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第6章 アレナの部屋
 
 西のシャンバラロイヤルガード宿舎に、仕事を終えてアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が戻ってきた。
 即、ロビーで待っていた男性、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が彼女に近づく。
「仕事お疲れ様! ……本当に大丈夫か?」
 アレナは数日前まで、体調を崩して仕事を休んでいたそうだ。
 心配して康之が連絡をしたところ、今日は元気だから仕事に行くという返事が返ってきた。
「大丈夫です。風邪とかじゃなかったみたいです」
 そう微笑むアレナは本当に元気そうだった。
 安心して康之は息をつき、2人はロビーのソファーに並んで腰掛けた。
 女の子の風邪じゃないけど調子が悪い、という件については、なかなか詳しく聞きずらくもあって。
 康之は今はそれ以上は聞かずに、でも決して無理はさせまいと思い、今日は連れ出さず、ここで一緒に過ごそうと決めた。
「もう数日は無理するなよ? その分、完全に治ったって分かった時に、穴埋めに目いっぱい楽しもうぜ!」
「はい! あ、お茶貰ってきますね」
「お茶ならここにあるぜ、じゃじゃーん!」
 康之は鞄の中から水筒を取り出した。
「頼まれてた買い物もしてきたぜ。後で部屋まで運ぶな」
 そして持ってきた紙コップにお茶を注ぐ。
「こっちもどうぞ」
 それから近くの店で買ってきた、イモ羊羹をテーブルに広げた。
「ありがとうございます。……ちょうど良い温かさですね」
 お茶を飲んで、アレナは微笑みを浮かべた。
「確かに、飲み頃になってるな」
 家で自分で淹れてきたお茶だ。
 康之は料理にしろ、飲み物にしろ、作るのはそう上手くはない。
 温度とか濃さとか特別に気を使って淹れたものではなかった。
 だけれどそのお茶は、アレナには自販機で購入したお茶よりずっと美味しく感じられる。
「また体調が悪くなったら言ってくれよな。必要なもの持って、駆け付けるから」
「ありがとうございます。優子さんに1人の時に男の人をお部屋に入れたら駄目だって言われてるんですけれど……康之さんはいいですよねって、こんど聞いてみます」
「そ、そうか」
 なんだか緊張するなと思う。
 優子から特別に許可が下りるだろうか?
 でもあっさりOKが出たら、それはそれで『男』として認められていないから、とも考えられるわけで。
「1人ではいるのがマズイ場合は、管理人さんとかに一緒に来てもらうから大丈夫。いつでも、頼ってくれよ」
「はい、ありがとうございます」
 アレナはお礼を言って、一緒にイモ羊羹を食べる。
 甘さは控えめで、とっても柔らかくて、美味しかった。

 それから少しだけ話をした後で、管理人に事情を話して一緒に来てもらい、康之はアレナの部屋を訪れた。
 彼がプレゼントしたぬいぐるみは、リビングのソファーに座っていた。
「ただいま、クマーちゃん。パパが来てくれましたよ」
 アレナはそんなことを言い、ぬいぐるみを抱きしめて康之の元に持ってきた。
「おう、元気にしてるか!」
 康之はポンポンとぬいぐるみの頭を撫でて、アレナと笑い合う。
「荷物、キッチンに運ばせてもらうな?」
「お願いします」
 康之は部屋に入ると、キッチンに買ってきたものを運び入れて。
 名残惜しいなと思いながらも、すぐに玄関に戻る。
「それじゃ、おやすみ、アレナ!」
「お休みなさい、康之さん。ありがとうございました」
 ぺこりとアレナが頭を下げる。
「次はどこかでスゲー楽しいことしような!」
「はいっ」
 康之は手を振って、部屋から離れていく。
 アレナはにこにこ笑みを浮かべて、康之を見送った。