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過去から未来に繋ぐために

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14章 ガーディアンアタック


 ブラックナイトと鍔迫り合いを繰り広げながら、リネンが皆に告げた。
「残る者はガーディアンヴァルキリーに! 地上よりは安全なはずよ!」
 出撃したイコン達――【改造サイクロン】、【クェイル】、【ロッツ・ランデスバラット】、【マルコキアス?】は機能停止に陥っている。
 【魂剛】は時間乱動現象の影響をまともに受けたせいで内部機器が滅茶苦茶な状態になっており、下手をすると暴走・爆発する危険性があった。
 【ストーク強行偵察型】は戦略・戦術ミサイルを発射した反動で部分的に破損しており、満足に動けない状況だ。
 【SSサイズ猫耳イコン】もかなり消耗しており、戦闘は不可能。
 【コスモス】は機体こそ無事だが、パイロットがダウンしており、出撃不可能。
 これらの機体は空賊団やホワイトクィーンらの手によって回収に成功したが、損傷が激しく、以降の戦闘には使用できなかった。
『こちらホワイトクィーン。全ての契約者達を収容した』
 ホワイトクィーンが契約者達を掌に乗せ、ガーディアンヴァルキリーに着艦した。
 契約者達の収容は完了した。残るは……
「レイ、ノイエ13……そして、アンシャールとザーヴィスチね……!」
 デファイアントを駆って空を飛び回るヘリワードがアロー・オブ・ザ・ウェイクから矢を放ち、ブラックナイトの接近を阻害する。
 戦場に出撃したイコンの内3機――レイはほぼ無傷、ノイエ13とホワイトクィーンは多少消耗している。艦内で整備を終えたアンシャールとザーヴィスチはカタパルトに移動し、出撃の時を待っている。
 【戦況把握】で状況を把握・整理したミュートが、通信越しに告げた。
「ガーディアンヴァルキリーでサイクラノーシュの内部に突っ込んで、道中はレイとノイエ13が切り開いてぇ……後はアンシャールとザーヴィスチに任せましょうかぁ」
 時間乱動現象を引き起こしているハイブリッドジェネレーターの破壊には成功している。やるなら今だ。
 ペガサス“ネーベルグランツ”に乗るリネンがガーディアンヴァルキリーの艦橋に近づき、叫んだ。
「――ミュート! 空間歪曲砲を使って!」
 リネンが語る空間歪曲砲とは、【スーパー・オリュンポスキャノン】のことだ。鹵獲品を急遽ガーディアンヴァルキリーに搭載した物で、現在は右舷の三段飛行甲板の最上段に取り付けてある。
 鹵獲した物なので詳細は不明だが、スーパー・オリュンポスキャノンは空間歪曲で攻撃する物らしい。あくまで可能性に過ぎないが、もしかしたら敵の装甲を打ち破る切り札になるかもしれない。
「歪曲砲……使うんですかぁ。いいですねぇ」
 死と隣り合わせの緊迫感に背筋をゾクゾクとさせながら、ミュートはスーパー・オリュンポスキャノン専用のトリガーを取り出した。
 詳細不明のスーパー・オリュンポスキャノンを使うために、わざわざ専用の機構を作ったのだ。これで全く効果が無いのだったら、スーパー・オリュンポスキャノンを作った人物を恨むしかない。
「総員対ショック防御。中まで一気に突っ込みますよぉ!」
 艦内にいる空賊団員と契約者達に告げ、ミュートはトリガーのスイッチに指を置く。
 ……先程のブラックホールキャノンの影響で、右舷の被害は甚大だ。反動を考慮すると、1発しか撃てないだろう。
 下手をすると右舷が崩壊する可能性がある。慎重に艦の体勢を整え、リネンらを含む全員が着艦した事を確認すると……ミュートはスーパー・オリュンポスキャノンを発射した。
「空間歪曲砲……発射!」
 右舷に搭載されたスーパー・オリュンポスキャノンが火を吹いた。反動によって艦が後方に押し出され、艦内を激しく揺さぶった。
 サイクラノーシュの胴体に向け殺到する強大なエネルギーに、サイクラノーシュは足掻きを見せた。
『……まだだ! まだ、我は倒れてはおらぬ……!』
 サイクラノーシュは、全身を構成する機甲虫の心臓【機甲石】からエネルギーを引き出した。
 確かにハイブリッドジェネレーターは破壊された。だが、機甲石そのものが無くなった訳ではない――。
 サイクラノーシュはサートゥルヌス重力源生命体をバリア状に展開し、スーパー・オリュンポスキャノンの砲撃を防いだ。莫大なエネルギーを伴う一撃と漆黒の障壁がぶつかり合い、衝撃と反動に耐え切れずにスーパー・オリュンポスキャノンが吹っ飛んだ。
 それでいい。機甲石には重大な欠陥がある。一度使用すれば、膨大なエネルギーを引き出す代わりに、貯蔵していたエネルギーまでも消費してしまう。
『ぐ……うっ……!』
 サイクラノーシュの装甲から紫電が迸り、四肢の末端が加速度的に崩壊していった。
 一時的にシステムダウンしたのだ。それでも最低限の――自重を支える分のエネルギーは残せるよう、3割程度の【機甲石】は使用しなかったらしい。
 ガーディアンヴァルキリーは【ブーストスラスターユニット】の出力を全開にした。前方のサイクラノーシュ目がけ、突撃を敢行する。
 ミュートの眼に映る光景が瞬く間に後方に流れ、気流が渦を巻いて引き裂かれていく。王を守るブラックナイトの群れを撥ね飛ばし、ガーディアンヴァルキリーはサイクラノーシュの胴体に艦首を突き刺した。
「――発進!」
 装甲を突き破りサイクラノーシュの内部に突入したガーディアンヴァルキリーが、カタパルトからイコンを射出する。
 射出された機体は5体。レイ、ノイエ13、アンシャール、ザーヴィスチ、ホワイトクィーンだ。
 生物の如くうねり狂う内部を5体のイコンが飛翔する一方、外界では王の崩御に焦るかのようにブラックナイトがガーディアンヴァルキリーに殺到した。
 ガーディアンヴァルキリーに襲いかかるブラックナイトを迎撃しながら、リネンが呟く。
「頼んだわよ、皆……!」