月見の祭りが行われるために明かりの落とされた学園の近くに、柊　恭也（ひいらぎ・きょうや）とアイリ・ファンブロウ（あいり・ふぁんぶろう）の姿があった。
「これがニルヴァーナの月、か。地球と同じ月に見えるような、どっか違うような……」
　空を見上げて呟く恭也につられて、隣を歩くアイリが空を見上げた。
「私には同じように見えますけれど、見方によっては違うのかもしれませんね」
「違うと思って見れば違う月に見える、ってことか？」
「大体そんなところですかね」
　アイリの言葉に相槌を打ちながら恭也は周囲を見回し、竹林の間の散策路に目を止めた。
「……つーか竹林用意とかすげぇなニルヴァーナ学園。これポムクルさんも一枚噛んでんのか？」
　独り言のように呟いてから、恭也はひとつ頭を振った。
「こっちの散策路から眺めてみるか？」
「そうしましょうか。風景も素敵ですし」
　アイリも竹林を見て頷き、恭也とアイリは散策路へと足を向けた。

　さらさら、と風の流れていく音がする。
　竹林の中の散策路を歩く恭也とアイリを、淡い月の光が照らしている。
「しかし、こうやってアイリと一緒に過ごすのも結構長いもんだな」
「ええ。こうして思うと、出会ってからいろいろなことも起きましたけど、いろいろなところへ遊びに誘ってもらいましたね」
「ああ、こういう時間を過ごすことって、大事だよな」
　恭也たちの頬を緩やかな風が撫でていく。
　いつもよりも歩みの遅い二人は日本庭園をモチーフにした周囲の風景に感嘆の声を上げ、美しく光る月を見上げた。
「それにしても、こんな風景、今の地球じゃなかなか味わえないよな」
「そうですね……。先ほどは『同じ月に見える』と言いましたが、こうして改めて見ると、違って見えてきますね」
「へえ、どんな風に違うんだ？」
　空を見上げているアイリの横顔を見て、恭也は訊ねる。
「本当に、月が綺麗です」
　月から視線を逸らさずに、アイリは答える。その言葉を聞くなり、恭也は小さく笑い声を立てた。
「何がおかしいんですか」
「ああ、全くもって月が綺麗だよ」
　おかしそうに笑い声を立てる恭也を見て、アイリは訝しげに首を傾げたが、また月へと視線を戻した。
「きっと、一人で見る月よりも、誰かと一緒に見る月の方が綺麗に見えるんでしょうね」
「…………そう思うか？」
「何で変な顔をしているんです？　私、何かおかしなことを言いましたか？」

　恭也とアイリの話し声は、いつまでも止まずに続く。そんな二人を見守るように、月が綺麗に浮かび上がっていた。