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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~

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第10章 実戦! 格闘ゲーム

 若葉分校に近い、サルヴィン川の川原に設けられた特設リング。
 ここで、一風変わった対戦ゲームが行われようとしていた。
 競技者が纏うのは、イングリットがツァンダのゲーム会社からレンタルしたバトルスーツ。
 プレイヤーはスーツをコントロールできる出来るリモコン――コントローラーを手に競技者を動かし、対戦バトルが出来るというものだ。
「燃えてきますね!」
 ロープを飛び越えて、リングに下り立ったのは、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)だった。
「負けないわよ……私じゃなくてフリューネが、だけど」
 続いて、リネン・エルフト(りねん・えるふと)が棒を手にリングへと下りた。
 ゲームということで、使用が認められているのは刃がついていない武器と、エアガン、ゴム弾、ペイント弾のみだった。
 リネンが武器として選んだのは、槍での戦闘を得意とするプレイヤーフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の意見で、長い棒だった。
「私の武器は自らの身体のみ! 広明さん、お任せしますね!」
 ローズは、長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)に操作を任せ、自分は競技者としてゲームに参加することにした。
 広明には自分の戦闘スタイルや、必殺技のコマンドを話してきたので、信頼して任せるのみだった。楽しんでくれればいいなとも思う。
 勿論自分も、存分に楽しむつもりだ。
「では、始めるわよ。プレイヤーも準備はいいかしら?」
 審判のティリアがリネン、ローズそれぞれの後方にいる、フリューネ、広明に目を向けた。
「OKよ」
 フリューネはコントローラーを手に不敵に微笑む。
「彼女がやる気なようだからね。怪我をさせないように、頑張るだけさ」
 広明も楽しげであった。
「では始めます。――レディゴー!」
 審判のティリア・イリアーノの合図とゴングが鳴り、試合が開始される。
「ええっと、まずは挑発技をを……」
 と思った、広明だが彼のコマンド入力より早く、フリューネがリネンを前進させた。
「速攻! 一撃で決める」
 まっすぐ走り込み、まっすぐ棒を突きだす。
「おおっと!」
 広明は慌てて、レバーを横に倒し、ローズを横飛びさせて回避する。
「フリューネの戦い方だとこんな感じになるんだ……っと、とと!」
 リネンは一旦体制を整えようとしたが、着地と同時にジャンプの命令が届く。
「フリューネ待って、私には翼がないー」
 そう言いつつも、タッチ・ザ・スカイの力も借り軽やかに動き、リネンは棒をローズに繰り出していく。
「威力が弱い、受けられます!」
「了解、それじゃ行くぞ」
 ローズに構えをとらせ、広明はパワーアップのコマンドを入力する。
「驚くが良い! 戦闘種族の圧倒的パゥワーを!」
 ローズの身体から、金色のオーラが吹き出した。
「……なにそれ!? ホントに格闘ゲームみたい」
 2度、棒を突きだし、ローズに軽くダメージを与えた後、フリューネが操るリネンは後方へと跳んだ。
「うっ、チャンスなのに……。じ、自分以外の戦い方って難しいのね……」
 普段のリネンなら、もっと間合いを詰めて、荒っぽく剣の猛攻を繰り出すところだ。
 フリューネは、武器が槍ということもあり、適度な間合いをとりつつ、翼をも用いた強力な突き攻撃を得意としているようだ。
「リネン、根性で翼生やしなさい!」
「出来る訳ないでしょ、フリューネー」
「それじゃ、助走つけて行ってみようか!」
 フリューネはリネンを一旦下がらせると、助走をつけてローズへ突撃させる。
「あああああ……っ」
 翼でコントロールできないリネンは、真っ直ぐ向かうより他なく。
「超必殺技、行け!」
「はい、アリヴェデルチ!!」
 広明のコマンド入力を受けたローザの高速の拳ラッシュの中につっこんでいく。
 リネンの棒とローザの拳が衝突する。
「大丈夫です。続けてください、広明さん!」
 ローザのその言葉に従い、広明は彼女の腕の状態を気にしながらも必殺技を続け。
「と、止まらないー。うわっ!」
 フリューネが操るリネンに、拳を叩き込んだのだった。

「そこまで! 勝者、ローズ&広明!」
 ティリアがストップをかけて、ローズの腕を上げた。
 観客たちが歓声を上げて、拍手が飛ぶ。
「ううっ、フリューネ……」
 転んでいたリネンをフリューネが抱え起こす。
「ゴメン、足だけで攻撃避けるのって難しいね」
「うん。いい勉強になったわ。フリューネは空気抵抗の力を利用してるのね」
「そうね。私もリネンに操らてみようかしら」
 今後の互いとの連携で活かせそうだった。

「意外とお転婆なんだな」
 戻ってきたローズの怪我の具合を見ながら、広明が言った。
「楽しくて、つい夢中になってしまいました」
 ローズは爽やかな笑みを浮かべている。
 広明はふっと息をつき、彼女の背に腕を回して頭をそっと撫でた。
「救護室行くぞ。……怪我をさせたことは、謝らなくていいんだな?」
「勿論です。我が儘聞いて下さり、ありがとうございました!」
 ローズと広明は微笑み合い、ローズの治療のために救護室に向かうことにした。

○     ○     ○


「まさか、あなたと対戦することになるとはね……イングリット!」
「舞香さん……それより、この格好は格闘技をする格好ではない気がします」
 隣のリングでは、桜月 舞香(さくらづき・まいか)と、イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)が対峙していた。
「対戦格闘ゲームでは、これが定番なの」
 舞香は白色のチアガールの衣装に、トワリングバトンを持っている。
 イングリットにも沢山客を呼んで願いを叶える為には、衆人環視の視線に耐えるのも試練だと言い、コスプレを勧めた。
 舞香が持ってきた服の中から、イングリットが選んだのは、メイド服姿だった。百合園の過去の制服と同じような服だ。
「用意はいいか〜」
 鼻の下を伸ばした若葉分校生男子が、2人の審判を務めることになった。
「舞香ちゃーん、頑張ろうな〜!」
 舞香を操るのは山葉 聡(やまは・さとし)だ。
 あたしを使って戦ってみたという方はどなたでもどうぞ! という舞香の言葉を聞いて、聡は真っ先に立候補し、企画運営者権限でプレイヤーの座を勝ち得たのだった。
「イングリット、よろしくな」
「はい、頑張りますわ!」
 イングリットを操るのは、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)だ。
 マイトは彼女の戦闘スタイルに興味を持っていた。
「では、試合開始!」
 試合が開始されてから少しの間。
 2人はにらみ合うように互いの様子を見ていた。
 2人がというより、プレイヤーが相手の出方を見ていたためだ。
(彼女が動きやすい指示を出せるだろうか……それは、彼女の手の内をどれだけ把握できているか、ということだが)
「マイトさん、ご指示を!」
「ええっと誰だっけ? 私のプレイヤーも、そろそろ指示出してちょうだい」
 イングリットと舞香が言った途端。
 マイトがイングリットを走らせた。
(距離はこれくらいか。俺ならもっと踏み込むが……)
 マイトはイングリットを操り、舞香に蹴りを繰り出す。
「待ってました! ハイヤァ!」
 聡が声を上げて、舞香の足を高く上げてイングリットの蹴りを防ぐ。
「アンスコ穿いてるのね。でもナイス美脚」
「真面目にやりなさい!」
 イングリットと舞香の足技というか足に見とれている聡を、舞香が怒鳴る。
「真面目にやってるさ。イングリットは組技得意だったよな、よな」
 何かを訴えるような目で、聡がマイトを見る。
 マイトも男なので、聡のたくらみは理解できたが――完全に無視して、イングリットの操作を続ける。
「ちっ」
 舌打ちして、聡は舞香の必殺技を繰り出す。
 応援舞闘術の魅惑の脚技だ。
 舞香の綺麗な蹴りがイングリットに叩き込まれていく。
「はっ!」
 マイトはガードの姿勢から、イングリットに舞香の足を払わせる。
「でも……!」
 よろめきながら、舞香はトワリングバトンを振り下ろす。
 イングリットの腕を上げて、マイトは舞香の攻撃を受けた。
 そして投げに……っと、それは自分の戦闘スタイルだと気付き、慌てて修正しようとするマイトだが、イングリットはその指示を的確に活かして、舞香の足を刈り、倒そうとする。
「させない……っ」
 舞香がイングリットの身体を掴み、2人は一緒に倒れ込んだ。
「絞めに……」
 マイトが指示を出してすぐ、イングリットは反応する。どんな指示がくるか分かっていたかのように。
(こちらの手の内が読まれているような……)
 マイトは照れくさいような、複雑な気持ちで苦笑しながら、イングリットの操作を続ける。
「舞香さん、ギブアップを!」
「ぐぐ……っ、イングリット」
 舞香は聡の指示で足を動かし、イングリットの絞めから逃れようとする。
「いいぞいいぞー」
 聡は興奮して応援?していた。
「ダメ、もう駄目……」
 舞香は床を叩いてギブアップする。
「やりましたわ! 舞香さんに完全勝利ですわー」
「けほっ、けほ……、ち、違うって。これはゲームだし。イングリットも言ってたでしょ、勝敗は操縦者の腕次第だって」
「そうでしたわ。競技者ではなくプレイヤーの勝利ですわね」
「残念だな、残念だ……もう少し長く楽しみたかったのに」
 聡はとても悔しそうだった。
「お疲れ様」
 マイトは苦笑気味な顔のまま、勝負を終えたイングリットを迎えた。
「楽しめましたか?」
「ああ、楽しかったよ」
「わたくしも、凄く楽しかったですわ。マイトさんの指示、分かりやすかったですし」
 その言葉に、マイトはまたちょっと複雑な気持ちになる。
「次の機会ではまたお互い生身で」
「ええ、勝負しましょう!」
 活き活きとしたイングリットの表情と言葉に、マイトは強く頷いた。
「お互い精進しよう」
 そして、ぽん、と彼女の肩を叩き、コントローラを返すと、マイトは競技場を離れたのだった。

「で、あなた、勝負の他に何か狙ってたでしょ?」
 にこにこ微笑みながら、舞香は聡に迫っていた。
「いやいや、俺は真面目にプレイヤーとして勝負をしていただけだ。ただな、ファンサービスをするのなら、アンスコは不要だ、せめてブルマーにしろ」
 真顔でそんなことを言う聡を、ぐわしっと掴んで、微笑んだまま舞香はリング裏手の岩陰に連れて行き。
「ぎょえーーーーーーっ!」
 魅惑の足技と、トワリングバトンによる連続打撃を存分に味あわせてあげたのだった。