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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

リアクション



【モタモタしないで】


 縁が持ち場へ戻った事で、ちょっとした手持ち無沙汰になった真とカガチ、アレクの三人は作業から邪魔にならないスペースに腰を下ろしていた。
「で、カガチは何で、ここで丸まってたんだ」
 先程紺侍と壮太のところへ行く迄、カガチはここで体育座りをしていたのだ。
 アレクの質問にカガチがうっと詰まる声を出したのに、真が「実はね」とそうなる迄の経緯を話し出す――。

 今日、カガチはパートナーの柳尾 みわ(やなお・みわ)と、
 真はパートナーの彼方 蒼(かなた・そう)と人形工房へやってきていた。
 孤児院の子供達へプレゼントを作るというカガチや真と違い、どうやら二人のパートナーにはそれぞれ、プレゼントを贈りたい相手が居るらしい。
 みわは「小さい人形位ならあたしでも作れる……と思うのよ」と、人形制作グループに行き、紺侍にラッピングを手伝われながら一所懸命にプレゼントを作っており、カガチも下手に何か手を出そうとはせずに――そもそも不器用な事もあって――そんな彼女を見守っていた。
 蒼もまた「じぶんだけで完成させたいもん……」と強く希望する為、真は「時間かかってもいいから丁寧に、しっかり作ってあげたらいいよ」等とアドバイスをしつつも、直接手を出すような事はしなかった。指を刺してしまったりとハラハラさせられる場面もあったが、ぐっと堪えた。頼られなくなるというのは少々寂しものがあるが、それが成長なのだろうと一人苦笑していたりもしていた。
 そんな風にして、みわの方は小一時間かけて。蒼は大分時間をかけて、二人の作りたいと思っていたプレゼントは無事に完成したらしい。
「いっつもマフラーとか手袋ばかりだから、冬じゃなくても何時でも身につけてられるものって思ったわけじゃないわよ別に」と反らした時のみわの赤い頬が、
「みーちゃんかわいい、でも……最近はきれぃって思うんだぁ……
 だから綺麗なのをあげたぁい!」と無邪気に言っていた蒼の笑顔が思い出されてカガチと真は弟妹のような彼等の淡い恋と思われる交流を微笑ましく思いながら、二人のプレゼント交換が終わるのを、傍で待っていた。

 が、ここで問題が起きる。
「え……きいてない」
 表情も声も固まったまま、みわは震える視線で蒼を見ていた。
「地球の学校? ……なにそれ!? 聞いて無い!!」
 蒼は来年の春、寮がある地球の工業高校に進学予定だった。その事をプレゼントを渡す際にみわに伝えたところ、この反応である。
(うぅ、みーちゃん怒ってる? 怒ってる……?) 
 今言わなければと勇気を振り絞ったのに、予想外にみわが激昂してしまい、みわからプレゼントを渡された際に横にブンブン揺れていた蒼の尻尾はみるみるうちに元気をなくして垂れ下がってしまう。
「ってあれ? 蒼くんの事俺言ってなかったっけ?」
 引き攣った顔でカガチがそう漏らすのに、真はバッと勢いをつけてそちらへ顔を向ける。真はてっきりカガチが『蒼が自分で伝える迄黙っておいてくれたのだ』と思っていたのだ。
「……えーっと、カガチ、その反応……って!
 みわちゃんに言い忘れだったのかおい!?」
「え、いや……聞いてたけど忘れてたっつーか……」
「忘れてたって――」呆れや驚きから思わず大きくなってしまった真の声を遮ったのは、みわの低く静かな声だった。
「カガチは知ってたの? そう……

 ……あたし帰る」
「えっみーちゃん帰るってじゃあ飛空挺エンジンかけ――」
「一人で帰れるからついてこないで」
「……さい……ですか」
 寂しいという気持ちをまだ理解出来ていない幼いみわの、もやもやをぶつけられる。
 泣くとか喚くとか、そんなものよりも遥かに迫力のある反応にカガチも真も、そして蒼も無言になってしまうと、みわは蒼の胸に向かって出来上がった人形を投げつけその場を去って行った。紺侍に教わりながら考えて、考えて、綺麗に包んだラッピングがクシャリと音をたてて歪み、床に転がった。


「――結局丁度ヴァイシャリーに居たパートナーの一人が拾ってくれたみたいだけど、『なんかあった?』って言われてもな、なんて返せばいいのやら……」
 『ついてこないで』の言葉が大分堪えたらしいカガチが俯いているのに、アレクは真を見る。
「行きたい学校だったんだって。でもみわちゃんと離れたく無いからぎりぎりまで言えなかったんだよ。
 行きたい、で『うん』ってしっかり言える様になった辺り、成長してると思うんだ」
 みわが居なくなった後、何も言えなかった蒼の頭を撫でながら言った言葉殆どそのままを、真は口にした。
「こういう時『兄ぃ』はどうしたらいいんでしょねー。
 なあアレクお前おにいちゃんのプロだろ」
 振られたアレクが口を開いて、即言ったのは「手遅れ」の一言だった。
「…………ですよねー」
「ですよ」
 カガチに言って、アレクはまた真へ向き直り件の人物蒼とは「どれ」と雑に質問した。
 言われて真が蒼の丸まった背中を指差すと、アレクは何も言わずにそこまで大股で近付いて、何の段階も踏まずに蒼の座る椅子の足を引っ掛けた。
 ガターンともの凄い音を立てて椅子と一緒にすっ転んだ蒼が、状況を理解出来ずにさすっていた頭を乱雑に掴んで立たせると、アレクは蒼を文字通り見下ろした。
「何ぼーっとしてやがんだバカ。バアアアアカ!」
「ちょ……アレクさん!」
 真が慌てて走ってくるが、アレクは茫然としたままの蒼に「追いかけろ」と軍隊式の命令をしながら首根っこを掴んで玄関先まで引っ張っていく。
 最終的に「Dash!!(*突撃)」の声と共に蒼の尻を思いきり蹴り上げると、そのまま蒼の反応があるより早く扉を閉めてしまった。
 そうして追いかけてきた真とカガチにくるりと振り返って、アレクはカガチの質問への答えを改めて言った。
「手遅れだから、あとは当人同士で」