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2024種もみ&若葉合同夏祭り開催!

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きらめく水辺で


 海の家も兼ねたコンビニ『幸愛苦流P』の更衣室前で、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はモモンガと暴れていた。
「ペロ子、何で嫌がるわけ? 好みの水着がなかったから?」
 そんなんじゃねー、と言いたいのか、モモンガいやブリュンヒルデ・アイブリンガー(ぶりゅんひるで・あいぶりんがー)はギリギリと怒りの鳴き声をあげて唯斗の腕の中から逃れようとしていた。
「どんな好みにも対応できるように選んできたつもりだったけど……」
 困ったように言いながら、何となく唯斗の声は楽しんでいるふうだった。
 エリザベートに魔法でモモンガにされてしまったブリュンヒルデだが、一つだけ、短時間だが人間に戻る方法がある。
 キスすることだ。
 しかし、ブリュンヒルデにとってそれは非常に恥ずかしいことだった。
 唯斗はそれをちゃんとわかってからかっているのだ。
「……まったく、何を今さら恥ずかしがっているんだか。もう何度もして……ぶっ」
 ペシンッ、とモモンガの長い尻尾が唯斗の口元を叩く。
「ペロ子……さぁ〜着替えましょうねぇ〜!」
 凄みをきかせると、唯斗はペロ子を抱えたまま更衣室に入った。

 ブリュンヒルデ好みの派手なデザインの水着の上にパーカーを羽織り、彼女は更衣室を出た。
 唯斗はいない。
 あの後、さんざん説得されてキスで人間に戻ると、唯斗は水着一式を置いて自分も着替えに出て行った。
 こうなったら気持ちを切り替えて思い切り楽しもうと、支度を終えて出たのだが唯斗の姿がどこにも見当たらない。
「なによ、人に着替えまでさせておいて……呪いますわよ」
「誰を呪うつもりなのか知らないけど、俺ならここにいますケド」
 不意にかけられた声に、ブリュンヒルデはその主を見るが。
「誰ですの?」
「そんな不審者を見るような目、ヒドイ!」
「……まさか、唯斗!? どうしてそんな変装を?」
「覆面外して変装って、そんなわけないでしょう」
「へぇ、あなたってそういう素顔だったのですね。ふふふっ、貴重なものを見てしまいましたわね」
「そんなたいそうなものでもないけど。ところでペロ子は泳げんの?」
「当然ですわ。何なら教えてあげますわよ」
「俺も泳げますから。ま、それなら安心して遊べるな」
 暑い盛りの水遊びに、ブリュンヒルデは率先して泉まで唯斗を引っ張った。
 気持ちの良い冷たさの泉に心身が爽快になっていく。
「唯斗、向こう岸まで競争ですわ!」
「真ん中あたりは深いそうだから、やめたほうがいいな。監督員も目を光らせてるしね」
 唯斗が見たほうには、笛を首にぶら下げた監督員の種もみ生が、しまりのない顔で水着の女の子達を眺めていた。
「……監督員?」
「監督員。競争はまた今度にして、今日は安全に遊びましょ」
 と、唯斗が不意打ちでブリュンヒルデに水飛沫を飛ばす。
「水も滴るイイ女。眼福です」
「やましたわね!」
 唯斗の倍はありそうな水飛沫が彼に降りかかる。
「ケホッ。ちょっと、すごい量だったんだけど!?」
「油断大敵ですわ」
「そう……じゃあこっちも!」
 水のかけあいで二人はあっという間にずぶ濡れになったが、そんなことは気にならない。
 子供のようにはしゃぎ、笑い合った。

 水の掛け合いはあちこちで行われていたが、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)の夫妻も思い切り楽しんでいた。
「どう? リンネちゃんのほうが博季くんにいっぱい水かけたよね?」
「そうかなぁ。僕のほうが多かったと思いますよ」
 水の掛け合いになったのは、どっちがどれだけ好きかを表現したのがきっかけだった。
「むぅ。そういうこと言うと……」
 突然、リンネは水に潜った。
 かと思うと、博季は足を掴まれてひっくり返る。
 犯人などわかりきっている。
「がぼぼがぼっ(危ないでしょうっ)」
 メッと叱る博季に、リンネは大きなあかんべーを返事とした。
 そこからは水中で追いかけっこだ。
 リンネはけっこう泳ぎが上手くて、博季の指の先をするりとかわしていく。
 息が続かなくなった博季が水から顔を出すと、そこは岩場に面した場所だった。
 周りの木々の色を移した岩場は、ひんやりとして気持ちが良い。
「ここ、いいね。すごく綺麗な感じがする」
 博季の隣に顔を出したリンネが、気持ち良さそうに目を閉じた。
「ここなら質の良い魔法が……」
 と言いかけたリンネの唇に、博季が軽くキスをする。
 目をまん丸にしたリンネはパチパチと瞬きを繰り返したかと思うと、パッと頬を赤くした。
「ひ、博季くんっ、こんな、誰が見てるかわからないところで……っ」
「誰もいませんよ。でも、本当に誰にも見られない場所でとなると……水の中?」
「そ、そういう意味じゃないよ!?」
 恥ずかしさのあまり、リンネは博季をドーンと突き飛ばした。
 しかし。肩まで水に浸かっていたため、自分から抱き着いたような形になってしまった。
「リンネさん、言ってることとやってることが……ふふっ」
「こ、これは……! えっと……お、おなかすいたらゴハンにしよっか。お弁当とスイカ、楽しみだな〜!」
 リンネは無理矢理話題を変えると、二人の荷物が置いてある岸へ泳いで行った。
 目印のパラソルの下、シートの上には博季が作ったサンドイッチがおいしそうにバスケットの中に収まっていた。
 定番のBLTサンド、たまごサンド、ホイップクリームとフルーツのサンドなど。
 飲み物はあたたかいダージリンで。
「博季くんの料理はおいしいね! 幸せな気持ちになるよ」
「リンネさんがそう言ってくれるので、作りがいがあります」
「おいしい料理って一種の魔法だよね。よ〜し、リンネちゃんはこのゴハンに報いるためにもっと勉強して、すごい魔法を作るよ!」
「すごい魔法ですか。僕も負けてられませんね。……あ、魔法で思い出した。リンネさん、マジックアワーって知ってます?」
「どこかで聞いたような……」
 リンネは思い出そうと視線を巡らせるが、食べる手は止めていない。
 そんな彼女に苦笑しながら、博季は説明した。
「じょじょに日が沈んで、影が消えた頃の時間帯のことです。昼でも夜でもない、薄暗いけど、綺麗な空と綺麗な景色。いろんなものが普段とは違って見える特別な時間です」
「マジックアワーか……その時間は、ゆっくり景色を見ようね」
「ええ。きっと思い出に残りますよ」
 楽しみ、と笑うリンネに、博季もやさしく微笑み返した。

 深さがある泉もエアマットを使えばどうということはない。
 海ではないため沖に流されてしまう心配もいらなかった。
 ぷかりぷかりと眠くなるようなゆったりした揺れと、恋人のぬくもりに芦原 郁乃(あはら・いくの)のまぶたは今にも下がりそうだ。
「気持ちいいですね」
 水面を撫でた涼気を持ったそよ風に、秋月 桃花(あきづき・とうか)はうっとりと目を細くした。
「そうだね。特に桃花の……ううん、何でもない」
 邪な言葉がこぼれそうになり、郁乃は慌てて口を閉ざす。
「ふふっ。おかしな郁乃様」
「お、おかしくなんかないよ。ただ……この陽気なら、転覆して泉に落ちてもきっと気持ちいいかなって思っただけ」
「転覆って……周りの皆様に笑いを提供したいのですか? わざわざそんなことしなくても」
「でもさ〜、せっかく来たんだから、こう盛り上がるようなイベントを……ね?」
「……メッですよ」
「ケチぃ〜」
 唇を尖らせつつも、郁乃は本気で文句を言っているわけではないことを、桃花はちゃんとわかっている。
 同時に、こんな会話をしたことで嫌な予感を覚えていた。
 郁乃は体半分もたれていた身をもぞもぞと動かし、桃花の胸の中に全身が収まる位置に移動しようとした。
 ふと、桃花はちょっとした悪戯心を起こし、ほんの少しよけて郁乃をびっくりさせようと思った。
 しかし、よけた位置が悪かったのか、エアマットがぐらりと傾ぐ。
「お?」
「あら……?」
 二人がまずいと思った時にはもう遅く、エアマットはくるんと回転し二人は泉の中に滑り落ちてしまった。
 泉の監督係が溺れたか、と救助に向かおうとしたがすぐに水面から二人の腕が覗き、エアマットを掴んだのでホッと胸をなで下ろして様子を見ることにした。
 ほぼ同時にエアマットを掴んだ郁乃と桃花だが、エアマットの上によじ登ったのは郁乃が先だった。
「あははっ、びっくりしたね。わざと落ちたわけじゃないんだけど。上がれる?」
「はい……」
 差し出された郁乃の手を取った直後、桃花はハッと息を飲んだ。
「ちょっと待ってください!」
「何で? いつまでも水の中にいると冷えきっちゃうよ」
「そ、それはそうですけど、お願いですから今は……!」
「ダメだよ、風邪なんて引かせられない──あ!」
 無理矢理引き上げた桃花の上半身がエアマットに乗り……郁乃はそこで目に入ったものに驚きの声をあげた。
(ビキニのトップが外れてるじゃないか!)
 桃花は再び水中に戻ろうとするがそれは良くないので、郁乃は自分の体を盾にして周りの目から桃花を隠し、エアマットの上に引き上げた。
「その、えっと……探してくるから待っててね!」
 恋人のあられもない姿に目のやり場に困った郁乃は、恥ずかしさをごまかすように泉の中に飛び込んだ。
 ビキニのトップを探している間中、郁乃の頭の中に両腕で胸を隠し恨めしげな顔も桃花が浮かぶ。
「待ってって……言ったじゃないですかぁ……」
 羞恥に頬を染め、潤んだ目で上目遣いに睨まれても、郁乃の煩悩を刺激するだけだった。
 そして、無事にビキニのトップを見つけて戻った郁乃に、桃花は『罰』を言い渡した。
「本当に悪いと思っているなら、一つだけ言うことを聞いてください」
「……それでいいなら」
 桃花は郁乃の耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。
 郁乃は苦笑する。
「それ、罰でも何でもないよね」
 ──今日は可愛がってくださいね。
 郁乃にとっては言われるまでもないことだ。
 ふと、郁乃は真面目な顔つきで桃花を見つめた。
「桃花。これだけは言わせて」
「何ですか?」
「ごちそうさまでした」
 桃花はきょとんとすると、次には照れたように赤くなって微笑んだ。
「どうもお粗末さまでした」
 郁乃も微笑み、桃花の頭を撫でた。

 その監督係の目は、幸愛苦流Pの更衣室から出てきた二人の女の子に釘付けになった。
 気づいた泉 小夜子(いずみ・さよこ)は、やっぱりなと苦笑する。
 隣の伴侶、泉 美緒(いずみ・みお)は監督係だけではなく、あちこちから向けられる視線を気にして、しきりに自分の格好が変ではないか確認していた。
「何もおかしなところなんてありませんわよ、美緒」
「それなら良いのですが……何やら見られているようで。あ、でも、見られているのは小夜子様のほうかも。大胆な水着ですもの」
 と、頬を染めて視線をそらす美緒。
 小夜子は胸の部分が大胆に縦に切れ込みの入った水着を着ていた。
 形の良い胸の谷間が美緒をドキドキさせていた。
 そんな美緒の頬を、小夜子は愛しそうに撫でる。
「美緒の水着も素敵よ。さ、行きましょう。泉で遊んでしまえば、視線も気になりませんわ」
 美緒は、白地にハイビスカス柄でパレオ付きの明るく夏らしい水着だ。
 小夜子が美緒の手を引き水際までエスコートする。
 爪先にひんやりした水が触れると、どちらからともなく笑みがこぼれた。
「美緒、もう少し進みましょうか」
「あ、あの、わたくしあまり深いところは……」
「わかってますわ。腰のあたりまでなら平気でしょう? それに、私がついてますわ。それとも、私では不安でしょうか?」
「いいえ。小夜子様が一緒なら安心です」
 それでも泳げないからか、美緒は小夜子の手をギュッと握った。
 二人が足を止めたあたりは木漏れ日が水面に反射する綺麗なところだった。
 美緒の手が透き通った水をすくい、パッと宙に散らす。
 光の粒が二人に降り注いだ。
 小夜子も同じように水を散らし、また二人で微笑み合った。
 そして気がつけば、夢中で水飛沫を飛ばし合い笑い声が響いていた。
「美緒ったら、なかなかやりますね」
 濡れた前髪を払うと、小夜子は悪戯な笑みを浮かべる。
 直後、スッと水に潜った。
「あ、あら? 小夜子さま……?」
 美緒が小夜子を探してきょろきょろしている時、彼女は美緒の背後に回り込んでいた。
 そして一気に浮上する。
「捕まえた! ふふっ」
 突然後ろから抱きしめられてびっくりする美緒だが、次の瞬間には小夜子の手の位置に顔を真っ赤に染める。
「あら、わざとじゃないのよ。ごめんなさいね」
 と言いつつ、楽しそうに笑う小夜子。
 彼女の手は、美緒の胸の上にあった。
 手に余る大きさの胸に触れる手に少しし力を入れると、美緒がぴくりと反応する。
「もう……水遊びで涼んだのに、そんな反応をされては体が熱くなってしまいますわ」
「で、でも、それは小夜子様が……っ」
「ダメですわ。続きは夜に……ね?」
 美緒を振り向かせ、軽くキスをする。
 小夜子がそっと離れると、美緒は周りに人がいる場であることが恥ずかしかったのか、熱をもった頬を隠すように両手でおさえた。
「熱が冷めるまで、もう少し遊びましょうか。その後はおいしいものでも食べましょう」
 小夜子が差し出した手に、美緒が手を重ねた。