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第7章 あけましておめでとう!

「アレナー!」
 空京神社の境内に、男性の軽快な声が響いた。
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が巫女のバイトをしていると聞いて。
 すっとんできた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)は、境内を探しまくって、授与所でお守りを渡している彼女を発見したのだ。
「あけましておめでとう! 今年もよろしくな!」
 声をかけるとすぐにアレナは康之に笑顔を向けて。
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
 と頭を下げた。
 途端、パシャパシャとシャッター音が響く。
 カメラや携帯電話を持った者が、アレナや巫女の少女達を撮影しているようだ。
「その巫女服、すっげぇよく似合ってるぜ!」
 康之だって、撮って写真を飾っておきたくなるくらい、アレナの巫女装束姿は神秘で綺麗だった。
「……せっかくだから拝んでおこう。なんとなくご利益がありそうだ」
 手を合わせて礼をすると、アレナが、ふふっと声をあげて笑う。
「私は何の力も持っていないので、こちらの神社の神様に祈願すると良いですよー」
「いやいや、アレナは力もってるぜ。嬉しい気持ちになったしな! アレナ今日は何時まで働くんだ? 休憩時間は?」
「今日は日が暮れるまでここでお仕事です。休憩はもう少ししたら入ります」
「そうか、それじゃ休憩時間に一緒にお参りしようぜ」
「はい」
 そう約束をすると、邪魔をしないようにと康之は一旦アレナの側から離れた。
「っと、そういえば優子さんも来てるって話だったよな……掃除してるとか」
 竹箒を持って掃き掃除をしている巫女は――1人しかいなかった。
 地面を見て真剣に掃除をしているが、時々鋭い目を参拝客に向けて、事件が起こらないかチェックをしているようだった。
 その身長の高い巫女――神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に康之は駆け寄った。
「あけましておめでとうございます!」
「大谷地か。おめでとう」
 手を止めて優子が軽く笑みを見せた。
「授与所でアレナと会ったんだけど、すっげぇ似合ってた。優子さんも、巫女服に合ってますよ!」
「そうか、それは良かった。
 確かアレナ、もうすぐ休憩時間のはずだから、キミが連れ出してあげてくれるか? あの格好のままで休憩に行こうとすると、カメラを持った参拝客に捕まってしまうようでな……」
 色々質問をされたり、写真を撮られたり、握手を求められたり、拝まれたりして、休憩に出れなくなってしまうそうだ。
「わかりました。休憩室まで護衛させていただきます!」
 元気に康之はそう言うと、アレナの側で彼女を待つことにした。

 そして休憩時間。
 アレナは普段着に着替えて、康之と一緒に境内を回ることにした。
「それにしても、髪伸ばしてるのなんでだろうって思ってたけど、この時のためだったのかぁ」
「はい。ゼスタさんに切るなって言われてたんです」
「ゼスタも先を見据えているなぁ」
 普段着に着替えてはいたが、アレナは髪の毛を一本に縛っている。
「ところでその髪ってずっと伸ばすのか? 切るんだったらなんかもったいないな」
「勿体ない、ですか?」
「うん。前の髪型のアレナも可愛かったけど、今の髪型もアレナに合ってていいなぁって思ってたんだ」
「そうですか? それならもう少し長いままでいます……。あったかい、ですし」
 そう言って、アレナは嬉しそうな笑みを見せた。
「そっか。うん、冬の間は長い方が温かそうだもんな!」
 うんうんと康之は頷く。
「それじゃ、お参りに行こう!」
「はい!」
 十数分並んで拝殿の前にたどり着いた康之は、パートナーの某から聞いた作法の通り、お辞儀をして、賽銭を入れて鈴を鳴らし、二礼二拍一礼して、願い事を唱える。
(今年もアレナが笑顔でいられるよう全力を出せますように)
 神様であっても、アレナを笑顔にしてほしいと頼みたくはなかった。
(たとえ神様だろうと、アレナを笑顔にする役目は譲れえな!)
 隣でアレナも目を閉じて、何かを祈願している。
 目を開けたアレナと笑い合って、授与所へと向かう。
「おみくじを引くぞ! 狙うは大吉一択!」
「頑張ってください!」
「頑張るけどアレナ、ちょっと手握ってくれるか!」
「え?」
「アレナの巫女さん補正で運気を呼び込むぜ!」
「……はいっ」
 アレナは両手で、康之の右手を包み込んで、そっと目を閉じた。
「康之さんに沢山の幸せが届きますように。毎日笑顔でいられますように」
「ありがとうアレナ!」
 目を開けて微笑を向けてきたアレナに、感謝をしてから。
 康之は念を籠めながらおみくじを引いた。
 そして……。
「大吉……じゃねぇ!?」
「大吉、じゃないですね……大々吉?」
「うおー、大吉の上か、これは?」
 全ての項目に、期待のもてる言葉が沢山書かれている。
「アレナの巫女さん補正、さすがだぜ!」
「今年最初の幸せ、ですね」
「そうだな。次は絵馬、書こうぜ!」
「はい」

 それぞれ絵馬を貰って、マジックで記していく。
「俺の書くことはもう決まってるぜ!」
 康之はさらさらっと文字を書いて、絵馬をかけた。
 書かれた言葉を見て、アレナが嬉しそうな笑みを康之に向けた。
 それから、アレナも康之の隣に自分の絵馬をかけた。
 書かれていた言葉は、彼の手を握りしめて言っていた言葉と、一緒だった。
「オレに合わせてくれなくても大丈夫だぞ? 優子さんのこととか、願いたいだろ?」
「別の神様にお願いします。康之さんのことも、もっといっぱい。初詣は沢山の神社やお寺を回ってもいいそうなんですよ!」
「そっか、ありがとアレナ」
「ありがとうございます、康之さん」
 礼を言い合って、微笑み合って。
 一緒に笑顔で過ごせる時間を、大切に楽しんでいく。