リアクション
エピローグ
王宮に帰還したアイシャを、女王ネフェルティティは本当に嬉しそうに迎えた。
「アイシャ……よかった」
「ご心配、おかけしました」
ネフェルティティは、噛み締めるように、アイシャの両手を取り、その暖かさに微笑む。
「皆さんも、有難う。尽力してくださった方々にも、どうか感謝をお伝えください」
今この場にいるのは、三人の女騎士達とオリヴィエ、ハルカだ。はいっ、とハルカが代表して答える。
「――アイシャ」
ネフェルティティの声が改まり、アイシャはネフェルティティを見つめた。
「あなたは、この王宮を出て、新たな生活を始めなくてはなりません」
「……」
王宮を、出る。
まだ考えていなかった突然の現実に、アイシャは戸惑う。
確かに、もう女王でない自分は、今やこの王宮では部外者だ。
ネフェルティティは微笑んだ。
「私はあなたに、ホームをあげたかった。
日常の他愛のない喜びも悲しみも、人生を左右する程の幸せも絶望も、全てあなた自身で経験して行く為に。
あなたの役目は終わりました……。
ありがとう、アイシャ。どうか幸せになって」
そうしてネフェルティティは、後ろに立っているオリヴィエを見る。
「ラウル・オリヴィエ。
この子の後見人となることを条件に、今回の功績を以って、貴方に恩赦を出します。
今回の件は個人的な依頼でしたが、シャンバラの重鎮たる三人の騎士が見届け人となり、立会ってくれます。
貴方には、出所後の王宮での労働が義務付けられていましたが、ハルカ・エドワーズの卒業まで、それを保留とします」
きょとんとするハルカの隣で、オリヴィエは苦笑する。
「人選を誤っていると思いますが」
ハルカが在籍するイルミンスールで、卒業までの間、三人で共に暮らす。
そう理解して、驚きに目を見開くハルカを横目に、オリヴィエは軽く一礼した。
「謹んで、お引き受けいたします」
「あの、……よろしくお願いします」
促され、二人の元に歩み寄ったアイシャがそう言うと、ハルカは嬉しそうに笑った。
「これからは、アイシャさんも家族なのです」
「家族……」
自分に縁の無かった言葉に、アイシャは戸惑い、それから、頷く。
「……はい」
「アイシャ様、お幸せに」
「シャンバラの守護に身命尽くして頂き、感謝いたします。どうかご健勝で」
アイシャが女王だった時代も、騎士団の上層で女王に仕えた女騎士達は、優しい笑みを浮かべてアイシャを労った。
女王時代、自分を最も近いところで支えてくれた人達。
アイシャは、涙ぐみながら微笑み、頷く。
「皆さん……今迄、本当にありがとうございました」
◇ ◇ ◇
ザンスカール。
イルミンスールの森の街に、アイシャ達の新しい家がある。
アイシャ、ハルカ、オリヴィエの三人には、どうにも任せておけない気持ちがあり、彼等を心配する人々が探して選んだ場所だ。
ハルカは、イルミンスールの寮からこの家に引っ越した。
新居のお披露目も兼ね、毎日のようにアイシャの友人達が訪れていた。
セネシャルの技能をフル活用し、主にお茶会の準備をしたのは、
聖・レッドヘリングだった。
ハルカもそれを手伝う。
漆髪
月夜も手伝いたがったが、樹月
刀真が「絶対にやめろ」と止めた。
「えーっ、私だって上達したよ。私もハルカと一緒にお菓子作りたい!」
「月夜さんも一緒に作るのです」
後の惨状を予想もできないハルカがそう誘って、月夜の顔が輝く。
「私も手伝いたいです。これなら少しは、慣れているんですよ」
とアイシャも加わった。
アイシャには、メイドとして働いた、彼女自身の経験がある。
まだ完全に体調が戻っていないし、主役なのだから座って待っていればいい、等と野暮なことを言う者はなく、結局は皆で賑やかに準備をする。
楽しそうに食器の準備をするアイシャの横顔を見つめながら、彼女が生きている幸せを噛み締める詩穂に、のんびり外側から何もしないで様子を眺めていた黒崎
天音が、そっと近づいて囁いた。
「アイシャが元気になったら、そうだな……
普通の女の子がしそうなことを、一緒に沢山して欲しい。
個人としての心を、もっと育ててあげて欲しいなと思ってる。
沢山の人と出会って別れて、怒ったり泣いたり笑ったり、我儘を言ったり好きも嫌いも苦手も、そういう自分をもっと沢山発見できるように」
今迄、世界の全てを託されながら、限られた世界しか知らなかったアイシャ。
彼女に、色々なものを見せてやって欲しい。
アムリアナ元女王から膨大な記憶と思いを受け取り、行動してきた相手を子供扱いするのはどうかと自分でも思うが、最初に出会った時、怯えていた印象の強いアイシャに、幸せになって欲しいのは本心だ。
天音の言葉を、詩穂は心に刻むようにして深く頷いた。
「皆様、無事に目的を達成することが出来て何よりでした。
ささやかではありますが、私から祝いの品を振舞えたらと思います」
全員が席につき、もてなす役を申し出た聖が、そう言って、秘蔵のワインの栓を開けた。
この人数では少しずつになってしまうが、ラベルを見て、ハルカの顔がほころんだ。
「ハルカは未成年なので、はかせの分をちょっとだけ増やして欲しいのです」
「私の分も、お願いします」
ハルカとアイシャがそう言って、聖は微笑み、オリヴィエのグラスに最初にそのワインを注ぐ。
5000年ものの、ハルカがオリヴィエに振舞いたいと思っていたワインだった。
オリヴィエは少し苦笑して、ありがとう、と礼を言う。
「アイシャは、ハルカと同じ姓になるんだね」
詩穂の言葉に、アイシャは頷いた。
「家族になるのだからと、ネフェルティティ様に勧められて」
「よかった。名前だけの人は別に珍しくないけど、アイシャは以前苗字があったから、無くなっちゃったの、何だか居心地が悪いなって思ってたの」
「ハルカがお姉さんなのです」
「えっ、それはどうなんだ」
得意気なハルカに、刀真が言葉を飲み込む。
確かに実年齢的にはそうなのかもしれないが、どう見てもアイシャの方が、外見も内面も大人っぽい。
パートナー契約ではない。それはいつか、大切に思う相手と望んだ時に、と、ハルカとオリヴィエは口を揃えたのだという。
色々な他愛ないおしゃべりをしながら、アイシャの楽しそうな笑顔が嬉しい。
「アイシャはこれから、どうするんだ?」
「まだ……何も。これから考えます」
それがいい、と刀真は頷くが、一抹の不安も感じる。
何しろ、新しく家族となった二人は呑気過ぎて、この点に対しては役に立たない。
アイシャが自分で何かを選択するのを何十年でも待って、道を示してやるようなことはしないだろう。
けれども、心配することは無いはずだ。
「こんな日が来るとは思わなかったから……まだ、夢のよう。
でも、沢山、したいことがあるような気がするんです」
「一緒に行こうね。何処へだって。
詩穂と、皆と……」
「ええ、詩穂」
見つめる詩穂に、アイシャは微笑みを返す。
皆と共に、もう自分は何処まででも行ける。
こうして、一少女としてのアイシャの人生は今、始まったのだった。
大変お待たせいたしました。
この一つ前のシナリオで大遅延をやらかしてしまった影響で、こちらのリアクションの公開日も遅らせていただくことになり、皆様には大変申し訳ありません。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
今回のシナリオでは、4パターンくらいの結末がありましたが、皆様の奮闘の結果、アイシャも無事に癒され、新たな生活を歩むこととなりました。
これからは、皆様と一緒に、普通の少女としての人生が始まります。
アイシャの為に尽力してくださり、有難うございました。
ハデスさん以外の全員に、「アイシャを救う」の称号を贈らせていただいています。
持ち寄って頂きましたコモンアイテムは、“場の召喚”の成功の後、召喚状態の維持判定に使用され、参加者30人以上で200個以上集まったら、最後まで維持できる、となっていました。
ちなみに200個以下だったら、NPCが誰か一人、巻き込まれて500年前に取り残される予定でした。
その様な訳で、個人的に集計に非常に緊張しました、召喚の維持に有効とされたアイテムは以下の通りです。
古代の食器 27
古銭 19
古王国の生キャラメル 15
古代の書物 14
イアペトスの灯 13
アトラスの灯 7
蒼き涙の秘石 7
5000年もののワイン 6
古代の日記 5
古き誓いのリング 4
懐中時計 3
祝福の短剣 3
・各2
ゴアドーの石貨
タイミーヤの百弦琴
戦乙女のコスチューム
古王国のゲームの騎士の駒
錆びた鏡
漆黒の杖
純白の杖
上流階級のドレス
・各1
アルガゼルの衣
エンシャントクロース
エンシャントワンド
オスクリダ
ショコラトルのゴブレット
ゾディアックローブ
プリンス・オブ・セイヴァー
ルシュドの薬箱
鬼払いの弓
騎士団長のフルフェイスヘルム
騎士団長のフルプレート
騎士団長のランス
血盟の盾
古王国のゲームセット
古代魔術の指南書
最古の銃
信仰のメダル
咎人の鎧
覇者の鎧
覇者の剣
紋章の盾
シルフィスティ・ロスヴァイセ(オマケ)
+魔法陣の八方向展開で40個分換算
合計201個(尚、ハルカ持ち込み分は集計に入っておりません)
で、200個ギリギリでしたので、火山内部からの帰還がギリギリな描写となりましたが、全員無事に帰って来れました。
皆様のその一個が! 勝負を決めました! ありがとうございました。
また、このシナリオの解決に有効なマスターNPCは、ぱらみい(アトラス対応補助)と、ジール(秘宝持ちの召喚魔法能力者。コモンアイテム30個分換算)でした。
その他のNPCを呼んで下さった皆様も、このシナリオに関わらせて下さり有難うございました。
ちなみに、アトラスの影は、某腐った森にいる怒りに我を忘れたアレや、某モンスタープリンセス終盤のアレをぼんやりイメージしていたり、
火のオウガは、某黒い炭酸のCMに出て来たアレをぼんやりイメージしていたりしました。
今回も、全く個別メッセージを付ける余裕がなくてすみません。
また次のシナリオでお会いできましたら嬉しいです。