天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

リアクション公開中!

一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物— 一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

リアクション



【未来への願い】


 人形作成が行われている席に恋人のアデリーヌと仲良く座ったさゆみは、まずはどんな大きさの人形を作るのかと同じ席のメンバーに声を掛けた。
 工房の主人リンスが用意してくれた型紙の種類は豊富で、完成イラストを眺めればどれもこれも魅力的だ。しかも作り手が初心者とわかっているだけに内容は簡易、大きくも小さくもない作りやすいサイズのものばかり。となれば、一番大きサイズに合わせて作るのが得策かとさゆみは考えを巡らせる。
「大きいの多めに、一番小さいのに合わせたのが数点かなぁ」
 用意する比率としてはそれが妥当か。
 彼女が作ろうとしているのは人形本体ではなく、付属に属する衣装、つまり、服だ。
 女の子なら一度はやりたいだろう、人形遊びの必需品である。
 元々レイヤーで、自前で衣装を作ることも多々あるさゆみは貰ったデザイン用紙の上で鉛筆を走らせる。
 花妖精のドレスをモチーフにしたり、魔法少女や戦隊者のヒーロー衣装、メイド服に、あとはどんなのがいいだろうか。
 愛らしかったり格好良かったり次から次へとアイディアを描き起こすさゆみの横で、こちらも付属品ではあるが服ではなくアクセサリーを担当していたアデリーヌは、活き活きとしている恋人の様子に自分もと奮起した。工房で用意してくれたビーズやボタン等を机に広げ、色や形を組み合わせていく。
 デザインが出来たらパターンを起こして型紙を作る。仮縫いが終わった人形を借りて寸法を測るさゆみの作業は流れるようで無駄が無い。一番楽しくて悩ましい生地と小物選びに色合せと出来上がりのイメージを膨らませつつそれなりの時間をかけ、裁断、そして、大変で時間もかかる手縫いの作業に入った。
 途中ミシンを使ったりもするが、基本は手縫いだった。その方が細やかな作業ができるし、応用が効く。それは、衣装作りに手を抜きたくないさゆみの拘りでもあった。
 アクセサリーを数点完成させたアデリーヌはさゆみが裁断し使わない生地の切れ端を貰うとそれで簡単ではあるが服に合わせたコサージュを作り始める。
 布の端を摘み襞を寄せながら、ふと、アデリーヌは気づく。さゆみの誕生日がクリスマスであった事を。
 こういう作業をしているせいだろうか、今年の誕生日は何かアクセサリーを作ってあげたいと想った。
 想って、何が似合うだろうかと想像し、
 ……――作業の手が止まった。
 さゆみの誕生日が訪れる度に直面する現実。
 千年の時を超えて生きるアデリーヌと、その十分の一も満たず寿命を迎えてしまうさゆみ。
 いつか必ず訪れる、避けられぬ別れの時。
 その残酷な事実を突きつけられて絶望することもあったアデリーヌは一度目を閉じ、開けて、誰かを喜ばせ幸せにしたいという真心の気持ちで満たされている工房内を見回した。
 この光景は得難い幸せの形である。
 この空間の光景の一つに混じる経験はきっと最後までアデリーヌに残るだろう。今日のことも昨日までの事も恋人と共にあったことは全て残るだろう。
 だから未来も含めて、今は二人で出来るだけ長く同じ時を過ごそうと、不意に塞ぎこんでしまう自分を勇気づけた。そしてさゆみもそれを望んでいるはずと想えば、別れが訪れるその最後の最後まで笑顔でありたいと、そういう強さを持ちたいと祈るように願う。


 一応出来上がった作品たちを見下ろしてさゆみは、むーと眉根を寄せた。手抜きが無い分そのクオリティは中々に高いのだが、自分の思い描く理想にはまだ届かないらしい。
「あとは、どうしようかしら。補強もしたいし……」
 可愛い人形には可愛い服を着せてあげたいし、男の子向けの人形にはそれに相応しい格好良さを追求したい。それに受け取った子がこれを見て喜んでくれたらと思う。
 子供が人形で多少激しく遊んでも大丈夫な様にしたいし、喧嘩しないように一点ものは避けたが工夫次第でオリジナルのデザインにアレンジできるようにもしたい。
 そう、人形遊びを通して、将来、人形を作ったり、あるいは衣装作りに興味を持った子が自分の将来の夢を見つけてくれればと、作業を進める内にさゆみはそう思い描くようになっていた。
 そこまで思うのは流石に気が早いかもしれないが、そうなってくれれば嬉しい。
 勿論、単純に楽しんでくれるのが何よりも一番である。