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神楽崎春のパン…まつり 2024

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神楽崎春のパン…まつり 2024
神楽崎春のパン…まつり 2024 神楽崎春のパン…まつり 2024

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第2章 パンづくしパーティ

「パンつくってる総長に代わり、若葉分校のアイドルの俺が開会の挨拶をさせてもらうぜ!」
 カラオケマイクを手に、ブラヌ・ラスダーがホール奥に置いてある台――簡易ステージの上に登った。
「誰がアイドルだー!」
「女を出せ、女を〜!」
 途端、ブラヌに丸めた紙が投げつけられる。
「そう言うわけで、今日は飲み食い歌い放題だ! 但し歌い放題は番長を除く!
 楽しんでくれよ、ヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハ〜!」
 パンパンとクラッカーが鳴り、紙テープ、紙ふぶきが会場を舞った。
 ヒャッハーの掛け声とともに、集まった人々はグラスを重ねて乾杯をして、料理を食べ始めた。
 居酒屋よりも賑やかで、マナーも礼儀も求められず、パラ実生達は競い合い奪い合うように食べていく。
「パラ実の方々には、トマトソースが人気みたいだね」
 パラ実生達の姿を見ながら、遠野 歌菜(とおの・かな)はくすくす笑みを漏らした。
「皆、吸血鬼みたいだ」
 パートナーで伴侶の月崎 羽純(つきざき・はすみ)もくすっと笑みを浮かべた。
 歌菜は手作りのジャムやディップを提供し、焼きたてのパンが置かれた台に一緒に並べてもらっていた。
 ジャムは苺に林檎、蜜柑、檸檬、ブルーベリーの5種類。
 ディップはクリームチーズ、アボカド、味噌、トマトソース、ヨーグルトの5種類だった。
 トマトソースを沢山つけたパンや野菜を食べたパラ実生が口元を真っ赤に染めている姿が微笑ましい。
「っと、私達も食べよ、羽純くん。なくならないうちに!」
「ああ」
「どうぞ」
 取りにいこうとした歌菜と羽純だが、給仕をしていた女性が、2人がいたテーブルに焼きたてのパン…を置いてくれた。
「ありがとう……あ、あれ? 神楽崎さん?」
 若草色のシャツに、黒のスラックス。腰にギャルソンエプロンを巻いたその女性は、若葉分校総長の神楽崎優子だった。
「こんにちは。ジャムやディップの提供、ありがとう。大好評のようだ」
 パンを頬張ってる分校生に目を向けて、優子もくすっと笑みを見せた。
「良かったです。羽純くんにも手伝ってもらったんです」
 歌菜も自分のテーブルに置いてある苺ジャムをパンにつけて。
 羽純はブルーベリージャムをパンにつけて、同時に口に運んだ。
「……んん? わあ……凄く食感いいですね! コツとかあるんでしょうか?」
「ありがとう。でも実は、運かな」
 優子は答えながら、歌菜と羽純に紅茶を淹れていく。
「配合やコネはマニュアル通り行えてると思うんだけど、発酵の見極めが難しくてね。
 このパンは今日一番の自信作なんだ」
 美味しいパンを作り続けるためには、数をこなすしかないようだと優子は歌菜に語っていく。
「そうですね。私もこういうパンが焼けるよう、数をこなしてみます!」
 歌菜は優子からレシピを聞いて、メモを取っておくのだった。
「そうそう、分校の増築おめでとうございます♪ 神楽崎さんも一緒に食べませんか?」
 給仕なら代わりますよと、歌菜は立ち上がろうとするが、優子に手で制される。
「ありがとう。この自信作を配り終えたら、私もテーブルにつかせてもらうよ」
「はい♪」
 隣のテーブルに行く優子を見送ってから、歌菜はもう一切れパンを手に取って、今度はクリームチーズをつけてみた。
「それから若葉分校生さんに人気なトマトソースと、アボカドも乗せちゃおっかな」
 豪華なパンに仕上げて、口へと運び「美味しい」と、満面の笑みを浮かべる。
「他のパンも、貰ってきたぞ」
 歌菜が優子と話をしている間に、羽純はパンが並べられている台に行き、シュガーロールや、メロンパン、各種あんぱんなどの、甘いパンを貰ってきた。
「羽純くん、ありがとう」
 歌菜の幸せそうな笑みを見て、羽純の顔にも微笑が浮かんでいく。
「ホラ、パン屑、付いてるぞ」
「え?」
「仕方ないヤツだ」
 歌菜の唇の傍についてたパン屑を、羽純は自らの指で払いのけてあげた。
「えへへ、ありがと」
「いやいやそういう時は! 顔を近づけて、舌でとってくれよ? ついでにちゅーしてもいいんだぜ! ディップキス、いやでぃ〜ぷキスなんてどうだ」
「え、ええ!?」
 突然、ディップで口を赤く染めたパラ実若葉分校生が歌菜に近づいてきた。
 勿論羽純がすぐに、歌菜を抱き寄せて庇う。
「てのは、冗談として〜、これどう思う!」
 ばんばーんと、若葉分校生が広げたのは……各種パンツだった。
「あ、若葉分校のユニフォームですね。確かパンツにするとか……でもこれ、本人以外、身につけてるかどうかって分からない……ですよね?」
「制服着てちゃいけないような場所も、出来ねぇようなことも、これなら着たまま出来るじゃん?」
「なるほど、敢えて見ない部分でってことなんですか! 是非見せてください」
 感心しつつ、純粋に瞳を輝かせて歌菜はパンツを受け取り、羽純と一緒に眺めていく。
「羽純くんは、どれがいい思う?」
「そうだな」
 羽純も真面目にパンツを見ていく……。
「俺は……敢えて選ぶなら、歌菜にはこっちの……小さな若葉が散りばめられたシンプルな方が似合うと……」
 と、言いかけた羽純だが。
「ええっと、私は、この男女お揃いでいけるボクサータイプ。
 左サイドに若葉が可愛くプリントされているのが素敵だと思うの♪」
 という歌菜の言葉を聞き、歌菜に似合うものを聞いていたわけじゃないと気づく。
 軽く咳払いをして真顔で頷いた。
「あ、ああ。そうだな俺もそう思う」
「ヒャッハー、それじゃこれ置いていくぜ! 後で試着してもらうぜ、女の子の方だけ」
「あ……っ」
 2人が選んだパンツを置いて、若葉分校生達は去っていった。
「私だけ試着するのなら、小さな若葉散りばめられた方にすればよかったかな?」
 歌菜が悪戯気な表情で羽純を見ると。
「……そうかもな」
 照れくささを押し殺し、素っ気ない顔で羽純は甘いパンを食べるのだった。

「はい、翔くんあ〜ん」
「理知……それ照れる?」
「ん? でもこれ食べたいんだよね?」
 辻永 理知(つじなが・りち)は大麦若葉パンを手に不思議そうな顔をする。
 理知が美味しいといっていたこのパンを、自分も食べたいと言ったのは辻永 翔(つじなが・しょう)なのに。
「いや、知り合いもいるから、さ」
「知り合いがいたら何か困るの? ほら、ふわふわでいい香りがしてほんわり温かくて食べごろだよ!」
「う、うん……」
「はい、美味しいでしょ?」
 控え目に開けた翔の口に、理知はパンを入れてあげてにこっと微笑む。
 もぐもぐ味わいながら、翔は首を縦に振った。
「そういえば去年はパン競争してたよね。
 パンが欲しいって言われたっけ……。
 翔くんのだからあげられなかったけど、いっぱい作って行けばよかったね」
「……いや……」
「そしたらあげられたのに」
 純粋な目で言う理知をちらりと見て、翔は……くっと軽く吹き出した。
「奴らが欲しがってる理知のパン…は、いっぱいあっても全部俺がもらうんだよ」
「え? なんで……翔くんそんないパン好きだったっけ?」
「好きなわけじゃないんだ。ただ、理知のパン…は渡せないだけで、ああもうやめておこおう、この話は。
 さっきのパン美味かったから、貰ってくるな」
 翔はくくくっと笑い出して、パンを貰いに行ってしまった。
「翔くん……私のパン…実は凄く好きなのかな。帰ったら、ほかほかなパン…用意しよっかな」
 理知には意味がやっぱりよく分かってなかった。
「おじょーさん、若葉分校のユニフォーム試着してみないか〜」
 翔が外している隙に、可愛らしいドレス姿の理知は、若葉分校生に囲まれてしまった。
 若葉分校生が見せてきたユニフォームは……若葉の絵がプリントされた下着だった。
「ユニフォームが若葉パンツって珍しいね。あっ、これ可愛い」
 小さな若葉がプリントされた、若葉色の女性もののショーツを理知は手に取った。
「さあさあ、試着室はあっちだぜ」
「脱いだ服を置いておくカゴも完備だぜ!」
「そうなんだ。それじゃちょっと着てみようかな」
 理知は軽い気持ちで若葉分校生達についていった。

 更衣室はまだ攻略できていないため使えないので、若葉分校生達はパソコンが置かれている一画を試着室として利用していた。
「可愛いプリント……でもこれって」
 若葉分校の試作ユニフォームが試着できると聞いて、桜月 舞香(さくらづき・まいか)は試着室に訪れていた。
 しかし部屋の中には、若葉のイラストや若葉マークの下着類しかなかった。
 1枚1枚広げて確かめてみるが、全部下着だ。
「好きなの選んで、着替えてくれよ〜」
 カーテンの外から、若葉分校生が言った。
「え? パンツまで着替えるの?
 下着から一式なんて、ずいぶん本格的ね……」
 そう思いながら、舞香は若葉模様のパンティを選んで試着する。
「この紐で結ぶタイプのショーツ、動くと解けそう……?」
 舞香は軽く踊って確かめてみる。
「紐のにしたのか」
「あの際どいヤツか」
 外からのぼそぼそ声が舞香の耳に届く。
「入ってもいいですか?」
「あ、はいどうぞ」
 訪れた理知を、舞香はカーテンを開けて中にいれてあげた。
「これ若葉分校の新しいユニフォームなんだって。貰って帰ってもいいみたい」
 楽しそうに言い、理知はスカートを脱がずにパンツを履き替えていく。
「……これがユニフォーム……もしかして、パンツ、だけ?」
「ん? そうみたいだよ」
「ほほう……」
 舞香は理知が着替え終えた後、微笑みながらカーテンをゆっくりと開ける。
「あれ? この服がユニフォーム?」
「ドレスだよね」
 試着室から出てきた舞香を見て、不思議そうな顔をしたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)高原 瀬蓮(たかはら・せれん)だった。
「ううん、これは今日の為に用意したパーティドレス」
 舞香はにこにこ微笑んでいる。
「着替えなかったの? 瀬蓮と美羽ちゃんもこれから試着するんだ、一緒に着替えよ〜」
「着替えたわよ」
「それじゃ早速見せてくれ!」
「紹介用の写真撮らせてもらうぜ!」
 若葉分校生達が舞香の下半身めがけて飛び込んでくる。
「いいわよ。お望み通り、見せてあげるわ」
 舞香の下に到着するより早く。舞香の姿は若葉分校生の視界から消えていた。
「見れるもんなら見てみなさい!」
 疾風迅雷の身のこなし、必殺技の魅惑の脚技で若葉分校生を蹴り飛ばす。
「へぇ……ユニフォーム、若葉パンツなんだ」
 ぶっ飛んだ先にいた美羽もまたとっても爽やかな笑みを浮かべて。
「何考えてんのー!」
 分校生達の顔面に跳び蹴り!
 そうして分校生は再び舞香のところまでぶっとんで倒れた。
「特別大サービスよ。しっかり目に焼き付けなさい。
 できるものなら、ね☆」
「ふぎゃっ」
「ふぐっ」
「ふぎょ……っ」
 トドメに、舞香が若葉パンツでピップアタック!
「くぅぅ……見えなかった」
「盗れなかったぜ」
「けど……なんか……満足」
 はいつくばり、呻きながらも男達はなんだか幸せそうな笑みを浮かべていた。
「もぉ……やっぱり、あなた達分校生の校章は誰の目にもすぐ留まるところに表示しておくべきね」
 言いつつ、舞香は試作パンツを掴んで、倒れている分校生の頭にかぶせた。
「というか、このタグ、見てよ」
 舞香は若葉パンツのタグを美羽に見せた。
 そこには『白百合商会』の名が記されていた。
「白百合商会!」
「そう、またしても白百合商会……。神聖なる白百合の名を穢すあの下劣な組織もそろそろ潰しておくべきよね」
 舞香の言葉に美羽も強く頷く。
「優子お姉さま……それとも管轄は国軍かしら? 近々許可を貰って壊滅させるわ」
 舞香はため息をつきながら、心に決めた。
「彼等にはお似合いだけど、それ被って出歩きたくはないでしょ? それならTシャツとかどうかな。実は優子には既に話してあって、サンプルも持ってきてるんだ」
 美羽は振り向いて、瀬蓮と一緒にいるアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)を見た。
「アイリスはどう思う?」
 アイリスはパラ実の校長である。若葉分校と関係はないとはいえ、ここに通っているパラ実生の何割かはパラ実の正式な生徒だ。
「いいんじゃないか。隠したい時は、制服の学ラン着ればいいし」
「うん、瀬蓮もパンツよりTシャツの方がいいと思う!」
「瀬蓮ちゃん、薄いTシャツなら着てくれるか?」
「まっぱで頼む。下着なしで。ごくり」
「……調子に乗るな。瀬蓮に変なもの着せたら、ただじゃおかないぞ」
 瀬蓮の足に縋り付いてくる分校生をアイリスがかるく蹴る。
「へーい」
「ほーい」
「……よし、校長もそう言ってるし、やっぱり下着必要だよな。中に着るインナーも同時発注だ!」
「おー!」
 若葉分校生は肩を貸しあって起き上がると、試着室の先にある、パソコン部屋へと駆けていった。
「結局下着つくるんだね」
「まあ、下着だけじゃないのなら、大目に見てもいいんじゃない」
 ため息をつく美羽に、カメラを手にしたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が微笑みかけた。

「理知、大丈夫か?」
 騒ぎに気付き、翔が試着室の側にいた理知のもとに駆け付けた。
「ん? ユニフォーム試着させてもらっただけで、なんともないよ。
 でね、若葉分校のユニフォーム女性用、結構可愛いんだよー。まだ見本みたいだけど」
 そう言って、理知は両手でドレスのスカートの裾をめくった。
「翔くん、似合う?」
「わっ!」
 翔は驚いて、理知を抱きしめるように、スカートの裾から手を離させる。
「公衆の面前で何やってるんだ」
「皆パン…に夢中でこっち見てないよ?」
「いや、見てるやつは見てるって。……似合うかどうかは、家で確認するから。もうそんなことするなよ」
 心配げな目で翔はそう言い、理知の手を引いてテーブルへと戻っていく。