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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~

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【四州島記 外伝 ニ】 ~四州島の未来~
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【西暦2029年 1月4日】  〜紫月レポート〜

「――報告書、確かに頂きんした。今まで、ご苦労さんでありんした、唯斗」

 これまでの労苦を労うように、手づから、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)に酌をするハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)
 唯斗は、その杯を、静かに干した。
 ハイナは、その飲みっぷりに満足気に微笑むと、更に、唯斗の杯に酒を注ぐ。

「2022年に、始めて唯斗が四州島に渡って、今年で7年。毎年送ってもらっていた年次報告書も、これが最後でありんすね……」

 総選挙のあった年の翌年の、1月4日。
 三が日も明け、ようやく連日の年始参りから解放されたハイナの元を、唯斗は訪れた。
 年に1回ハイナに送っていた、年次報告書を届けるためだ。
 これまで、足掛け7年に渡り作成してきた報告書だったが、それも、今回が最後である。
 統一選挙がつつがなく終了し、四州連邦も安定期に入ったと判断されたため、唯斗の派遣も、昨年一杯で終了となったのである。

「いかがでありんしたか?四州島で過ごした、この7年は?」
「色々なコトがあった……。豊雄公の暗殺未遂に始まって、東野での調査、九能 茂実(くのう・しげざね)の謀反と、西湘軍の侵攻。雄信殿が首塚大神に取り憑かれ、南濘には魔神が現れた。そして、景継の死――」

 口の渇きを癒やすように、杯に口を付ける唯斗。

「そして、四州島記の公開、民主制への移行、開国、変革につぐ変革、そして統一選挙……。変わったモノ、変わらないモノ、どちらもあるが、あの島は良い方向に向かっていると、オレは思う。なぁハイナ、お前はどう思う?」
「あちきも、そう思うでありんす。まだまだ、あちき達外国の力添えは必要でありんすが……」
「そうだな。俺も求められれば、またいつでも駆けつけるつもりだ。でも、どうにかなると思んだ、きっと」
「あの未曾有の災いを乗り越えた国民でありんす。きっと、なんとかなりますえ」

 ハイナは、唯斗の杯を酒で満たすと、自らも杯を手に取った。

「では、唯斗。四州島の未来を祝して――」
「おお!四州島の未来を祝して――」

 互いに杯を掲げ、乾杯を交わす唯斗とハイナ。
「今宵の酒の味は、また格別だ」と、唯斗は思った。


 紫月唯斗がハイナ・ウィルソンに7年に渡り提出した、いわゆる『紫月レポート』は、四州連邦の大臣を歴任し、のち四州連邦第四代の大統領にも就任した御上 真之介(みかみ・しんのすけ)の『御上(みじょう)宰相日記』と並び、変革期の四州島に関する第一次資料として、四州島研究には欠かせない物となった。
 実際、四州連邦成立50周年記念事業として実施された『四州島後記』の編纂においては、この2書からの引用が大部分を占めている。